事後、名前はソファーに横たわったままぼんやりとしていた。


フーゴは隣に座り、頬に手をかけて優しく撫でてくれている。


その横顔と情欲にとり憑かれた先程の彼は上手く重ならない。


繊細そうな上面の、内に秘められた衝動性。


殺人ウイルスを撒き散らす彼の分身を思い出しながら、名前はもしかするといつか彼に酷いことをされるかも知れない、と考えてみた。


さっき突然抱かれたみたいに、気付かない内に怒らせちゃって、いきなり襲いかかられるかも。


自分に乗りかかって暴行する彼を想像して、名前は何故か意外に悪くなく感じた。
それどころか寧ろ数分前までの快感がぞくぞくと蘇ってくる。



フーゴになら殴られたって、蹴られたって、構わない。

身体の内側からどろどろに溶けて、死んでしまってもいい。



そこまで考えた途中で、名前は今日の本題を思い出した。


「ねえ、資料いらないの?」


「あーっそうだった!」


名前の言葉にフーゴは飛び上がった。頬を優しく愛撫していた手がさっと離れ、テーブルの上のファイルを荒々しく掴む。


「僕は何をボケッとしてたんだろ、時間がないのに!
名前も名前です、覚えてたならもっと早く言ってください」


"時間を使うようなこと"を仕掛けてきたのは彼なのに、イライラしているフーゴはそんなことを言う。




「自分の部屋に帰る暇もない」と彼女のパソコンを借りて作業に取り掛かった彼のために、名前は既に冷めてしまっている紅茶のポットを暖め直しにキッチンへ向かった。




冷静に見えて衝動的で、紳士的に見えて横暴だ。

名前はフーゴのその二面性と危うさを気に入って、そして愛している。

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