「風丸ってさ、髪の毛きらないのか?」
「お前がそれを言うのか円堂・・・」




その青色




空がきれいなオレンジ色に染まった夕暮れ。
オレ、風丸一郎太が所属している、我らが雷門サッカー部は今日も今日とて、河川敷で練習をしていた。
もういい加減、ボールも見えにくくなってきたし、そろそろ終わろうかと、各々片付けの最中だ。


「おーい風丸ーー!」


オレが豪炎寺と今日の練習メニューについて話をしていたら、監督に呼ばれていた円堂がこちらにかけてきた。


「どうした?」


「オレ、もう腹へって死にそう…どっかで軽くなんか食べていこうぜ〜」


オレが目をまん丸にして聞けば、円堂はふにゃりと眉を下げて、今にも死にそうな声でそういった。

そんな円堂の姿に、オレも隣にいた豪炎寺も思わず苦笑いだ。


「お前の場合、いつも軽くじゃないだろ?」


困ったようにそういえば、円堂はぽりぽりと頬を掻いて


「だってさ、腹減ってるときって何でも上手いだろ?だからついつい食べ過ぎちゃうんだよ。」


へへへといたずらっ子のように笑った。

全く、こいつは昔からそうなんだ。
いつも、エネルギー切れギリギリまで遊んでは、倒れそうになりながらオレの所にかけてくる。
そして何か食べよう!と嬉しそうに笑うのだ。


「いいぞ。行こう。雷雷軒でいいか?」


オレが呆れたように、けれど嬉しそうにそう言えば、円堂はぱっと表情を明るくして


「うん!」


と太陽のように笑った。


「豪炎寺も一緒にどうだ?」


オレが、横で微笑ましそうに一連のやり取りを眺めていた豪炎寺に問いかける。


「いや、俺はやめておくよ。今日は病院に行こうと思ってるんだ。」


せっかくなのにすまない。


残念そうに、豪炎寺は言う。

そんな豪炎寺を最初これまた残念そうに見ていた円堂だったが、


「そうか・・・また一緒に行こうな!」


そういうと、元気いっぱいに笑った。
そんな円堂に、豪炎寺はつられた様に微笑んで、「ああ」と呟いた。


その後、取り留めの無い話をだらだらと3人でして、「いつまでも話してないでもう帰るぞ!」と染岡辺りに怒られて、慌てて俺たちは河川敷を後にした。








「うーーー・・・ん・・・」


「いつまで悩むんだよ?」


店内に並んでいるメニューを見ながら腕組をして、眉間に深く皺をよせ、腕を固く組んで唸る円堂。
そんな円堂を肩肘をついて、呆れたように眺めてため息を吐くオレ。

白い湯気が立ち上る店内。
その店内にはいい匂いが立ち込めている。
ラーメンのスープの匂い。
餃子を焼く香ばしい匂い。
円堂が悩む気持ちも分かるが、ちょっと悩みすぎだと思う。


「もう、かれこれ5分は経ってるぞ…」


そうなのだ。
オレと円堂が雷雷軒についてから、円堂は同じ体勢で唸り続けている。
オレは店に着く前に大体何にしようか決まっていたので、5分間、唸った円堂を眺めているばかりだ。


「ごめん…でも本当に決まらないんだ…」


深い眉間の皺を更に深く刻んで、うーんと円堂がまた唸る。
決めた!と目を見開いたと思えば、でもやっぱりなぁ…と俯いてうんうんと悩む。
そんなコロコロと変わる円堂の表情は、見ていて本当に飽きない。

オレは一つくすりと笑うと、


「ラーメンと餃子にするか、炒飯と餃子にするかで迷ってるんだろ?」


呆れたようにそういった。
すると、円堂はあからさまに驚いた顔をして、


「なんで!!?」


勢いよくこちらに顔を向けた。

そんな、円堂の反応がおかしくて、オレはあははと声を上げて笑うと、


「それくらい分かるさ。お前、こういう時は昔から同じメニューで悩むだろ?何年お前と友達やってると思ってるんだよ。」


くっくっと笑いを凝らしながら円堂を見る。
視線の先の円堂は顔を真っ赤にして、震えている。
してやったり。
オレは可笑しくてまた笑った。


「笑うなよ!風丸だって、町内会のバス旅行の時、いつもどのジュースにするかすごく迷うじゃないか!!」


真っ赤な顔で叫ぶ円堂。
今度はオレが赤くなる番だった。


「なっ・・・!円堂、今はそれ関係ないじゃないか!」


「いいや!ある!自分だけいい目見ようなんてそうはいかないぜ!」


ふふん!と得意げに鼻を鳴らす円堂。
そうなのだ。俺は、町内会のバス旅行で、バスの車内で配られるジュースをいつもどれにしようかすごく悩んでしまうんだ…
くそう…まさかそんな所見られていたなんて思いもしなかった…

言わせたままでおくものか!と、オレが反論しようとした時


「お前ら注文しないなら出て行け」


目の前の厨房からドスの聞いた声が響いた。
見れば、響木監督…今はこの店の店主だが…がこちらを睨んでいる。
背中にはがっちりと怒りのオーラが漂っている。
瞬間、固まったオレと円堂。
「「はい…」」と、か細い声で呟いて、オレは味噌ラーメン、円堂は醤油ラーメンと餃子を頼んだ。






