赤司のお姉さん2
2014/01/10 13:19
「赤司」
「うん?」
「投了だ」
「おや」
いやに順調だった駒の動きに、緑間は始めから少なからず違和感を覚えていたのだ。あまりにも手応えが無さ過ぎると思っていた。考えすぎか、と思いながらも、進めていたのだが。
終盤に差し掛かった頃に彼は確信した。
フン、と鼻を鳴らして眼鏡のブリッジを押し上げた。
「お前、ふざけているのか?」
「いいや、まさか」
「わざと負けようとしていただろう」
「うん、そうか。気付かれてしまったね」
やっぱりこれは中々難しいな、と。
言いながらもどこか満足そうな表情で呟く。
はて、と緑間が首を傾げたのと同じタイミングで、ねえねえと黄瀬が飛び込んできた。
「赤司っちって兄弟居るッスか!? 双子! それか同い年の親戚!」
「双子の姉が居るけど?」
「騒々しいのだよ黄瀬。というか、知らなかったのか?」
「名前は!?」
「赤司征華」
「うわあああまじッスか!? ほんとにほんと??」
興奮した様子の黄瀬と、げんなりした様子の緑間に挟まれて赤司は薄く笑った。
黄瀬の様子には心当たりがある。
「どうせ、今日の補習で姉さんと一緒になったんだろう」
「よくわかったッスね赤司っち!」
「それ以外に接点もないからな」
将棋の駒を片しつつ、淡々と答える。
確か今日の補習は数学だったとぼんやり思いながら。
「なんか赤司っちのおねーさんが補習っつーのがメチャクチャ意外何スけど……しかもなんていうか、その」
「無気力だったろう。全体的に。そう言う人だから」
「う、うん」
「本当に知らなかったのだな。学内じゃ有名だぞ。正反対な双子だと」
緑間の溜め息混じりの言葉に苦笑する。確かに、ある意味その通りかも知れない。今まで言われてきたどんな言葉より柔らかい表現には頷いた。
「本当、あの人には適わないよ」
「え?」
「俺は敗北は知らないけれど、そうだな、悔しいと言うのはこういう気持ちなのかな」
「……赤司?」
「姉さんにだけは、勝ったことがないんだ。よく将棋の相手をしてもらうのだけど、一度も負けたことがない」
なんか赤司っち難しいこと言ってる? と訝しげな顔で首を捻る黄瀬の隣で。
緑間は、先程までの赤司の駒の運びを思い出していた。
ハッとした表情の緑間に、赤司は口元で小さく笑って見せた。
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