ドアを開けたギアッチョは、名前の姿を見とめると一瞬驚いて、すぐ居心地悪そうに目を逸らした。 「外、寒くて。温めてもらおうかな、って」 言い訳のように言う名前にギアッチョは苦笑する。 「冷気使いのこのオレに温めてもらうだと? 相変わらず面白いことを言う女だな」 言葉自体は嫌味のようだったが、その割に口角が上がっているギアッチョの顔に、彼の機嫌がそんなに悪くないことが分かって安心した名前はにこりと微笑んだ。 「お邪魔します」 暖房のきいた屋内に招き入れられ、不必要になった分厚いコートを脱いで靴箱の上に掛ける。 寒さと不安から解放されてほっと一息つこうとした時、手をこの部屋の主によって乱暴に引かれ、名前はそのまま抱きすくめられた。 「温めて欲しいんだろ」 名前の手から離れ、床にどさりと落ちたビニール袋からレモンが一つ転がった。 玄関でされるなんて全然ロマンチックじゃない。 これが映画なら落第点だ。 それに、私もあなたもまだ一言も謝ってないのに。そう考える名前の唇は割り開かれ、咥内には既にギアッチョの温かい舌が侵入していた。 なめらかな動きで歯列をなぞられ、名前も積極的に舌を絡めていく。 ギアッチョの指が胸元のボタンにかかった時、名前は上着とボトムがちぐはぐな、くたびれた部屋着のまま出てきたことを思い出した。 こんなことになるのならこの間買ったばかりの新しいスカートを履いて来ればよかった、と頭の端にちらりと浮かべたが、ギアッチョが剥ぎ取った服をどうでも良さそうに床に投げるのを見てまあいいかと考えを変える。 しかし彼の手によって剥き出しにされた下着も上下別の色気のないもので、付き合ってからずっとデートの時は可愛い下着を選ぶよう心掛けていた名前は思わぬところでボロを出してしまったように感じて流石に恥ずかしかった。 けれどギアッチョは何も言わず、それも直ぐに取り払われた。 いつものギアッチョならからかってきそうなのに。 そんなことを考えてられないくらい今の彼には余裕がないようだ、と名前は思った。 実際、名前の胸をまさぐるギアッチョの手つきはいつもよりたどたどしかった。 さらっと一通り通す程度の愛撫の後、ギアッチョは名前の手を壁につけさせ、こちらにお尻を向ける格好にした。 自分だけ裸で、ギアッチョはジーンズをずらしただけのほとんど着衣のままなことに名前は顔を熱くする。 「デカい声出すなよ。外とはドア一枚だけだからな」 時刻はまだ昼過ぎだった。 この部屋は二階だが、今の時間、アパートの前の道は人がたくさん行き来する。 自分のはしたない声を誰かに聞かれてしまうかも知れないと考えると、名前は下半身の滴りが一層増すのを感じた。 指でそこを慣らしていたギアッチョにも興奮を悟られる。 「やらしー奴」 ギアッチョの言葉に、名前は彼に「淫売」と言われたことを思い出してしまう。 しかしそれは同じ口から発された言葉なのにあの時とは全く違う甘い響きを持っていて、なじられたというのに名前は安堵した。 それと同時にギアッチョのことが愛おしくてたまらなくなる。 言葉で確認しなくても、二人はもう元通り仲のいい恋人に戻っていた。 「ね、もういれて」 名前の要求に、ギアッチョは焦らすことなく直ぐに応じた。 後ろからギアッチョの硬くなったモノが進入し、名前の襞がそれをやんわりと包み込む。 久しぶりの交接なのに粘膜と粘膜がしっとりと馴染んでぴたりと合わさる感覚に、名前は「自分のナカはギアッチョの形になっているんじゃないか」と妙なことを考えた。 初めての時は圧迫感に慣れなくて何度も中断するほど苦労したのに。 それに、ギアッチョに合わせて変化したのはそこだけではない。 いつだって本音をそのまま言おうとしない不器用なギアッチョに何度も困らされていたのがいつの間にか、体を触る手の動きがぎこちないというだけで、彼が余裕がなくなるほど名前との関係の修復を喜んでいることまで分かるようになったのだ。 こんなに彼に慣れてしまったんじゃ、別れて違う男と一緒になってもどこかしっくりこない違和感を覚えてしまうんだろうな、と名前は想像した。 それは自分だけではなく、ギアッチョもそうだといい。 ギアッチョのような素直じゃない人とここまで上手くやっていける女は私以外にいないはずだ。 名前がそんなことを考えているなんて全く知らないギアッチョが、彼女の腰をぐっと引き寄せて強張りを奥にまで到達させる。 腹部に息衝くその存在感に名前の空想は段々と意識の外へ追いやられていく。 狭い玄関でギアッチョは小刻みに腰を使い、アブノーマルな場所での行為だということも手伝って、二人はいつもよりほんの少しだけ早く、同時に達した。 |