※べた甘注意※




「うわぁ…」
「・・・・・・・・・・」
「すごい人だな……」


ハッピーショッピングデイ後編


オレ、円堂守は今チームメイトの豪炎寺修也と人ごみでごった返す駅にいた。
それというのも、オレが女の子になってしまってからスパイクとグローブのサイズが合わなくなってしまい、豪炎寺に買い物を一緒してくれないかとお願いしたからだ。

「今日は日曜日だしな。」
「それにしたっていつもより多くないか?」
「・・・そういえば、今日は隣町ででかいイベントがあるって夕香が言ってたな…」

豪炎寺が遠くをみながら呟く。
そういえば、数日前から新聞に広告が入っているのを見たような気がする。

「うう…この人ごみの中電車に乗るのか…」
「…かなりイヤだが仕方がない。サイズの合わない道具を使っていたらケガの元だしな。」

「行くぞ」と行って豪炎寺が人ごみに紛れていく。
慌ててオレもその後を追った。

決して大きくない駅に人が次々入っていく。
人がぎゅうぎゅうと押し合って、先が全く見えない。

オレは豪炎寺とはぐれない様に必死で付いていく。
でも、豪炎寺はどんどん先に進んで見えなくなってしまう。
いつもなら、こんな事ないのに。

女の子って歩幅小さいんだったっけ…

フットボールフロンティア当日、秋と一緒にスタジアムを歩いて回ったことを思い出す。
オレが1歩歩くのに、秋は2歩くらいかかって一生懸命付いてきてたから速度を緩めて歩いたんだったっけ…

そんな事を懐かしく思う暇もなく豪炎寺の姿が見えなくなってしまった。
やっぱり女の子なんて全然いいことない…と泣きそうになっていたら、大きな手がオレの腕を掴んで、そのまま力強く引っ張られた。

「すまん。女の子は歩幅が小さいんだったな。」

聞きなれた低い声が耳元で聞こえて、よろけたオレは声の主に抱きとめられたのだと分かった。

「豪炎寺…」

声の主の名前を呼ぶと、やわらかく目を細めて豪炎寺が微笑んだ。
その顔は…反則だと思う…

「後ろを見たらお前が居ないからびっくりした。」
「ごめん…思った以上に歩きにくくて…」

豪炎寺から体を離しながら言う。
すると豪炎寺はすこし考えた後、さっときびすを返した。
それと同時にオレの手が暖かいぬくもりに包まれる。
豪炎寺がオレの手をとって歩き始めたのだ。

「こうしていたらはぐれないから。」

まっすぐに前を見ながら言った。
豪炎寺の耳が赤い。
それを見てしまって、オレまで真っ赤になるのが分かった。
つないだ手と手が熱い。
オレの顔が赤いことが伝わってしまうんじゃないかって、ドキドキする。
頼むから…後ろを向かないでくれよ?



二人してもみくちゃになりながらなんとか切符を買って、電車に乗り込んだ。
駅であれだけすごい人だったんだから電車の中もすごいだろうと思ってはいたけど想像以上だった。
これでもかと電車が悲鳴を上げそうなほど人を詰め込んでいるので全く身動きが取れない。
こんなんじゃ、目的地で降りられるかも怪しい。
「隣町で降りられるかな?」とオレが呟くと、「たいていの人が隣町のイベント目当てだろうから大丈夫だろう」と豪炎寺が言った。
確かにその通りだと思ったが、また下車の時にもみくちゃにされるのかと思うと少しげんなりした。
顔に出ていたのか、頭半個分上の豪炎寺がくくっと笑って「お前わかりやすすぎ」と言ってオレの頭を撫でる。
ばかにして!と怒ろうかと思って豪炎寺の顔を見上げると、あんまり優しい顔で微笑んでいるものだから何にも言えなくなってしまった。
俺は恥ずかしくて、ドキドキとうるさい心臓を豪炎寺に悟られないように俯いた。

しばらくぽつりぽつりと話をしていると、カーブに差し掛かったらしい。
がたたんと電車が揺れてぎゅーと人に押しつぶされる。
「やっぱり人多いよな」と豪炎寺を見上げると、豪炎寺はオレを見つめた。
ぐいっと腰に手を回されて、何が起こったか分からないまま場所を入替えられて、扉に背を預ける形になる。
豪炎寺は片手を手すりに、もう片方をデニムの裏ポケットに突っ込んでいる。
もう一度がたたんと電車が揺れて、人がどっと押し寄せてもオレは豪炎寺が庇ってくれるおかげで全然苦しくない。

「豪炎寺いいよ!お前が苦しいだろ」

オレが目の前の豪炎寺の胸を押して言う。
するとまたがたんと電車が揺れて豪炎寺の肩口にオレの頭がこつんと当たる。
必然的に耳元に豪炎寺の息がかかる。

「いい。気にするな」

低い声でささやかれれば、オレは体中が熱くなって力が入らなくなってしまった。
もうどうしようもないくらいドキドキして、早く駅に付いてくれとぎゅっと目を瞑った。

程なくして目的の駅に着き、人の波に流されるようにホームに放り出される。
その間も豪炎寺はずっとオレの手を握ってくれていたのではぐれる事はなかった。
嬉しいけど、やっぱりまだどこか恥ずかしい。

