「愛してる、名前」

私もだよ。

思わず答えてしまいそうになるのをぐっとこらえ、名前は下唇を強く噛んだ。
薄く滲み出る血は、彼を信じて裏切られる心の傷の代わり。

本当はこの身体と同じように心まで開放して彼と愛し合いたい。

自分があの男を忘れたいのか、忘れたくないのか。名前はドッピオに抱かれる度にそれが分からなくなる。

最初はドッピオの優しさに過去を拭い去って貰おうと縋って、その反面彼の中のあの男の影を追い求め、そして傷ついていた。
けれど時が経つにつれ、名前はドッピオ自身への想いで胸を痛めるようになっていた。

もしかすると既に愛情は全てドッピオへ向けられていて、過ぎ去った恋への執着心だけが残っているのかもしれない。
しかしそうだとしても、あの日味わったあの苦しみを名前はまだ忘れられそうになかった。

胸が締め付けられる。
その苦痛を紛らわせるため、自ら腰を揺らす。

愛してはいけない。でも愛している。
信じさせてくれない彼を憎んでさえいるのに、身体はどこまでも彼を渇望している。

頭の中で矛盾が快楽に掻き混ぜられて、中に挿入された彼の性器の動きと重なり、そして全て溶けていく。

名前の両脚が小刻みに痙攣すると同時に、中へ白濁が放たれた。


目頭が熱い。

零れた雫は洗い流され、排水溝へ吸い込まれていく。
シャワーの湯はあの日の雨より温かかった。



ドッピオの頬を濡らしている水は、名前のそれと同じように塩辛い。
そのことに彼女が気付くことができれば、二人は今より幸せになれるはずだ。

全てを知っているディアボロは、それでもまだ少しだけ彼女の心を縛っておきたくて、放出後でぐったりとしたドッピオの意識を奪い、逞しいその腕で名前の身体を抱いた。

「愛してる、名前」

数ヶ月前、彼女が心底求めたその低い声は、彼自身の力で時と共に吹き飛ばされ、そして消えていった。

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