赤司のお姉さん
2014/01/09 19:51

 


私を生んでくれた母にはとても聞かせられる話ではないが、私はこの家に生まれたことを後悔している。

私には片割れがいる。
そして、片割れより先に産声を上げた私は戸籍上姉となり、片割れは弟になった。

3歳の頃。私は早くも、私はこの家に必要とされていない事を悟ってしまった。
父は弟には必ず全てにおいて頂点に立てと口癖のように言った。
私にはなにを言ったことは無かった。家を継がず、ましていずれ家を出る可能性の高い女子には興味も無かったのだろう。
本当にこの人と同じ血が流れているのかと幾度も思う程に。

はじめはそれなりに色々な事を頑張ってみたが、まあ父の反応はと言えば必ず、そうか、の一言で終わる。はて、会話とは一体何だったか。

なにやら馬鹿らしくなってしまって、もはや私の頭からは一生懸命という言葉は無くなった。
いつからか、私は影で「弟に才能の全てを持って行かれた可哀想な姉」というポジションになった。
私がどれほどひどい結果を出そうと、父はそれについて苦言する事もなかった。
私は女として生を受けた瞬間から、赤司というブランドを掲げることすら許されていなかったのだなとその時に思い知った。
だって、順調に頂点に立ち続ける弟はことある事にそれが赤司の人間たる姿だと言われていたのから。

ただ、私は彼を可哀想だと思っていた。否、私達は、可哀想だと。
この家に生まれなければ私はこんな無気力にはならなかっただろうし、少なくとも、私の弟は二人にならなかっただろうから。

幼い頃から重圧に晒され、彼は一人では耐えきれなかった。だから、弱いところを隠してくれる"もう一人"が、彼には必要だった。

「姉さん」
「なあに征十郎」
「将棋の相手をしてくれませんか」
「……いいわ。遊びだものね」

姉は可哀想な人だった。

自分とて褒められた記憶も叱られた記憶も無いが、姉はそもそも父と会話をしている事すら稀だった。

幼い頃は俺もあまり話をしなかったし、片割れと呼ぶには彼女のことを理解しきれなかった。
周囲の輩は必ず俺と片割れを比較して、優劣をつけ、最終的に片割れに「全ての才能を持って行かれた無能」というレッテルを貼った。常に無気力な言動に、少なからず俺もそう思っていた。

数年前までは。

たまたま詰め将棋をしていて、最後だけがどうしても出来ず、少し顔を洗おうと部屋をあとにして。戻る時に姉とすれ違った。珍しいと思いながらふと将棋盤を見たら、すっかり解けていた。

ぞくりと背筋が震えた。

あの人は決して無能などではなかったのだ。きっと、いつも俺の前に立つはずの人だった。幼い頃に父はそれを悟ったのかも知れない。だから、姉を貶めたのだ、なんて考えすぎだろうか。

「姉さん、前のテスト。また順位が三桁だったと聞きましたよ」
「うん、そうよ」
「満点を取るのだって、難しくない癖に」
「まさか。全力だったわ」
「赤司家の長子ともあろう人が、そんな事は無いはずですよ」

いつの頃か、弟は私に対して苦言を呈するようになった。

小さな好奇心が、私に本性を見せろとせっついてくる。それと同時に、もう一人の弟が、私をねじ伏せたいという闘争心を以て責める。お前の所為で彼は生まれたのだと。

「あら」
「……王手」
「投了、ね」

またいらっしゃいと姉はひらひら手を振った。

ああ、また今日も思い通りに勝たされた。


 



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