「あ…」

「どうした?」

「雨だ…」




にわか雨の時間




「じゃあ…豪炎寺俺そろそろ帰るな」


オレがそう言って、ベッドにもたれ掛かって雑誌を眺めていた豪炎寺に声を掛ける。
ぱらりとページをめくる音がして、ゆったりと視線をこちらに向ける。


「もう帰るのか?」


真っ直ぐにオレを見つめる瞳は、室内の薄暗さに隠れて表情が窺い知れない。


「ああ…雨も降ってきたし…」


そう言って、窓辺に手をついていたオレは視線を目の前の窓に移す。
雨雲のせいで随分薄暗い窓の外。
しとしとと静かに降り続けるにわか雨の音が静かな部屋に響く。
窓の外から見える町並みは、いつもと違って灰色で物悲しい。
その物悲しい灰色の世界をぼんやりと見つめる。


「…もう少しここに居ろよ…」


オレの顔と、外の町並みのみを写していた窓の端に、プラチナの髪が写り込む。
そちらに振り返ろうとすれば、その前に暖かな腕が伸びてきて、オレを優しく捕まえる。
ふわりと包まれた豪炎寺の腕は、どこか冷ややかな雰囲気を漂わせる雨の日の雰囲気と全く似つかわしくない暖かさだ。
とんと豪炎寺の胸に頭を預ける。
オレを後ろから抱きすくめている豪炎寺は、オレの髪に唇を落とし


「円堂…」


甘く優しく俺の名前を呼ぶ。


「だけど…もうすぐ暗くなるぜ…」


その甘い響きに胸が熱くなるのを感じながら、そう口にする。
オレの呟きが聞こえているのかいないのか、幸せそうにオレの髪にキスを落とす豪炎寺。


「いい…送る…」


至極静かに紡がれる言葉。


「だけど…」


「円堂」


豪炎寺の言葉に、しぶるように言葉を発しようとするけれど、少し強めにオレの名前を呼ぶ声に遮られる。


「もう少し…雨が止むまで」


オレが大人しく次の言葉を待っていると、先程の口調とは打って変わって、甘えたような声で弱弱しく囁く豪炎寺。
オレを捕らえている腕にきゅっと力が加わる。
ことりとオレの肩口に置かれた頭に頬を寄せる。
さらさらの髪が頬に当たってくすぐったい。


「うん…じゃあ…雨が止むまで…」


幸せそうに微笑んで囁く。
途端、オレを包む腕に力がこもる。


「にわか雨に感謝だな…」


耳元でそっと囁く豪炎寺。
その声は、優しくて甘い。


「うん…」


オレに擦り寄るその頬に唇で触れる。
すぐに離れたその唇を追いかけるように、豪炎寺の唇がオレの唇を塞ぐ。
オレを捕まえている腕に手を重ねれば、ふわりと繋がれる指と指。

しとしととにわか雨の降る音だけが響く豪炎寺の部屋。
静かで甘いこの時間が少しでも長く続けばいい。
そんな事を考えた。







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雨の日は好きか嫌いかと言われれば嫌いですが、雨の日独特の雰囲気は大好きです!
しっとりめのお話書こうぜ!と意気込んだ結果がこれとか…

ふ…これだから少女マンガ好きは…












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