「もしもし修也?」
「うん…」
「ごめんなさい。急患で…今晩帰れないわ…」
「分かった」
「本当にごめんね。」
「いいよ。仕事お疲れ」




あなたの隣




「もう後30分で新年ですね!今夜は冷え込みますので、初詣など行かれる方は暖かくなさってくださいね!」


テレビのニュースキャスターが、何とかとか言う、なかなかに有名らしい寺の前で鼻の頭を赤くしながら笑っている。
オレ、豪炎寺修也はため息をついてテレビのチャンネルを変える。

どこも面白い番組がやっていなくて、俺はテレビを消した。

一人っきりのリビングは暖房をかけているのに何だか肌寒い。
俺はテーブルの上にある、一人分の年越し蕎麦が入っていたどんぶりを持って電気を消した。

年末年始やクリスマス、世間が大型連休と言われている休暇を家族と過ごす事は少ない。
仕事柄仕方のないことだ。
そんな両親の仕事は純粋にすごいと思っているし、寂しいと思ったことはない。
ないはずなのだが…

もう一度はぁとため息を吐く。
冷えきった台所にため息が吸い込まれる。

洗い物を終えると、二階にある自分の部屋に向かった。

面白いテレビはないし、何だか気持ちも沈んでいくばかり。
こんなことならさっさと寝てしまおう。
そう思って自室のドアを開ける。
余分な物がないスッキリとしたその部屋の、窓際にある勉強机に腰掛ける。
机の上にある写真立てには、雷門中のイレブンが楽しそうに笑っている。
その写真立てを手に取り、その中でも一際ニコニコと楽しそうな一人の男に目が行く。


(まったくこの男は…)


夏の太陽のような元気な笑顔を見て顔が緩む。
さっきまで冷えきっていた心が少し暖かくなったような気がした。
思えば、この男に出会ってから俺は色々な事が変わった気がする。
表情が豊かになったと両親から言われ、幼い妹からは最近いつも楽しそうだねと、微笑まれた。

楽しそう…か…

写真立てを机に戻して苦笑する。
毎日毎日無茶な特訓をして周りを心配させて、バカみたいに真っすぐで…
あいつの隣にいると何だか暖かくてつい笑ってしまうんだ。

思い帰せば、春に初めてあいつに会った時から色々な事があったな…


ぼんやりと今年の出来事に思いを馳せる。


ガシャンッガシャ


「うわわ…!」


不意に家の近くで音がした。
自転車か何かが倒れた音と、慌てたような人の声。

何事かとと思って、締め切ったカーテンを少し開けて、外の様子を伺う。

外にいる人物の姿を見て、俺は固まった。


「円…堂!?」


倒れてしまった自転車を慌てて起こしている。
やけに大きなカバンを抱えて、頭にはオレンジ色の見慣れたバンダナが見える。
間違いない。
円堂だ。

「円堂!!」

俺は慌てて窓を開けて叫ぶ。
夜中だからあまり大きな声は出せないが、それでも円堂には聞こえたようで…


「豪炎寺…」


と俺を見上げて苦笑した。









「年賀状配達してたんだ!」



一階のリビングにあるソファに腰掛ける、蜜柑を頬張りながら円堂が笑う。


窓の外に円堂を見つけたあの後、俺は慌てて階段を掛け降りて円堂にかけよった

なぜこんな真夜中にこんな所にいるんだとか、この異様にでかいカバンはなんだとか、
色々聞きたい事はあったが、触れた円堂の手が驚く程に冷たかったから…
取り敢えず有無を言わさず家に上げた。


「悪いよ豪炎寺。こんな夜中に…」


玄関で円堂が本当に困ったように、眉をハの字にしてモジモジしている。


「いい。両親は仕事でいないし、気にする事はない。」


俺がそう言っても、まだ円堂はモジモジしている。


「俺がお前と一緒に居たいんだ。円堂…」


真っすぐに見つめてそう言えば、円堂は少しはにかんで、
じゃあ…お邪魔します。とぺこりと頭を下げた。


リビングのソファに円堂を座らせて、熱いお茶を淹れてやる。
ありがとう〜と言って受け取って、美味しそうに飲む円堂。
その隣に腰掛けて、なぜこんな所に居るのか聞けば、先程の答えが返ってきた。


