「お前!また立向居のこといじめてんのか!?」
「別に?いじめてなんかないぜぇ?な?勇気」
「おっま…!勇気って…!!!!」
「お二人は仲良しですね!」




二人のなれそめ




「おいお前!立向居の事いじめんなよ!」


「別にいじめねぇよ。それよりお前はやく向こうの練習混じって来いよ。」


しっしっと手の甲を綱海さんに向けて不機嫌そうに言い放つ不動さん。
手を向けられている綱海さんはというと、悔しげに拳をわななかせている。


「いいか立向居!何か嫌なことされたらすぐに知らせるんだぞ!」


不動さんを睨みつけていた視線を僕に移して、震わせていた拳を解いて僕の両肩に置き、先ほどの憎らしげな瞳とは打って変わって心配そうに僕を見つめる綱海さん。


「分かりました」


なんで綱海さんがそんな事をいうのか良く分からなかったけど、僕を見つめる瞳があんまり必死そうだったので、僕はそう言ってふわりと頷いた。
そんな僕の様子に、安心したようにこわばった顔を少し緩ませて頷く綱海さん。
僕の肩においた手を、念を押すようにぽんぽんと叩いて、僕に背を向け、ディフェンス陣が固まってフォーメーションの確認をしている輪に向って歩き出す。
すたすたと足早にそちらに行ってしまうのだと思いきや、


「いいか!絶対に立向居いじめんじゃねぇぞ!」


勢いよく振り返って大きな声で叫ぶ綱海さん。
突然発せられた声にびっくりした様子で振り向くチームメイト達。


「全く過保護だねぇ〜」


みんなが驚く中、僕の隣で小さく呟かれた声。
その声のほうを見れば、不動さんが、にやにやと面白そうに人の悪そうな笑顔を浮かべていた。


「不動さん何かいい事あったんですか?」


僕が思ったままのことを口にすれば、ニヤニヤ笑いを引っ込めて僕を見下ろす不動さん。


「あん?別になんもねぇよ」


不機嫌そうにそう吐き捨てる。


「そうですか?さっきすごく楽しそうにしてたのに…」


不動さんの言葉に僕がそう返せば、一瞬ぱちくりと目を瞬かせた後、ニヤリと悪い笑顔で微笑んだ。


「そうだな。最近面白いおもちゃを見つけたんだ」


そう言って視線を前に戻す。
不動さんが目をやった方向に、続けて視線を向ければ、胡坐をかいて座っている綱海さんの姿が。
その後姿は、見るからに機嫌が悪そうだ。


「綱海さんがどうかしたんですか?」


不動さんの意図する所が分からずに、隣の不動さんを見上げる。
見上げた先の不動さんの横顔は、未だにニヤニヤと笑っていて


「お前は分からなくていいんだよ。その方がおもしろい」


まっすぐに綱海さんを見つめたまま、僕の肩をぽんと叩いた。


「…?どういうことで…」


「おーい!立向居!キーパー練習するぞ!」


不動さんが何の事を言っているのか分からなくて、聞き返そうとしたら、円堂さんの元気な声に遮られた。
円堂さんの声が響いた方を勢いよく振り返ると、ニコニコと嬉しそうに手を振る円堂さんの姿が。


「ほら。大好きな円堂さんからお呼びだぞ。」


降ってきた声に、勢いよくそちらを向けば、今まで真っ直ぐに綱海さんを見ていたはずの不動さんがニヤニヤと意地悪そうにこちらを見下ろしている。


「もう…なんですかその言い方…」


じとっと不動さんを睨めば、途端に可笑しそうに笑い出す不動さん。


「夕飯の時に、さっきのこと、ちゃんと説明してもらいますからね!」


今だくっくっと肩を震わせている不動さんに、去り際にそう言って円堂さんの方に駆け出す。
僕の言葉に


「気が向いたらな」


と曖昧に返事を返してひらひらと手を振る不動さんは、相変わらず意地悪そうな笑顔を浮かべたままだった。

不動さんの「気が向いたら」は、今まで一度も気が向いたことがない。
今日も結局何も言わないのだろうな。


(今日の夕飯はカレーだったっけ…)


