「へぇ…お前女のくせに結構やるじゃん」
「は?何あんた」
「俺と一緒に来いよ」





不敵なアンタ





「日本代表不動選手、華麗なプレーで抜き去りました!」


渋谷センター町。
街頭の大きなテレビの前で歓声が上がる。
ぶらぶらと何をするでもなく町を歩いていた小鳥遊忍は、不意にテレビのほうに顔を上げた。


「へぇ…あいつ頑張ってんじゃん」


今まさに大きなスクリーンを独占している男。
その男と初めて出会ったのは、もう随分と前の話だ。





「へぇ…お前女のくせにけっこうやるじゃん」


夕暮れの公園。
井戸端会議の奥様方は夕飯の仕度に戻り、遊んでいた子供達はとうの昔にそれぞれの家に帰っていった。
賑やかだった公園は今、小鳥遊一人が壁にボールをぶつける音だけが響いていた。


「は?あんた誰だよ?」


もくもくと壁にボールをぶつけていた小鳥遊に突然掛けられた声。
その声は、ひどく相手を見下したような声色で、声を掛けてきた張本人も人をあざ笑うかのような態度を隠しもしないで笑っている。
そのふてぶてしい態度の男を睨み付ける。
けれど男は怯むどころか、ますます口の端を吊り上げて嬉しそうに笑った。


「はっ!気が強いねぇ〜ますます気に入ったぜ。お前、俺について来い」


笑みを崩さないまま言う。
ポケットに両手を突っ込み、ニヤニヤと品の無い笑を浮かべたその男の態度は、はっきりいって人に物を頼む態度ではない。


「はぁ?意味わかんない…誰があんたなんかについて行くかよ」


そう吐き捨てて、男に背を向けボールを蹴る。
ボンと音を立てて壁にぶつかり跳ね返ったボールと胸で受け止めようとする。
が、それは目の前を風の様に通り過ぎた何かによって遮られる。


「…っな!?」


驚きに目を見開きつつ振り向けば、先ほどの人を見下した笑顔のまま、男がボールを足で操っていた。


「あんた…」


「どうだ?ついて来る気になったかい?」


にやりと人の悪い笑顔で笑う男。
元より気の強い小鳥遊は、その男の態度に頭に血が上るのが分かった。


「それくらいで偉ぶってんじゃねぇよ…!」


そう言って俊敏な動きで男に詰め寄り、さっとボールを奪う。


「へぇ…」


男は、少しだけ驚いたような声を上げる。
だが、それは一瞬で終わり、また人の悪い笑顔で口の端を持ち上げたかと思えば、小鳥遊の足元のボールを奪い返す。


「あ!」


「思ったよりやるじゃん」


あっさりと奪い返されてしまったボールに、驚きの声を上げる小鳥遊。
その小鳥遊を可笑しそうに見つめる男。


「くそっ…!」


「ほら、ボールはこっちだぜぇ〜」


再度男に詰め寄るが、男は華麗な足捌きで小鳥遊にボールを触らせない。
先ほど簡単にボールを奪えたのは、油断していたのか、それともこの男が手を抜いていたからか?
小鳥遊の頭に屈辱的な考えが浮かぶ。
そんなことがあってはならない。
私は、天才と呼ばれたミッドフィルダーなのだから。

小鳥遊の負けん気に完全に火がついた。
必死にボールを奪いに来る小鳥遊を、まるで子供をあやすように弄ぶ男。

二人の勝負は、ボールが見えなくなるまで続いた。


「おいおいどうした?まだボールは俺様の元にあるぜ?」


ハァハァと肩で息をする小鳥遊を余裕の顔で見下ろす男。
その男をきっと睨み付ける小鳥遊。


「だまれ…あんただって余裕ぶってるくせに相当疲れてるじゃないか…」


そう言って口の端を上げれば、一瞬男は笑を引っ込め、ちっと舌打ちをしてそっぽを向いた。
その態度に、なぜだか少し勝ったような気持ちになった小鳥遊は、満足気に微笑んですっと背筋を伸ばした。


「いいよ」


「あ?」


よく通る声でそれだけ口にする。
男は、機嫌が悪そうに小鳥遊に視線をよこす。


「着いて行ってあげるよ、あんたに」


そう言って不適に笑えば、男はいじわるそうに笑って


「連れて行って下さいだろ」


そう言った。





「あーっと!ここで不動選手のするどいパスが通った!」


「いやぁ〜今のパスよく通りましたね。鬼道選手よく走りましたよ」


大きな街頭のスクリーンから興奮した実況の声が上がる。


バァーカ。
あれはあのドレットが良く走ったんじゃなくって、不動があいつが必ず取れる絶妙のパスを出したんだよ。

全く分かってないな


そう頭の中で悪態を吐く。
スクリーンには不敵に笑う不動の姿が映っている。
その自信に溢れた笑顔に思わず苦笑する。


「あいつのプレースタイルも変わらないな。自分勝手で分かりにくくて…」


誰よりチームを把握して、誰より頼りになって


ムカつくから絶対言ってやらないけど。

スクリーンには、不動の絶妙のパスによって、勝ち越し点を上げた日本代表の面々が写る。
チームメイトにもみくちゃにされ、迷惑そうな顔をする不動。


「日本代表なんて、あんたのガラじゃないと思ってたけど…」


けれど、どこか嬉しそうな不動の顔。


「良かったじゃん…不動」


初めて出会った時のあの男は、ナイフのような男だった。
誰も寄せ付けようとしないで、自分が傷つかないよう相手を傷つけて。
あの男が、あんな顔で笑うなんて。

試合再開したスクリーンを見上げながら微笑む。

あんたを分かってくれる仲間が出来てよかった。

ぼんやりとスクリーンを見つめていると、不意にポケットの携帯電話が震える。
ビビットピンクの携帯を見れば、「とうこ」の文字が。


「もしもーし」


「よう!小鳥遊!今日午後から暇?暇だよな!?日本代表女子チームの練習するからさ!来いよな!絶対な!!」


こちらが話す暇を与えないまま、マシンガンのように自分の用件のみを伝えて切られる電話。
ツーツーと通話終了を告げる電子音が聞こえる携帯を見つめ、ため息を吐く。


今日は、夏物の服を見に行こうと思ってたんだけどな…


そんな事を思いながらも、足は日本代表女子チームのいつもの練習場である河川敷に向かう。

背を向けた大型スクリーンから歓声が上がる。


「不動選手見事なターンだ!」


「いやぁ〜あのターンは中々できませんよ」


実況と解説が歓喜のため息を漏らす。


あたりまえだ。
あの男を誰だと思っているのか。
このアタシを負かした男だぞ。


口の端が自然と上がる。

人でごった返す渋谷の交差点。
人の波と逆方向に進む小鳥遊。
その肩は、早くボールを蹴りたくて仕方がないと浮ついている。
スクリーンの歓声を背に、彼女の思う事は一つ。


不動決して誰にも負けるな。
必ず世界一になって帰って来い。
そして、世界一になったあんたを倒すのはこのアタシだからな!


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不動さんと小鳥遊さん。
ピクシブで不動さんと小鳥遊さんに滾った記念(何それ)
この二人はあれですね!かっこよすぎるとおもうの!!!!!!






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