ドッピオは始め、自分の置かれている状況を上手く理解できていなかった。

朝気がつけば知らない部屋にいて、全裸の女と一緒にシーツにくるまっていた。
そんな普通なら蒼褪めるべきところで、しかしドッピオの手足は何故か、急いで服を着てその場から逃げ出すことではなく、寝ている女の髪を優しく撫で、その細い足に絡むように寄り添うことに使われた。

ドッピオは全く知らない、見たこともないはずの女の寝顔に「ぼくが傍にいてやらなくては」と感じたのだ。

そのままずるずると彼女とこんな関係になって、ドッピオは最初の内、自分の心の奥底から勝手に沸いてくる彼女に対する強い感情に戸惑いを感じていた。

彼女が笑うと「自分の身に代えてもこの女を守りたい」、涙を零すと「閉じ込めて壊してしまうまで愛したい」と、まるで自分が誰か別人になってしまったように激しく、時には攻撃的な愛情にとり憑かれる。
初めての夜のように情事の最中に記憶が飛んでしまうことも度々あった。

そんな「自分の中に潜む誰か」のような不気味な感情に頭を悩ませていたドッピオだったが、名前と逢瀬を重ねる中で段々と彼女に対して穏やかな好意を持つようになり、そのうちに自分の内側から滲み出てくる「不思議な愛情」も自分の感情の一つとして受け入れた。

そうして名前を愛し始めていく過程で、ドッピオは次第に彼女の内面の傷が見えてくるようになった。
ベッドで身体を求めてくる名前はどこか必死で、自分に抱かれることで何かから救われるとでも思っているようだった。
しかしその反面、彼女の表情は夜を重ねる毎にどんどん色を失っていく。


「シャワー、先に浴びる?」

「ううん、一緒にはいろうよ」

何かを諦めたような顔で笑う名前に、まだ男としての経験の多くないドッピオはただ見て見ぬふりで、いつも通り優しく接してやるしかなかった。




「あ…」

敏感な部分を指が掠める度に腕の中で名前が声を漏らした。

バスルームの椅子へドッピオが座り、その上へ名前を抱え込んで身体を洗ってやっている。
肩から胸、腹部、腰、太腿と、上から下へ指を滑らせ、なめらかな白い泡を剥き出しの肌へ纏わせていく。

鏡へ映る彼女の顔は瞼を閉じ、何か昔の情景を思い出そうとしているかのように見えた。


「気持ちいい?名前」

「う、ん」

そう言って小さく頷いた名前の、秘部の周辺には既にねっとりとした透明の液が絡んでいる。

それを確認すると、ドッピオはシャワーから温水を出し放しにして泡を流し、彼女の身体をくるりと回転させて対面座位の体勢でゆっくりと挿入した。


「名前、あったかい」

「気持ちいい。もっと、奥に…」

「名前」

名前、名前、名前。

ドッピオは何度も彼女を呼ぶのに、彼女は決して行為の最中に彼の名を口にしようとしない。

そのことに気付いてしまったドッピオは、しかし彼女にそれを何故かと問い質すことはできなかった。
訊かなくても分かっている辛い答えをわざわざ彼女の声で聞こうとは思わない。

腕を首に回し、下から突き上げられる度に不安定に揺れる身体を支えようと懸命に絡み付いてくる名前。
結合部からは、シャワーから放たれた水が跳ねるのとはまた違った水音が響いている。


裏切りを知ったというのにそれほどショックを感じないのは、彼女が自分に他の男を投影していることに前々から心のどこかで勘付いていたからだ。

彼女には自分の他に愛している男がいる。

そのことを悟ってもドッピオは名前のことを見捨てる気にはなれなかった。
まだ若く未熟なドッピオにとって、今まで二人で過ごした時間は彼女をすっぱりと忘れてしまうには長過ぎた。


「愛してる、名前」

瞳に自分を映しながら、心はその奥の別の誰かを見ている名前。
ドッピオはそれを知りながら、それでも彼女を強く抱き締める。

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