雑談でお父さんと私。

 


母が昔使っていたスケッチブックがどこかに無いだろうか、と、両親の寝室の押し入れを漁っている時だった。
最後の望みだと天袋を開くと、スケッチブック、と掛かれた段ボールを見付けて下ろそうと手繰り寄せた。
が、思ったよりそれは重たくて、盛大な音を立ててひっくり返してしまった。

「なっ、なんの音だ!? どうした!?」
「あー……ごめんお父さん、起こしちゃって」

居間でうたた寝をしていたはずの父が駆け込んできて、大体の状況は察したらしい。
呆れたように溜め息をついて、怪我はないかという言葉に頷く。
懐かしいもん出しやがって、と言いながら私がぶちまけた数冊のスケッチブックを拾う姿に、私も慌てて拾い始める。
そこで初めて、開けて落ちたスケッチブックの中を見て目を瞬かせた。

「……これ、お父さん?」
「おう。高三の頃だな。母さんが描いてくれたんだよ」
「へえ……」

全部で裕に30冊は下らないのではという数のスケッチブックは、どうやら全部父の絵姿で埋め尽くされていた。紙の色はすっかり褪せている。

「なんか、随分長いこと描いてたんだね」
「そんな事ねえよ。これ全部高三の一年間だ」
「えっうそ!?」
「ほんと。描くの速かったからなあ」

懐かしげに目を細めた父が、学生時代にバレーをやっていたのは知っているし、それでそれなりに華々しく結果を残したことも知っている。
それに引き換え、娘の私が言うのもおかしな話だが、母は少々鈍くさい。どうにも馴れ初めが結びつかないとボヤくと、父さんがぶっ飛ばしたボールが母さんの側頭部にクリーンヒットした、なんて笑いながら教えてくれたのは最近のことだ。

「これ、思い出の品ってやつ?」
「んー……まあ、そうだな。父さんの宝物だ」

これがなきゃ結果残んなかっただろうよとからから笑った。

ふうん、と手元のスケッチブックを適当に開くと、何人かの人に囲まれて、満面の笑みでガッツポーズをする若き日の父。
いつの絵なんだろう、と、裏返したところで。

「ただいまー。あら? 二人とも、どこにいるの?」

買い物から帰ってきた母に、慌てて居間に駆けていった父は、どうやらこれを見られるのは照れ臭いようだ。


 
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