「ああ…このために生きてるなぁ…」


えらく大げさなセリフを吐いて、円堂がほぅとため息を吐く。
オレ達が注文をしてから程なく、ラーメン2人分と餃子がオレ達の目の前に並ぶ。


「これはサービスだ」

と、小盛りの炒飯も2人前。


「監督ぅうううう!!!」


円堂は感激のあまり表情が蕩けている。
粋な計らいをしてくれた張本人は、「今日も一日ご苦労さん」とそっけなく呟いてカウンターに座るオレ達に背を向けた。
何ともにくいナイスガイだ。
感激で何もいえない円堂のかわりに「ありがとうございます!監督!」と慌ててお礼を言った。


そして、先ほどの円堂のセリフである。
このために生きている…大げさだが、気持ちは分かる。
くたくたになるまで練習した後のラーメンというのは、何とも言えず、格別だ。
そしてまた、この雷雷軒というラーメン屋のラーメンは、スープの味から麺の固さまで、そりゃあもう絶品なのだ。
横で忙しく麺と餃子を口に運んでいる円堂を横目に見ながら、オレもラーメンをすする。
味噌の味と、店独特のスープの味が、口の中で麺と絡んで何ともいえずおいしい。

オレは、「うま…」と小さく呟いて、ポケットの中をごそごそ探る。
中から赤色のヘアピンを取り出す。
オレの前髪は長い。
ご飯を食べる時は、少し邪魔になるのでいつもこうして前髪を止めているのだ。
慣れた手つきで前髪を止め、さぁ食べるぞ!とラーメンを口に運ぼうとした時、何か、熱い視線を感じた。
なんだ?と視線をそちらに移せば、隣の席の円堂がじーーっとこちらを見つめている。


「どうした・・・?」


オレが不思議そうにそう聞けば、円堂は至極真面目な顔で


「風丸ってさ、なんで髪伸ばしてるの?」


そう聞いてきた。


(お前がそれを聞くのかよ…)


オレは頭の中でそう呟いて、ため息を吐く。


「なんだよ?オレなんか変なこと聞いたか?」


すこし怪訝な顔で円堂が言う。


「別に…なんで急にそんな事聞くんだ?」


逆に、オレがそう聞いてやれば、円堂は意表を付かれたとでもいう様に、一瞬きょとんとして、


「いや、ご飯とか食べる時ピンで止めたり大変そうだし…そういや、昔は髪、短かったよなぁって思ってさ」


懐かしそうにそう呟いて、にししと笑った。

こいつのこういう笑顔は、本当に昔からなんにも変わっていない。
昔と変わらない笑顔の円堂を見つめながら、ふと、昔の出来事を思い出す。
小学校の頃、夕焼けが眩しい河川敷…
そこまで思い出して、オレは顔が暑くなるのが分かって、慌てて円堂から眼を逸らす。

オレの髪の長い理由…それは円堂にだけは知られたくないものだ。
ちらりと円堂を盗み見る。
円堂は俺が慌てたことなど微塵も気にした様子もなく、美味しそうにラーメンを食べている。
これ以上、オレの髪の長い理由を聞こうという様子のない円堂に、内心ほっとしながら、オレもラーメンに手を伸ばす。


「でもさ…」


ラーメンを口にしようとした瞬間、円堂がぽつりと呟く。
なんだ?と思って、ラーメンを口に運ぼうとした手をそのままに、円堂のほうを見る。
円堂も、こちらに視線をやると、にかっと笑って


「髪、短かった風丸もかっこよかったけど、オレ、風丸の髪大好き!真っ青で透き通ってて空みたいで…もったいないから切ったりするなよな!」


そういった円堂の笑顔は、最高級に眩しかった。

ああもうこいつは…

ぼたぼたと、手に持っていた箸からラーメンがどんぶりに落ちる。


「うわ!風丸!汁とんだぞ!」


慌てる円堂。
だがもう、そんなの知らない。
こいつは、この円堂守という男は、なんだってこうなのだろう?
ぐつぐつと沸騰する頭の隅っこに、幼い日の記憶がよみがえる。


「風丸の髪の毛、すっごくきれいだよな!真っ青で透き通ってて…夕焼けにきらきら輝いて宝物みたい!髪の毛、伸ばしたらきっともっときれいだぜ!」


それは小学生の頃の夕焼けの眩しい河川敷…

あの時と変わらぬ笑顔で同じ事をいう目の前の親友。


(また当分髪、切れないじゃないか…)


オレは頭の中でそう呟いて、真っ赤な顔を隠すようにラーメンをすすった。






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1万hit&いつも拍手ありがとう&小説完結のお祝いありがとうございます!企画(長)
で頂きました風円です!
初めての風円ですごくこう…なんというか…これ…風円…?
みたいな感じなのですが…(滝汗)
この二人はこんな感じが好きです!
実は円堂とは古い付き合いな風丸さんに激萌え!!!!!

リクエスト下さったゆう様、本当に本当にありがとうございました!!
お礼にもならないかもしれませんが、小説よかったら受け取ってやって下さいませ!!!!






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