「なぁなぁ豪炎寺」


2月17日
部活が終わって各々部室で帰宅の準備を進めている。
俺、豪炎寺修也も例に漏れず、ごそごそと近辺整理をしている所に、パタパタとやってくる円堂。


「どうした?」


俺がそう聞き返してやれば、大きな目でキラキラとこちらを見つめて


「今日、これから暇?」


そんな事を聞いてくる。


「いや?特に予定はないが…」


俺が一瞬考えたそぶりをした後、そう返せば、目の前の円堂は嬉しそうに笑って


「一緒に厄神祭行こうぜ!」


元気いっぱいにそう言った。





真冬の夜に





「豪炎寺!こっちこっち!」


嬉しそうに数歩前を歩く円堂。
早く早くと大きく振られる腕に、やれやれと苦笑いしながら歩みを速める。
前を歩く円堂の隣に並んで、その顔を見れば、にこにこと笑って見つめ返してくれる円堂。
その笑顔につられて、俺も微笑む。


「商店街の近くの神社で毎年あるんだ」


視線をまっすぐ前に戻した円堂が楽しそうに話す。


「皆で火を囲んで甘酒を飲むんだ!いろんな屋台も出てるし、にぎやかで楽しいんだぜ」


へへへと笑う。
俺は、厄神祭なんか行ったことがないから、どんなものか分からないけれど、
楽しそうな円堂の横顔を見ていると心が弾む。
二人他愛無い話をしながら商店街へと続く道を歩く。
すると、暗くなった空に、暖かい無数の明かりが浮かんでいる場所がある。


「あそこが神社!神社の入口から、お社まで、あんな風にちょうちんがぶら下げられてるんだぜ!」


あまりに不思議そうに眺めていたのか、隣で明かりを指差しながら満足そうに笑う円堂。
そう言われてよくよく見れば、明かりは商店街から神社に続く道から、神社のお社の方までぼんやりと続いている。
神社の方からは、微かに演歌が流れていたりして、提灯と演歌でなかなかのいい雰囲気をかもし出している。


「きれいだな…」


俺がぽつりと呟くと、円堂は、ぼんやり提灯の明かりを見つめている俺を満足そうに見つめて、


「とんどの側はもっときれいだぜ!早く行こう!」


そう言って楽しそうに笑った後、俺の手を取る。
手袋も何もしていない円堂の手はひやりと冷たかった。
その冷たい手をやんわり握り返して、


「ああ」


と微笑む。
円堂も、にこりと微笑み返して、俺たちは足早に神社に向かって駆け出した。







「すごいな…」


「へへへ…すごいだろぉ〜」


大勢の人だかりを前に、俺は思わずため息を漏らす。
混み過ぎているという訳ではない、賑わっているという表現が正しいのか、たくさんの人が道を行き交っている。
商店街から、神社へ続く道路は、交通整備が成されて、歩行者天国と化している。
その、歩行者天国をはさむように、たくさんの屋台が軒を連ねていた。


「こんなに大きなお祭りだとは思っていなかった」


俺がほぅと感心したように言うと、円堂は、はははと笑って


「夏とか秋の大きなお祭りに比べて、盛大に宣伝しないから、けっこう知らない人多いんだよな」


丁寧に教えてくれる。
へぇ〜と感心したように頷けば


「だけど盛り上がりは、夏や秋祭りに負けないぞ!」


そう言って、俺の手を取り、屋台に向かって歩き出す。


「毎年お店を出してる、じゃがバターのお店が美味しいんだぜ!あと、イカ焼きとか、りんご飴とか!」


俺の手をぎゅうっと握り締めながら嬉しそうに笑う円堂。
その笑顔が、提灯の明かりに照らされてあまりにも眩しかったので、俺はふわりと目を細めた。

屋台を回っている時の円堂は、サッカーをしている時と同じくらいいい顔だった。
あっちのあの屋台の何が美味しいとか、あそこの屋台のお兄ちゃんは、毎年必ずおまけしてくれるだとか、もはや通といっても過言でないくらい、この祭りのことを熟知していた。
しかも、屋台の店主ともやけに仲がいいようで、行く先々の屋台で声を掛けられ、何かしらおまけを貰ったりしている。

全く、こいつの人望の厚さといったら、いたる所で威力を発揮していて、仮にも円堂のことが好きな俺としては、心配の種だったりもするわけだが…
屋台の店主と話す円堂があまりにも楽しそうで、おまけを貰った時に恥ずかしそうに笑いかけてくる笑顔が眩しくて、まぁいいか…円堂が楽しそうなら…と、ぼんやりそんな事を思ったりした。

そんなこんなで、屋台を回って、お社に登る石造りの階段を昇る頃には、俺も円堂も、両手いっぱいに食べ物やら景品やらを抱えていた。


「…いくらなんでも買いすぎと思うぞ…これは…」


「ごめん…でもどれも美味しそうで…」


俺が呆れたようにそう言うと、困ったようにしょぼくれる円堂。
そんな円堂を横目で見て、ふっと笑って


「まぁ…円堂らしくていいよな」


そう呟く。
円堂は、こちらを困ったように見つめて、


「ははは…そうかな?」


そう言って笑った。

そんな円堂にくすりと一つ笑って返す。
視線をゆるりと前に戻す。

提灯が照らす石造りの階段は、薄暗い。
足元が見えにくいのが少々難点だが、薄暗い中に提灯の明かりが何とも暖かで風情がある。
これがもし明るい街灯で、足元も完璧に照らすようなものだったら、このお祭りのもつ独特の雰囲気を壊してしまうのだろうな。

