中学一年生の終わり
2013/12/09 09:19

 

昔から体を動かすのが好きだった。
自分がなにかするのも好きだったが、プレーを見ている方がなんとなく好きだから。
そして、入学した中学が、たまたまバスケの強豪校だった。それだけだ。

それだけの理由で男子バスケ部のマネージャーに志願した私は、せっせと三軍で働く日々を送っていた。
せっかく仲良くなったマネージャー仲間の桃井は、幼馴染みらしい男子部員が一年生ながらに一軍入りしたのと同時に一軍へ引き抜かれていって、ほんの少しだけつまらない日々だった。

そんなある日のことである。

「私が二軍にですか」
「おう。一年の烏丸ってお前だよな」
「はい、烏丸円です」
「じゃあお前だわ。二軍のマネージャーが辞めちまってよ、今一人で回してんだけどどうしても回らねえって言われてな」

虹村主将の仰るには、お前一年だけど見た感じ一番よく働いてくれてるし、部員とのコミュニケーションも悪くなさそうだし、ということだった。

「ええっと」
「ああ、来週からでいいぞ。今二軍でやってる二年の奴には言っとくから。まあ来週からはそいつにこき使われてくれ」
「あ、はい。わかりました」

プレーに見応えがあるのは二軍の方がそうなのだろうけど、せっかく三軍の同級生や先輩達と仲良くなったのになあ、とかりかりノートにペンを走らせながら思う。
漸く各人の癖なんかも把握できて来たのになあ、とぼんやりしていると。

「烏丸さん」
「うわあっ!?」

ばっすんと音を立て、慌ててノートを閉じて振り向いた。
どくどくと逸る心臓を胸の上から抑えながら振り向くと、仲良くなりつつあった同級生の一人がいた。

「おっ、驚かさないでよ黒子……!」
「すみません、そんなつもりはなかったんですが」
「えっと……なんの用かな」
「君、呼ばれてます。赤司くんが、記録を回収しに来てて」
「げっ、ありがとう!」

赤司くん、とは。
桃井の幼馴染み同様、一年生ながらに一軍入りしているやつで。
更には学年主席というまあなんとも絵に描いたような優等生だ。
他にも一軍入りしてるやつらは二人居て、今年の一年は化け物揃いだなと誰かがボヤいていた。

まあまあつまりはそういうやつで、顔は綺麗だけどなに考えてんだかわかんねーんだよなあ仲良くないし、と思いながらノートを片手に赤司の姿を探した。

「あ、赤司くん」
「お前が記録係か?」
「うん。お待たせしてごめんね。これ記録ノートです」
「ああ」

ぱら、とノートを開いた赤司の表情が一瞬歪んで。はて、私はなにかおかしな事を書いたかなと首を傾げた。
しかし赤司はなにも言わずに、それからしばらく黙って何度かページを読み進めて、不意に顔を上げて体育館の中を見回して。

「……山田と小野はあいつらか」
「? うん。今あのゴール下で休憩してる。なにかおかしな記録があった?」

そしてのぞき込んで、固まったのは私の方だ。彼は今まで数ページ、何食わぬ顔でこれを読んでいたと言うのか。なにか悪い冗談だろう。

「…………」
「……お前、名前はなんだったかな」
「かっからすままどかです……」
「烏丸ね。と言うことは確か、来週から二軍に移動するはずだな? 虹村さんが言っていた」
「仰るとおりで……」

ふうん、と言いながらまたぱらりぱらりとページを捲る。

彼が手にしていて、何食わぬ顔で目を通しているそれは、私の妄想を書き綴っている発酵ノート……もとい、ネタ帳である。
弱冠13歳の私は、既にいつの間にやら腐女子という生き物にジョブチェンジしていたのだ。
今まではそれをひた隠し、当然三次元の友人達や先輩達を見てあらぬ妄想をしているなんてことが周囲にバレれば私の築いてきた交友関係は木っ端微塵だ。

つまり私は今この瞬間、赤司に中学校生活の平穏を握られてしまったことになるわけで。

どうしよう、と対して賢くない頭脳をフル回転させていたら。

「なあ烏丸」
「はい」
「確認したいんだけど、お前はこういう趣味があるのか?」
「…………はい」
「まあ当然公言しているわけではないよね」
「とんでもないです」
「そうか。うん」

ようやくノートを閉じて、しかしそれを小さく掲げながら。

「俺は個人の趣味について言及する趣味もましてや公言する趣味も無い。が」
「が……?」
「一つ、俺に頼まれてみないか?」

少なくとも私の中ではこの時ノーなんて選択肢は無く。
こくこくと頷いた私は。

「三軍から移動してきました、烏丸です。宜しくお願いします」

あの後赤司が私に対して言い放ったのは、「一軍のメンバーなら誰でも妄想に使え。勿論俺も例外ではない。その代わり一軍で働け。お前のやる気を二軍にやるのは勿体無い」と、言う言葉で。

「烏丸さん、宜しくね! 同じ一年生が来てくれて嬉しいよ〜!」
「よ、よろしくね、桃井ちゃん」

満足そうに笑う赤司の隣、興味なさげに眼鏡のブリッジを押し上げた緑間とうっかり親しくなるのは、まだ先の話。

 



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