「こっちだ」と豪炎寺が手を引く方に付いて行けば、なんなく駅の出口にたどり着けた。
ようやく人ごみから開放されて、二人共ほっと一息つく。
「人ごみをさけて少し遠い出口に出たからな…店まで少し歩くが…いいか?」
「もちろん!いいぜ!」

オレがそう言って笑うと豪炎寺も微笑む。
「じゃあ行こう」と二人で歩き出す。

スポーツ用品店は、大抵の人が目的としているイベントとは逆方向にあるようで、俺たちが歩いている道は人がそれほど多くなかった。
人ごみを抜けると、口数も多くなって二人で色々な話をした。
サッカーのこと、夕香ちゃんのこと、昨日のお笑い番組のこと。
楽しくて楽しくて仕方がない。
ふと、豪炎寺が一瞬無表情になる。
どうしたんだろうと思っていると、オレの左を歩いていた豪炎寺が何も言わずにオレの右側に移動してきた。

「?どうした?」
「別になんでもない。」

オレが聞くと豪炎寺はそっけなく答える。
なんだったんだろうと思って豪炎寺を見つめる。
豪炎寺の向こう側では車が走っている。
今日は日曜日で車通りがいつもより多いようだ。
もしかして…

「豪炎寺…もしかして危ないと思って場所変わってくれたのか?」

不意に聞くと、豪炎寺は一瞬びっくりしたようにこっちを見て「そんなことはない」とそっぽを向いてしまった。
口では隠せても、豪炎寺の真っ赤な耳が正解だと主張している。

「えへへ…ありがとう豪炎寺」

と言って笑えば、ちらりとこちらを振り向いて、少し困ったような、恥ずかしいような顔で微笑んだ。



お目当てのスポーツショップに着いてからは早かった。
オレも豪炎寺もフロアにつくなり一目散にサッカーグッズのコーナーへ走り、新モデルのスパイクに見惚れてため息をつく。
定員さんにも見てもらって、使いやすくて足にも負担の少ないいいスパイクが買えた。
グローブは手に馴染んだものがいいと思って、今まで使っていたメーカーのレディースのモデルを買った。
買い物が終わっても店内の商品を見て回っていたらどんどん時間が過ぎて、気が付けばもう帰省予定の時間が迫っていた。

「いいものが買えてよかったな」

店の外に出て豪炎寺が言う。
オレはスパイクとグローブの入った袋を大事に抱いて「うん!」と笑った。
今日は本当に楽しかった。
ドキドキしたり恥ずかしかったり大変な一日だったけど、豪炎寺と一緒に居れて本当に幸せだった。

満足そうに笑うオレを見て豪炎寺も微笑む。

そして、「じゃあ…そろそろ帰るか」豪炎寺が駅のほうを見て言った。

その言葉に胸が切なくなった。
お別れしなくちゃいけないのは分かっている。
でも…

「?円堂…?」

黙って俯いてしまったオレの顔を豪炎寺が覗き込む。


「オレ…まだ…」

帰りたくない…

そんなこと言ってしまったらきっと豪炎寺を困らせてしまう。
朝からバタバタさせてしまったし、電車の人ごみもすごかったし、相当疲れさせてしまったに違いない。
それに今帰れば、イベント帰りの人たちと鉢合わせることなく電車に乗れるだろう。
豪炎寺は優しいからオレが頼めばまだ一緒に居てくれるに違いないけど…
でも、豪炎寺を困らせてまで一緒に居たって意味がないよな。

帰ろうって言おう。

そう思って顔を上げようとした瞬間

「俺はまだ円堂と一緒に居たい」

勢いよく顔を上げれば、まっすぐに豪炎寺がこちらを見ている。
豪炎寺は口で多くを語らない分、目で訴える。
今オレの方を見ている目は真剣だった。

「オレも…オレもまだ豪炎寺と一緒に居たい!!」

オレが勢いよくそう言うと、豪炎寺は今日一番優しい目で微笑んだ。

「向こうのイベント、屋台が出ているみたいなんだ」

そう言った豪炎寺の手には、先ほどスポーツ用品店で配っていた、今日のイベントのチラシが握られていた。

「一緒に行かないか?」

そういって手を差し出される。

オレにはこの手を跳ね除けるなんて出来るわけがない。

「うん!」

俺は笑って豪炎寺の手をとった。
その手をふわりと握ってくれる。


今日の豪炎寺は甘い。
行動から笑顔まで何から何までとことん甘い。
オレが女の子だからこんな風に接してくれるのだろうか?
もしそうなら女の子もそんなに悪くないかもしれない。
そんな事を思いながら豪炎寺の手を握り返して俺達は駆け出した。





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豪炎寺は優しいと思います。






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