「円堂…これって…?」
「え…豪炎寺これ見たことないの?」




ほかほかでお休み!




「せっかく部活が早く終わったんだし、今日オレの家に遊びに来いよ!」


オレがそう言って豪炎寺を誘ったのは、学校を出てしばらくしてからだった。
今日は、朝からずっと寒くって、お昼を過ぎる頃には、ちらちらと雪が降ってきてしまった。
雪の中でもサッカーは出来るが、グラウンドが傷んでしまうから、今日は室内で軽く体を動かして早めに解散した。
もちろん、オレと豪炎寺も例に漏れず早々に自宅に向っていたのだが…


「染岡から去年のワールドカップのDVD借りたんだ!一緒に見ようぜ」


さくさくとうっすら積もった雪を踏みしめながら河川敷を歩く。
ふと、昨日染岡から借りたDVDの事を思い出す。
せっかく部活も早く終わって、豪炎寺も一緒に居るのだから、これはぜひとも誘わなくてはと、そう思ったのだ。
急にお誘いを受けた当の張本人は、隣でまん丸に目を見開いて、びっくりしているようだ。
だけど、すぐに嬉しそうに微笑んで


「ああ。ぜひお邪魔させてくれ」


そう言ってオレの頭をぽんぽんと撫でた。










「ただいまー!」


扉を開け、玄関で元気に叫んで靴を脱ぐ。
バタバタと廊下をかけるオレの後ろで、豪炎寺が遠慮がちに「お邪魔します」と言ったのが聞こえた。


「母ちゃーん!豪炎寺が来てくれたー母ちゃん居ないの?」


台所へ続く扉を開けてをきょろきょろと見回す。
いつも、とんとんと包丁を鳴らしながら夕飯の支度をしているはずの母ちゃんの姿が、今日はなかった。
台所に掛けてある時計に目をやると、午後3時半を回ったくらいだ。
今日はいつもより帰宅するのが随分早かったから…
この時間帯は買い物にでも行っているのだろうか?


「どうした?」


きょろきょろするオレに、豪炎寺が不思議そうに声を掛ける。
台所の入り口でこちらを見つめている豪炎寺に向き直って


「母ちゃん出掛けてるみたい。お茶作るから、豪炎寺は居間で待っててくれ。」


そう言って笑う。
すると豪炎寺はにこりと微笑んで


「じゃあお言葉に甘えようかな」


そう言って、居間の方へ向かった。
そんな豪炎寺の背中を見送ってから、台所の中をごそごそと漁る。


「…お茶葉どこだっけ…」


ぽつりと呟いてから、そこいらの棚を開けて回る。


「わわわ…!」


シンクの上の戸棚を開けた途端、バサバサバサと大きな音を立てて落ちてくる、インスタント食品やら、台所用スポンジの入っているナイロン袋。


「母ちゃん…」


足元に散らばった、袋達を眺めて途方にくれる


押し込むだけなら買わなければいいのに…


頭の隅っこでそんな事を考えながら、足元の袋をかき集めた。







「ごめん豪炎寺!お待たせー」


急ピッチで足元に散らばったナイロン袋を片付け、途中運よく見つけたお茶葉でお茶を入れた。


お盆にのった揃いの湯飲みからは、暖かな湯気が立っている。
お茶をこぼさないように、幾分おとなしめに襖を開ける。
中でくつろいでいるだろう豪炎寺の名前を呼べば、予想に反して当の本人は、部屋の中で棒のようにただ突っ立っていた。


「どうした?」


固まって動かない豪炎寺の背中に声を掛ければ、ゆっくりとこちらを振り向く豪炎寺。
オレが不思議そうにその顔を見つめれば、豪炎寺はおそるおそる口を開く。


「円堂…これ…なに?」


豪炎寺が指差す先を見つめる。


「え…豪炎寺もしかしてコタツ見たことないの?」


そこには、日本の冬には欠かせない暖房器具が暖かそうな出で立ちで鎮座していた。


「話には聞いたことあるが…これがそうなのか?」


珍しいものを見るように豪炎寺がきょろきょろとコタツを眺める。
オレは、コタツを見たことがないという豪炎寺の方こそ珍しくて、きょろきょろしている豪炎寺を、ただただ見つめた。


「コタツを見たことがないなんて…豪炎寺の家ってどうやって冬、乗り越えてるの?」


まだ不思議そうにきょろきょろしている豪炎寺に声を掛ける。
すると、豪炎寺は目をぱちくりとさせてこちらを振り向く。


「俺の家はオール電化だから…」


床暖房なんだ


そう当然のように呟く豪炎寺。
そういえば、豪炎寺の家に遊びに行った時、フローリングの床なのに、ほかほか暖かかったのを思い出す。
それも全室…


くっそう…嫌味な奴だぜ豪炎寺…


豪炎寺の背中をじとっと睨む。
そんなオレの視線などお構い無しでコタツを眺め続ける豪炎寺。
その背中が、小さな子供みたいにうきうきとしているのが可愛らしくて、オレはくすりと笑った。


「見てるだけじゃなくて、入ればいいよ。今電気入れるからさ」


片ひざを付いて、お盆をテーブルに置く。
ふかふかの茶色いコタツ布団を捲り上げて、中のスイッチを入れる。


「テレビ見やすいのはこっちだから、ここに入れば良いよ」


オレの家のコタツは、長方形の6人家族用のコタツだ。
父ちゃんと母ちゃん、オレの3人だけだと、明らかに大きなサイズのこのコタツだが、
昔から来客の多い家なので、これくらいの方が良いだろうと、父ちゃんが奮発して買ったのだ。
そのコタツの、横長の場所をぽんぽんと叩く。
豪炎寺は、おずおずと布団を捲り上げて足を入れた。