不動さんとの会話でぼんやりと今日の夕飯に思いをはせる。
思えば、僕が初めて不動さんの隣で話しかけたのも、今日みたいなカレーの日だった。







「あの…不動さん、隣いいですか?」


「…?好きにすれば?」


おずおずと声をかけた僕に、今まさにカレーを口に運ぼうとしていた不動さんがこちらを見上げる。
その目は、びっくりしたように開かれていた。

失礼しますと椅子を引いて不動さんの隣に腰掛ける。
不動さんは、さして気に留めることなくカレーを口に運び始めた。

僕の今の気持ちは、ただ緊張する。だった。
ろくに話もしたことのない、実を言うと、口が悪くて少し苦手なタイプのこの先輩。
いつもなら、円堂さんや、綱海さんと一緒に食事をするのだけれど、なぜ今日になって夕食を一緒しようと思ったのか、それは…


「不動さん…今晩も特訓されるんですか?」


こっそりと小さな声でたずねる。
最初聞こえていないかと思ったけれど、


「な…お前…」


びっくりした様にがばっと勢いよくこちらを振り向く不動さん。
その態度に僕は確信した。
この人は、毎晩一人合宿施設を抜け出して特訓をしているのだ。
昨日も、この前の晩も、僕がジュースを買いに部屋を出たら、グラウンドから裏庭へ続く道をサッカーボール片手に歩く不動さんを見たから…
もしかしたらと思っていたけど、やっぱりそうだった。
なかなかレギュラーになれなくても腐らずに努力を続けるその心意気。
尊敬してやまない円堂さんにどこか重なるものがあったのだ。


「毎日こっそり夜特訓されてますよね!すごいです!僕も…」


「はん。俺様がそんなことするはずないだろう…お前の勝手な妄想だよ…」


僕が少し興奮気味にまくしたてると、ぴしゃりとそれを阻む不動さん。
またもくもくとカレーを食べ始めてしまった。
不機嫌そうに寄せられた眉間のしわに、怒らせてしまったのだろうかとひやひやする。
どうしよう…謝った方がよいのだろうか…だけれども、今もくもくとカレーを口に運んでいる目の前の先輩は、
謝ったら謝ったでまた怒りだしそうだ…

そんな風にどうしようと悶々と不動さんの横顔を見つめる。


(あ…)


もぐもぐとカレーを噛みしめるたびに揺れる顎。
その少し上の、耳が少し赤く染まっている。


(なぁんだ…)


それを見て、僕はこっそりと微笑むと、何も言わずに今日一口目のカレーを口に運ぶ。

隣で不機嫌そうにカレーを食べる先輩は、どうやらとんでもない天の邪鬼らしい。
人を見下した態度も、人の悪口ばかりを紡ぐその口も、全部全部照れ隠しなんですね。
だから、特訓していることも人に知られたくなくって…


「何を笑ってんだ気持ち悪い奴だな…」


僕がにこにことそんな事を考えながらカレーを口に運んでいると、
汚い物でも見るようにこちらを見ている不動さん。


「あ、なんでもないですよ」


えへへとごまかすように笑えば、訳がわからないとでもいうように一度首をかしげて視線をカレーに戻す不動さん。
その横顔を見送って僕もカレーに視線を戻す。

なんだか不動さんの事、ちょっとだけわかったような気がします。
照れ屋で天の邪鬼で努力家な不動さんなんて、誰かに話しても気味悪がられるだけかもしれないけど。
僕はそういう不動さん、すっごくいいと思います!

にこにこと微笑みながらカレーを頬張る。
隣の不動さんは、時折そんな僕を怪訝な眼で見てくるけれど…

また明日もご飯ご一緒しよう!
今の僕の頭は、夕飯のカレーが美味しいことと、そんなことで頭がいっぱいだった。





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なぜに立向居さんが不動さんとご飯を食べ始めたかのなれそめですた。






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