3年5組で研磨とわたし。

 


たまたまドーナツ屋の前を通りかかったから。
理由はとても単純で、自分の好きなアップルパイと彼女の好きなチョコレートのドーナツと、あとはいくつか適当に見繕ってお買い上げ。
そうしてそれをお土産に持って行った、の、だけど。

「……いらない」

今日の彼女は酷く不機嫌で、ぷくうと頬を膨らせて、こちらに背を向けラグの上に寝そべっていた。
いつもなら玄関に駆け寄ってくるはずだから、それが無かった時点でおかしいなとは思っていたけど。

「……ねえクロ、どうしたの、あれ」
「今日幼稚園見学に行ったんだよ。そしたら同い年の子達はみんな自分より小さかったからか、なんかショック受けて拗ねてんだ」
「あー……」

それは仕方ないなと思ってしまった。
なにせ父も母も長身なのだ。いずれそうなるに決まっているが、幼稚園入園前にして既にすくすくと順調に大きくなってしまっているのである。
余裕で平均以上の身長があるだろう。

「……おとーさんきらい」

ジト目でこちらを見ていた彼女の一言に、ぴしりと幼馴染みが硬直した。
馬鹿だなあと思いながら、そろそろと四つん這いでラグの上を進み彼女に近付く。

「……ドーナツ、食べよ?」
「……けんまのおみゃーげでも、いらないの」
「どうして?」
「……だって、もっとたくさんおっきくなっちゃう。なかまはずれ、みたい」

だからいやなの、とぷいっと顔を背けられてしまった。
振り向いて父親を確認してみたが、まださっきの嫌い、のダメージから立ち直れてなかった。なんて使えないんだ、あの親父。

「お父さんもお母さんも、ずっと大きかったけど、仲間外れにはされてなかったよ」
「……ほんとう?」
「ほんと。俺も、二人より全然小さいけど、そんな事しないでしょ」
「……だって、けんまだもん」

この子は一体俺をなんだと思っているのかなあと内心苦笑しながら、後一押しとばかりに、一緒にドーナツ食べたいなとお願いしたら、むくりと起き上がって、ぎゅうと抱きついてきた。

抱きかかえてテーブルについて、アップルパイをかじりながら、しかし。
膝の上で口の周りをチョコレートまみれにしているこの子が、そのうち自分の背を抜いて高くなるのかなと思うと、少々複雑な気分だった。


 
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