「あの…不動さん、隣いいですか?」
「…?好きにすれば?」




マイルドなあなた!甘口




最近、調子が悪い。
別に体の具合が悪いとか、そういうことじゃない。
ただ、調子が悪い。

FFIが開催されて早2月。
世界の強豪と戦うにつれて、チームとしての結束も上がっているイナズマジャパン。
ま、俺以外はの話なんだけど。
ライバルだらけのこのチームに余計な馴れ合いなど、邪魔なだけだ。
俺はただ、ここで自分の力を発揮したいだけなのだから…
そう思って、あいつらと初めて顔を合わせたとき、軽く牽制した。
鬼道にボールぶつけるとかな。
そしたら案の定、素直でいい子ちゃんのあいつらは俺に関わってこなくなった。

この、隣でにこにこと笑うこいつ以外は…


「不動さん!今日も頑張りましょうね!」


「あ?ああ…」


練習開始前、ボールを準備している1年生と小学生約1名。
和気藹々、楽しそうにおしゃべりをしながらボールを磨いている。
その光景を、あくびをしながら眺める俺。
がらがらとボールの入ったカートを転がしながら俺の隣に来て、「お互いに頑張ろう」と笑うこいつ。
満面の笑顔に、俺は一瞬うっと詰まりながらも無愛想に一言返した。
俺の返事に満足したのか、もう一度にこりと笑ったこいつは、「僕もボール磨いてきます」と律儀に行き先を告げて、1年生と小学生の所へカートと一緒に歩いていった。
別に、お前がどこへ行こうと知ったこっちゃ無いっての。

そう思いつつ、がらがらとカートを押す後姿を目で追ってしまう。
はっと我に帰って、背中を向ける。


(あほらし…)


この俺様が、どうでもいい人間一人に気を奪われるなんて…
ちっと心の中で舌打ちをして、グランドに向ってだるそうに歩き出す。

ここ最近、この立向居勇気という男に俺の調子は狂わされっぱなしだった。












「不動さん!お隣失礼します!」


「お?おお…」


一日の練習メニューを終え、時は夕食。
夕暮れのオレンジをバックに背負って、窓際で一人カレーをつついていた俺の隣に、俺の不調の原因、立向居がカレーの乗ったトレイをもって嬉しそうに尋ねる。
「しつれいしまーす」と何がそんなに楽しいのか、嬉しそうにそう言って椅子を引く。
がたがたと音を立てて、強化プラスチックの椅子に腰掛け、行儀良く手を合わせてカレーを頬張り始める。
一連の立向居の様子をぼんやりと見ていた俺は、ハッと我に帰りカレーを口に運ぶ。

ざわざわと賑やかな食堂。
時折聞こえる楽しそうな笑い声。
だけどもそれは、食堂の真ん中で楽しそうに話をしているチームメイト達だけで、窓際の俺と立向居との間に会話は無かった。
俺から何か話をしようなんて気、毛頭無かったし、人とうだうだ話をするのが嫌いな俺は全く気にならない。
だけれども…


(こいつ、俺なんかと一緒に飯食って楽しいのかよ…)


ちらりと隣の男を見る。
視線の先の男は、俺が見ていることにも気付かずに一心不乱にカレーを口に運んでいる。
こいつも最初は、日ごろから大好きだと公言している(公言せずとも皆分かっているが)円堂や、何かと仲良さげにつるんでいる綱海と一緒に食事をしていた。
それがある日を境に毎回俺の隣でこうして飯を食うのだ。


(いつからだっけか…)


ぼんやりとこうなってしまったきっかけを思い起こそうとするが、あまりに些細なことだったようで全く思い出せない。


(まぁいいさ…こいつも興味本位で俺に近づいてるだけだ。すぐ飽きるだろ…)


そう思って、隣でカレーを頬張る立向居を見つめる。
俺の視線にようやく気付いたのか、こちらを見て微笑む立向居。


「どうしました?」


急に声を掛けられて、一瞬声に詰まる。
今まで声を掛けられたことなんか1度も無かったから…
いつもはこれでもかというほど回る舌も、全く動かない。
どうしようかと内心固まっていると、目の前の男の口元にカレーが着いていた。


「はっ…カレーもまともに食えねぇのかよ。お子様だな。」


これ好機とばかりに、「え?」と間抜け面している立向居に嫌味全開にそう言って、口元のカレーを拭ってやる。
何をされたのか一瞬分からなかったのだろう、目の前の男は、俺が拭ってやった口元を手で何度か押さえでぼんやりしている。
本当に間抜け面だな…ばかっぽい…
ニヤニヤと人が悪そうに笑っていると


「ありがとうございます。不動さん」


そう言って、ふわりと笑う立向居。


「…!!」


俺は目を見開いた。
俺が明らかに見下した態度で、口悪く言ったその言葉に対して、目の前の男はふにゃふにゃと恥ずかしそうに嬉しそうに笑っている。
こんな奴見たことない。
大抵の奴は俺の見下した態度と、良く回る舌のせいで、俺が何か言う度に憤慨するから…
初めての体験に俺が固まっていると、不思議そうに首をかしげる立向居。
意識を引き戻された俺はひどく焦った。


「別に…お前の顔が、あんまり間抜けすぎてバカ丸出しだったんで仕方なくやってやったのさ…」


立向居から視線を逸らせて、苦し紛れにそう言う。
すると「すみません気をつけますね」と嬉しそうな声が聞こえた。
視線を外しているから、立向居の表情は分からなかったが、きっと今こいつは嬉しそうな顔してるんだろうな。
そう思うと、無性に悔しさと恥ずかしさがこみ上げてくる。


「ぐだぐだ言ってねぇで早く食っちまえよ。とろくせぇな…」


「はい!」


俺がぼそりとそう呟くと、元気いっぱいに返事をした立向居は、カレーを口に運ぶ。
なんなんだよこいつは…
心の中で呟いて、隣の立向居を横目で盗み見る。
ぱくぱくと美味しそうにカレーを頬張る横顔は、相変わらず間抜けでばかっぽい。


「なんだってこんな奴に調子狂わされなきゃなんねぇんだよ…」


「はえ?なんか言いました?」


「言ってねぇよ!早く食えって言ってんだろ!」


「す…すみません!」


ぼそりと呟いた言葉に反応してこちらを向く立向居。
言葉荒くそういえば慌ててカレーに集中する。
もくもくとカレーを頬張る立向居から視線を戻す。
俺の目の前のテーブルには空っぽのカレー皿。

オレンジの夕日を眺めながらため息を吐く。


(全くらしくねぇ…)


この俺様が、どうでもいい人間の食事が終わるのをこうして待ってやっているだなんて…


全く本当に、調子狂わされっぱなしだ…





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そんな訳で、マイルド向居とフドゥーさんです。
もう、3公式の集合絵の右隅で、向居の肩を抱いt…もとい、向居と肩を組んでいる不動さんのあの表情のマイルドさにすっかりやられまして…
立向居は全てのものをマイルドにする力がある…!ブワッと、妄想を膨らませた結果がこれです。
そしてまさかの続き物で…
もう日記とかで散々喚いているので先がわかってしまうかもしれませんが、この後にーにが出てきます。
マイルド向居とフドゥーとにーに、愛のマイルドバミュータトライアングル…
たまりませんね!俺得最高ですね!
この3人は&が最強に可愛いです。




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