今吉さんと花宮さんと。

 


一体何から始まったのか、それは毎週水曜日の昼休みの書庫で行われていた。

「チェック」
「……あかんわ。負けた。ワシの負けや」
「へえ」
「じゃあ約束通りこの限定ラスクは頂きます」
「おーおー、持ってけ持ってけ」

それは各々偶然が重なって起こった、必然であった。

「多少は強くなったじゃねえか」
「ボードゲームは元々得意ですから」
「ふはっ、よく言いやがる。俺とやるか?」
「いえ、花宮さんとやると完膚無きまでに叩き潰されてやる気無くすんで。もし勝っても花宮さんは平和的解決をご存知無いので後が怖いですし」
「ははっ、よう言うなあ」
「生意気言うんじゃねえよクソガキ」

授業で使うらしい資料を書庫に取りに行くようにと担任に頼まれた花宮と、めったに人の居ない書庫で昼寝をしようと向かった今吉とが、誰にも邪魔をされないと踏んで埃臭い書庫の本の山で読書に耽っていた彼女に出会い。

ぐだぐだと取り留めのない会話をしたり、ボードゲームやカードゲームに興じる。
ただそれだけの関係で、今吉と花宮は彼女に名前を知られたが、二人は彼女の名前も、クラスも知らなかった。
ただ二人が知っているのは、今吉の在籍する三年ではなく、花宮の在籍する二年でもなければ、つまりは彼女は一年生だ、ということだけ。

名前を知らずとも会話は成立するのだから、特に訊ねようという気にはならなかった。彼女も、どうやら自分から語る気は無いようで、それはそれで構わなかった。

「ほなポーカーでもしよかー? 花宮も参加出来るで」
「「嫌です」」
「なんや自分ら息ピッタリか」
「今吉さんの勝ちと花宮さんの負けが目に見えてますからポーカーは嫌です」
「一言余計だクソガキ」
「それより今吉さん、私来週はクリームパンがいいです」
「来週もワシの負け確定かい」
「ふはっ、っとに口が減らねえガキだな」
「なにせクソガキですから」

妙に居心地が良いのは、事実だったのだから。


 
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