「…あまり暖かくないんだな…」


ぽつり呟く豪炎寺。
その隣に座りながら笑う。


「今電気入れた所なんだ。そんなすぐに暖かくならないよ。」


豪炎寺は「そうなのか…」とポツリと呟いて、ごそごそと布団を被る。
その横顔がなんだか嬉しそうで…
オレにしてみたらなんでもないことなのに、そんななんでもないことに心を躍らせている豪炎寺。
いつものかっこいい姿からは想像できないほどあまりにも可愛らしくて、オレは何ともいえず愛おしい気持ちがこみ上げる。

にこにこと豪炎寺の横顔を眺めていたら、オレの視線に気付いたのか、恥ずかしそうに豪炎寺が苦笑する。


「なんだよ」


「別に〜」


オレがえへへとごまかしたように笑えば、ふわりと笑う豪炎寺。


「コタツって良いな」


こちらを向いたまま、テーブルに頭を預ける豪炎寺。


「布団ふかふかで気持ちいい…」


布団の感触を確かめるように、幸せそうに目を瞑る。


「それから…」


ゆっくりと目を開けてこちらを見上げる


「円堂が近い…」


そう言ってあんまり幸せそうに笑うから…


「バカ…」


オレはドキリと高鳴った心臓をなんとか抑えながら、赤い顔を隠すようにそっぽを向くしかなかった。
そんなオレを見ながら隣でくすくすと笑う豪炎寺。
そんな豪炎寺を横目で睨みつけながら、やけくそのように叫ぶ。


「染岡に借りたDVD!見るぞ!!」


がばりとコタツから抜け出し、DVDをセットする。
真っ暗なテレビの画面越しに、嬉しそうに幸せそうに笑う豪炎寺の顔が見えて、俺の心臓は、更に速い速度でなり始めた。


(ああもう…)


こんなんじゃ、DVDの内容なんか絶対頭に入りっこない…

そんな事を考えながら、テレビの電源を入れた。

二人コタツに並んで座りながらDVDを見る。
案の定、隣の豪炎寺が気になってDVDの内容なんて全く頭に入ってこなかったのだけど…
試合が後半に向うにつれて、オレも、隣の豪炎寺もだんだんDVDに夢中になる。
最初は、お互いぎゃーぎゃーとうるさかったのだけど、途中から興奮しすぎてすっかり口数が少なくなってしまった。


「…いやー…すごい試合だったな豪炎寺!…豪炎寺?」


試合が終了してエンドロールが流れる。
そのテレビ画面から豪炎寺に視線を向ける。
すると豪炎寺はテーブルに突っ伏して、すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てていた。


(うわぁ…)


初めて見る豪炎寺の眠った顔。
もともと長いまつげが、目を閉じていることで更に長く見える。
オレの大好きな声を紡ぐその唇も、今は穏やかに呼吸を繰り返している。


(可愛い…)


いつもは大人っぽい豪炎寺なのに、眠っている顔は本当に気持ち良さそうで、なんだか子供みたいだ。
そんな豪炎寺の寝顔を幸せそうに見つめて、オレはそっと席を立った。










「ただいまー…」


「ああああ!母ちゃんしー!!!」


空が夕焼け色に染まる頃、夕飯の買い物を終えた母ちゃんが帰ってくる。
玄関を開けて、帰宅のあいさつをする母ちゃんをすんでの所で止める。


「なによ?どうしたの守。そんな小声で」


一生懸命人差し指を口に当てて、静かに!のポーズを取るオレを怪訝な顔で見つめる母ちゃん。
オレにつられて小声になっている。


「いいから大きな声出さないで…」


「なんなのこの子は…」


そう言って、まだ何か言いたそうな母ちゃんを無理やり居間へ連れて行く。
襖を開けた先、コタツが置いてある所を見て、「あら…」と納得する母ちゃん。

そこには、ごろりと寝転がって、オレが掛けてあげた毛布に包まって気持ち良さそうに眠る豪炎寺の姿があった。
そんな可愛らしい豪炎寺の姿を見ながら


「コタツに入ってると眠たくなっちゃうものね」


「うん」


ほのぼのと囁くオレと母ちゃん。


「起こすのも可哀想だし、豪炎寺くんが起きるまでそっとしておいてあげましょ」


「うん!」


そんな母ちゃんの提案にオレは元気よく頷いた。













「あ!おはよー豪炎寺」


「あら豪炎寺くん起きたのね。おはよー」


「よく眠ってたな〜疲れてたのかな?」


「!!!!??」


結局、豪炎寺は外が真っ暗になるまで眠り続けて、オレと母ちゃん、父ちゃんが食後の団欒で居間でテレビを見始めてしばらくしてから目を覚ました。
寝ぼけ眼で、状況が飲み込めていないうちはぼんやりオレ達の顔を眺めていたが、
状況を把握した途端、みるみる顔が赤くなって、何も言えずに金魚みたいに口をぱくぱくさせていた。

そんな豪炎寺が可愛くて可愛くて、オレ達家族は嬉しそうに笑った。

こんな風に豪炎寺の色々な顔が見れるなんて…
やっぱりオレ、コタツって大好き!

そう思って、ふかふかのコタツ布団に顔をうずめた。





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1万hit&いつも拍手ありがとう&小説完結のお祝いありがとうございます!企画(長)
で頂きました、豪円♀でコタツネタです。
コタツ大好きです!日本の冬は断然炬燵派です!
たたみ!炬燵!!みかん!!!最強コンボですね(黙るがいい)
せっかくの素敵なリクを生かしきれずに本当にすみません…!!!!

リクエスト下さった西山様、本当に本当にありがとうございました!!
お礼にもならないかもしれませんが、小説よかったら受け取ってやって下さいませ!!!!







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