虹村主将と後輩と。

 


「やあおはよう虹村、今日もだせえリストバンドだな」
「ぶっ殺すぞ」

(大体こんな日常)

ハッハッハ、とキラキラエフェクトを入れても良いくらいに私は爽やかに朝の挨拶をしたのに、殺気の籠もった鋭い眼光とデコピンを食らった。
せめて朝の挨拶くらい返すのが礼儀じゃないのかと思ったが、「おはよう、ぶっ殺すぞ」なんて朝の挨拶は欲しくないのでやっぱりさっきのでいいやと思い返した。

「なんだかんださぁ、やっぱり愛着あるんじゃん」
「別に、そんなんじゃねえよ。ただずっとしてたから、今更外したら落ち着かねえだけだ」

言いながら、少しくたびれた文字通り虹色のリストバンドをほんのちょっと撫でた。

前にそれどこで買ったのって聞いたら、生意気な後輩達に押し付けられたんだよ、なんて言っていたが。そう言った時の表情は満更でも無さそうだったし、随分と可愛がって懐かれていたのだなあと容易に想像できた。

その後輩達の中の一人があのキセリョで、学生バスケ界を騒がせるキセキの世代、なんて呼ばれている奴らだと知ったのはついこの間の事だった。

「虹村はさあ、もうバスケやんないの?」
「俺にはそんな暇はねえの。今日もバイトだ」
「ふーん」
「バスケはやったよ、中学ん時に嫌ってくらいな」

虹村は教えてくれそうに無かったから、バスケ部のやつを捕まえてキセキの世代について聞いてみたら、出て来る酷いエピソードの数々。ねじ曲がってんなおい、というようなものばかりで。

多分、虹村はねじ曲がって行くのを近くで見ていたんじゃないんだろうか。それでもどうしてやることも出来なくて、それをほんの少し、悔やんでいるんじゃないんだろうか。

なんて、勝手に思ったりして。

「そういや虹村、進路調査書出した?」
「あれ締め切り昨日だったろ」
「げっ、マジで!? やっべ早く出さなきゃ……!」
「バーカ」
「うるさい! あ、虹村は就職? だよね?」
「まーな」
「じゃあまた同じクラスだといいねえ」
「半年も先の事言ってねえでとっとと職員室行けよ馬鹿」

からりと笑う虹村が、バスケットボールを持って走るのを。
見てみたかったなあ、と、不意に思った。

 
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