「年賀状配達…?」


俺が怪訝な顔で聞きなおせば、円堂はお茶を一口飲んでにこにこと笑う。


「うん!年賀状、書くの忘れててさ、昨日慌てて書いたんだ。」


照れたように笑う。


「でも元旦にはどうしても間に合わないだろ?俺、どうしても元旦にみんなに見
てほしかったから…」


「だから自分で配ってたのか!?」


俺が驚いて聞くと、円堂は嬉しそうにうん!と頷いた。


「朝から配りだして、昼には終わるはずだったんだ…
でも、皆の家に行くたびに話が長くなっちゃって…」


困ったように頬をかく。


「皆の家の人がいっぱいお土産くれてさ」


幸せそうに笑って、隣に置いてある大きなカバンを撫でた。

そうか…何が入っているのかと思えばそういう事だったのか…

円堂が年賀状を配りに行って、家に上げてもらい、家族の皆さんと団欒した後、
お土産を持たされて慌てて次の家に行く姿が、容易に想像できて、俺はくっくっと笑ってしまった。


「笑うなよー」


と恥ずかしそうに円堂が俺を睨む。


「悪い悪い」


と微笑むと


「まぁいいけどさぁ…」


と照れてそっぽを向いてしまった。

拗ねたようなその仕草が、いつもの元気な円堂と違って、
何だかしおらしかったので俺はまた笑ってしまう。

円堂は、そんな俺を困ったように横目で見つめて、へへっと笑った。


「あ!そうだそうだ!」


何かを思い出したように、お土産が詰まっているカバンとは別のカバンをごそごそとし始めた。
そして嬉しそうに振り返って、


「最後になっちゃったけど…はい!豪炎寺!」


何かを差し出した。

俺は笑いを引っ込めて、円堂が差し出したものを受け取る。


「年賀状か…?」


お世辞にも上手いとは言えない字で、俺の家の住所と、豪炎寺修也様と書いてある年賀状。
裏を見れば、夏にみんなで円堂の家でバーベキューをした時の写真が印刷してあった。


「いいだろ。その写真。みんなすっげぇ楽しそうで。」


懐かしそうに、幸せそうに円堂が笑う。
雷門中の皆、もう自分の中学に帰ってしまったキャラバン組の皆、
事件の後、仲良くなったエイリアの皆、みんな楽しそうに笑っている。


「ああ…いい写真だ…」


写真の中の皆の笑顔に心が暖かくなる。
俺は写真を見つめて微笑んだ。


「あああああー!!!」


俺と一緒に大人しく写真を眺めていたと思ったら、突然円堂が大きな声を出す。
突然のことに肩をびくつかせて、俺は円堂を見る。


「どうした?」


「お正月だ!」


壁掛け時計を指差す円堂。

その指の先の時計は、12時10分を指している。


「知らない間に新年を迎えちゃっな」


ふにゃりと円堂が笑う。


「ああ」


円堂につられて俺も微笑む。


「なぁ豪炎寺」


「ん?」


「これからも、ずっと一緒にサッカーしてような」


ふわりと笑った円堂の笑顔は暖かな春のお日さまのようだった。


「ああ。こちらこそよろしくな」


俺はそう言って、こつんと円堂の額と俺の額を合わせた。


円堂の隣はあまりにも暖かくて、気持ちが良くて、離れがたい。
円堂と出会って、表情が豊かになって、笑うようになった代わりに、一人が少し
寂しいと思うようになってしまったのかもしれない。
だけどそれもいい事なのかもしれないな。

円堂の嬉しそうな笑顔を見ながら、そんな事を思った。


明けましておめでとう。
今年も、これからもよろしく。











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円堂キャプに出会って、みんないい方向に変わっているよね!ということで…
これからもorange!!をよろしくお願いしますm(__)m




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