そんな事をぼんやりと考えながら階段を昇る。


「あ!豪炎寺、もうすぐてっぺんだ!」


円堂が嬉しそうに声を上げれば、程なくして暖かな炎の明かりと、甘酒の甘ったるい匂いが鼻をついた。
ラストスパートとでも言うように円堂が階段を駆け上がる。
それに続いて、俺も急いで階段を昇った。


「守ちゃん!いらっしゃい!」


「なんだぁまた今年も大荷物だな!」


「寒かったでしょ?こっち来て火にあたりなさいな」


階段を昇りきると、口々にそんな声が聞こえる。
町内会の見知った人たちのようだ。
ニコニコと笑いながら円堂と俺を手招く。


「久しぶりだな〜おじちゃん、おばちゃん!」


「何が久しぶりなもんか!先週スーパーで会ったじゃないか!」


「あれは偶然出会っただけだろ?会ったうちにはいらないよ。」


荷物を降ろし、燃え上がるキャンプファイヤーのような、大きな焚き火の近くに座る。
そうしている間にも、次々とやってくる町内会の皆さんたち。
そのおじさんやおばさんと、楽しそうに話す円堂。
そんな円堂を眺めながら、俺はすっかり冷えてしまっていた手を火に近づける。
暖かい…
手のひらからじんわりと広がっていく暖かさに感動していると


「始めてみる顔だね?守ちゃんの友達かい?」


不意に声が掛けられる。
多少びっくりして、声のする方を向けば、優しそうなおばさんが、おぼんに甘酒を乗せて、こちらを覗き込んでいた。


「あ…はい…」


突然のことに、びっくりしたのと、もともと口が達者ではない俺は、なんとかそれだけ口にする。
そんな俺の無愛想とも取れそうな態度など気にも留めず、おばさんは「まぁまぁそうかい」と嬉しそうに笑っている。


「寒かったでしょ?甘酒でも飲みなさい。守ちゃんもこっちおいで!」


そういって、甘酒を差し出してくれる。
俺は「ありがとうございます。頂きます。」と言ってその甘酒を受け取る。
甘酒の入ったおわんからは、白い湯気が立っていて、つんと鼻を突くお酒の匂いは、なんとも甘くて美味しそうだ。


「ありがとう!おばちゃん!」


そう言って、先ほどまで数人のおじさんと話しをしていた円堂も、甘酒の匂いにつられてか、俺の隣に腰掛ける。


「豪炎寺ももらった?この甘酒、本当に美味しいんだぜー」


そう言って嬉しそうに笑って、美味しそうに甘酒を口にする円堂。
幸せそうなその横顔に頬が緩む。
円堂に続いて、俺も甘酒を口にする。


「うまい…」


その甘酒は、これまでに飲んだことのある甘酒の中では、郡を抜いて美味しかった。

俺がぽつりと呟いたその言葉に、嬉しそうに視線をこちらにやる円堂。


「そうだろ?作り手のおばちゃんが、今年もみんな幸せになりますようにって、願いをこめて作るんだ!だから美味しいんだ!」


そう言って笑う。


「あらやだ守ちゃん!そんなことないよ。ただ、たくさんの量をいっぺんに作るから美味しく感じるだけさ」


そう言って、甘酒の鍋をまぜていた、おばさんが照れたように笑う。
見れば、先ほど甘酒を渡してくれた優しそうなおばさんだった。


「守ちゃん、大きくなったと思ってたけど、口も達者になったんだな!」


そんなおばさんと円堂のやりとりに、煙草をふかしていたおじさんが茶々を入れる。


「そんなんじゃねぇよ!」


そう言って真っ赤になる円堂。

そのやりとりが何ともおかしく思えて、俺は声を殺して笑う。


「ああ!豪炎寺!こっそり笑ってんじゃねぇぞ!」


そんな俺の様子に気付いたのか、ますます赤くなった顔でこちらを睨みつける円堂。
俺は、なぜだか分からないけれど、おかしくておかしくて、円堂に睨まれていてもお構いなしで、くっくっと笑った。







「今日はありがとうな豪炎寺!」


俺の家と円堂の家へ向う分かれ道。
街灯の下で円堂がそう言って笑う。


「ああ、こちらこそ今日はありがとう。楽しかった。」


そう言って微笑めば、円堂は照れ臭そうに、へへへと笑った。


「俺も、豪炎寺と一緒にお祭り行けてすっごく嬉しかった。また行こうな!」


幸せそうにそう言う円堂に、俺まで幸せな気持ちになる。


「ああ。またぜひ誘ってくれ。」


そう言って笑う。
円堂は「おう!まかせとけ!」と言って、元気いっぱいに親指を立てた。


「それじゃあまた明日。学校で」


俺がそう言って微笑めば、嬉しそうに細められる円堂の眼。


「うん!また明日!」


そう言って元気いっぱいに手を振りながら帰り道をかけて行く円堂。
同じく、帰り道を行く俺の手の中には、たくさんの食べ物と屋台の景品がゆれる。

美味しい食べ物、楽しそうな円堂、優しい人達。
今日は本当に、お腹も心も満腹だ。
いい夢見れそうだな…
そんな事をぼんやりと考えながら、瞬く星空を仰いだ。





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厄神祭って日本中にあるのかしら?汗
私の住んでる地域は毎年盛大に行われます。

私も、もう地元の神社でたこ焼きを買って帰るくらいですが、昔は仲の良い友達や、
クラスの皆で遊びに行ったものです。

お祭りは、どの季節のものも心躍りますね^^

気のいいキャプテンはどこへいっても人気者です。
近所のおじちゃんおばちゃんに守ちゃんって呼ばれて、可愛がられていればいいなぁという妄想です。







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