「豪炎寺…」
「円堂?どうした?」
「悪いんだけど…今からちょっと家まできてくれないか?」




ハプニング・シー






春休み


宇宙人との戦いも終わり、高校受験も終わり、至極平和な日曜日。
いつもは旧雷門イレブンで河川敷に集まってサッカーをしているが、今日は皆用事があるとかでお休み。
かくいうオレ豪炎寺修也も惰眠を貪ろうと心に決めていたわけだが…


朝7時38分つい2週間前に購入したばかりの携帯電話の着信音で目が覚めた。
全く誰だと思いつつ、ピカピカと光るディスプレイを見ると「円堂 守」の文字が。
何事かと通話ボタンを押せば冒頭のやりとりになった。


いつもは「サッカーやろうぜ!!」と呆れるほどに元気な円堂の声が今日は、どこか沈みがちで、小さかった。
それに加え、いつもは家まで来て欲しいというようなことは言わないだけに、少し気にかかる。
オレは足早に円堂の家に向かった。


ピンポーンと軽快な音が円堂の家に響く。
しばらくして「ハーイ」と女の人の声が聞こえる。
バタバタと忙しそうな足音も。



「いらっしゃい。豪炎寺くん。」



がちゃりと扉が開いて、円堂によく似た笑顔のお母さんが出てきた。
お邪魔しますと言って、上がらせてもらう。



「急に呼び出しちゃって本当にごめんなさいね。」
「いえ。守くんは大丈夫ですか?」



階段をあがりながら聞いた。
するとおばさんは少し困ったように眉を下げて 「具合はいいんだけどね」 と言った。
程なくして円堂の部屋の前につき、「守。入るわよ。」とおばさんが一声掛けて扉を開けた。
すると、中に居るはずの円堂の姿はなく、かわりにベッドの上のふとんがこんもりと盛り上がっていた。



「守。豪炎寺くんが来てくれたわよ」
「・・・うん・・・」



おばさんが声を掛けるとふとんの中からくぐもった声が聞こえてきた。


「母さん町内会の集会に行ってくるから豪炎寺くんにちゃんと全部お話するのよ」
「・・・うん・・・」


円堂が返事を返したのを確認すると、俺の方をぽんと叩いて「じゃあごめんね豪炎寺くん」と部屋から出て行った。



「大丈夫か円堂?」



ベッドの端に腰掛けて、なるべく優しく声をかける。
けれど、円堂はふとんの中で丸まったままで姿を見せない。
よほどの事では動揺しない円堂がこれは重症だな。


そんな風に考えていると布団がもぞもぞと動いた。
ひょっこりと頭だけを出して円堂が俺を見上げてきた。
何があったのか目は赤くなって潤んでいる。
泣いて・・・いたのか?



「ご・・・豪炎寺ぃいいい・・・」



俺の顔を見るなり、円堂は顔をくしゃくしゃにして泣き出してしまった。
俺は慌てた。
円堂が泣いている所を見るなんて初めてだからだ。
どうしていいかわからず、俺は昔妹が泣いていた時を思い出してポンポンと頭を撫でてやった。

男相手に俺は何をやっているんだ…

少し虚しくなったが、円堂は落ち着いたのか、しゃっくり上げてはいるが、なんとか泣き止んでくれた。



「何があったんだ?」



円堂を刺激しないようになるべく優しく聞く。
円堂はじっと俺を見つめてたどたどしく話し始めた。



「あの…さ…女の子でもGKってできるのかな…?」



・・・それが今お前が泣いてることとどういう関係があるんだよ!

と思いつつ、口には出さずに



「…できないことはないと思うが…GKは他のポジションより危ないからな…女の子はなるべく避けた方がいいんじゃないか?」



そもそもそんなこと、GKの円堂の方が分かっているはずだ。

しかし、それを聞いた円堂はみるみるうちに大きな瞳に涙を溜めてまた泣き出してしまった。



「??なんなんだ一体?」



俺は円堂を宥めながら訳が分からずそう呟いた。
すると円堂は大粒の涙をぽろぽろと流しながらこう言った。



「豪炎寺…驚かないで聞いてくれるか?」
「ああ…」
「俺の言うこと信じてくれるか?」
「?ああ…」
「俺…女の子になっちゃんたんだ…」
「ああ・・・・・・・・・・・・えっ…?」



突然の告白に俺の頭は真っ白になった。


女の子?円堂が?


冗談にしたってもう少しましな事は言えないのか。



「そんなばかなこと…」



なんとかしぼりだした言葉は円堂によって阻まれた。
がばりと起き上がって、俺の手をとって胸に押し当てる。



「本当…なんだよぉ…」



俺の手には確かに男には存在するはずのないやわらかな感触があった。
ぽろぽろと流れる円堂の涙がおれの手に落ちる。



「昨日、練習の終わってからやけに眩暈がしてさ…ご飯食ってすぐ寝たんだ…体も熱くてなかなか寝付けなかったんだけど…それでもなんとか眠ったんだ…それで…」



朝起きたら女の子になってたんだ。
そういってがっくりとうな垂れた。
さっきまでがっちりと俺の手を握っていた手もしょんぼりとあわせた足の間に納まっている。



「かぁちゃんに相談したんだけど、かぁちゃんもどうしていいか分からないって…かぁちゃん、今日はどうしても町内会の仕事に行かなくちゃいけないらしくて…
オレを1人にはできないから誰かに来てもらえって…豪炎寺なら心強いし…だからお願いしたんだ…」



ごめんな。


といって円堂はますます肩を落とした。
こんなに落ち込んだ円堂、少なくとも俺は一度も見たことがない。
いつも元気でみんなをぐいぐい引っ張っていく円堂からは全く想像が出来ない姿だ。
肩を震わせて涙を流す円堂に、俺は胸が痛くなって、気が付けば円堂の頬を両手で包んで、指で涙を拭っていた。



「心配するな円堂。俺がなんとかしてやる。だからもう泣くな。」



大きな茶色い瞳が揺れる。
俺も目を離さない。
大丈夫だと眼で訴える。
こいつはいつも俺を奮い立たせてくれる。
サッカーからも夕香からも逃げ出しそうな俺を救ってくれた。
敵の罠にはまって挫けそうな俺を信じて待っていてくれた。
俺はこいつに伝えきれないくらい感謝している。尊敬している。
だから今度は俺がお前を助けるよ。



「大丈夫だ。円堂」



じっと眼を見つめて言う。
もう一度円堂の大きな瞳が揺れた。



「豪炎寺が大丈夫って言うんなら大丈夫だな」



そういってふわりと笑った。
閉じた眼から一筋涙が零れて俺の手に吸い込まれる。
そのやわらかな笑顔にどきりと胸が高鳴った。
慌てて眼を逸らすと、円堂が小首をかしげた。



「とにかく、今すぐどうこうできる問題でもないし、監督たちには明日伝えるとして…今日は様子を…」
「なぁなぁ豪炎寺」



俺がこれからの事を考えていると、俺の服の裾を円堂がひっぱった。
円堂の方を向くと、今まで泣いていたのがうその様ににっこりと笑って 「サッカーやろうぜ!!」 と言った。
それでこそ円堂守だ。と俺はおかしくなって円堂の頭をぐりぐりと撫でた。


この笑顔が少しでも曇らないよう、俺が守ってやりたい。
この時俺は頭のどこかでそんなことを考えていた。





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おにゃのこ円堂と豪炎寺の恋が始まるまで続きます




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