「…えーっと…?」
「途中でばったり出会ってさ…」
「悪いな豪炎寺!」
「今日はオレたちも一緒させてもらうぞ!」
「いいけど…お前ら全然悪いと思ってないだろ…」




僕に下さい!




晴れた日曜の朝。
いつもなら眠っているこの時間。
俺はいそいそと自宅を出る。
心なしか浮かれる足取りで住宅街を歩く。
今日は、円堂と次に試合をする会場を下見に行こうかと、前々から計画していたのだ。
円堂が女の子になって、晴れて両思いとなった俺たち。
これは所謂、巷で噂のデートと、そういうものになるのだろうか…
若干の期待と不安。
その両方の気持ちが入り混じったような、何ともいえないこそばゆいような気持ちを抱えたまま、集合場所の駅に向う。


「豪炎寺!」


人の行き交う稲妻駅。
その改札の入口に円堂はいた。
俺の姿を見つけると嬉しそうに大きく手を振る。
そんな円堂に、俺も心が温かくなるような気がして、微笑んで手を振りかえした。


「すまない…待たせたな」


円堂の側に歩み寄り、申し訳なさげにそう言えば、勢いよく首を横に振る円堂。


「ううん!オレも今来た所なんだ!」

そう言ってにこりと笑う。
円堂に退屈な思いをさせていなかった事にほっとしつつ、俺もつられて微笑む。


「じゃあ…行くか?」


そう言って、俺が歩き出そうとすれば


「あ…!ごめん豪炎寺!ちょっと待って!」


慌てて俺を引き止める円堂。
何か忘れ物でもしたのだろうか?そう思って不思議そうに円堂を見つめる。
俺の視線を受けて、申し訳なさそうに眉をハの字に曲げる円堂。


「ごめん…豪炎寺…実は…」


「おーう!待たせたな!円堂!」


「レジが込んでいて中々買えなかった!すまん!円堂。」


円堂が、ごめんのその先を言おうとしたちょうどその時、駅の隣のコンビニの方から声が聞こえる。
その声は、常日頃からよく耳にするもので…


「染岡…風丸…?」


声聞こえた方に視線をやれば、同い年の割には、顔も体格も大人びた、桃色の髪の坊主頭と、さらさらと綺麗な青髪に片目を隠したこれまた綺麗な顔立ちの少年。
染岡と風丸が、コンビニの袋を片手にこちらにかけてくる途中だった。


「おう!豪炎寺!来たか!」


俺の姿を見つけて、笑う染岡と風丸。
なんだ?なんでこの二人がここに居るんだ?

ぽかんとあっけに取られたまま、目の前の二人を見つめる。
そんな俺の隣で、申し訳なさそうに円堂が呟く。


「ごめん…豪炎寺…途中でばったり出会っちゃって…試合会場の下見に行くって言ったら…」


俺たちも一緒に行くって言われてさ…

本当に申し訳なさそうに眉をふにゃりと下げて俺を見上げる円堂。
円堂のことだ、この二人にそう言われれば、断れないのなんか目に見えている。
風丸と染岡、あと、今日はここには居ないが半田は、円堂と特に付き合いが長いから…
俺としては、円堂と二人きりで居られるチャンスが無くなってしまって残念だけれど…
俺も、気心知れたこいつらと居るのは悪くないし、それに何より、こいつらと一緒に居ることで、円堂が楽しい気持ちになるのならそれが一番いいと思うので…

ぽんと円堂の頭に手を置く。
びっくりしたように俺を見上げる円堂。
その驚いた瞳を見つめながら


「大丈夫だ。今日はみんなで一緒に遊ぼう。」


そう言って、円堂の頭に置いていた手をゆるく動かす。
すると、何を言われるのか構えていたのだろう、不安そうにしていた円堂の表情がみるみる明るくなってゆく。


「うん。ありがとう豪炎寺」


そう言って、ふにゃりと甘く笑った。


「おーいお前らー」


「早くしないと電車行っちゃうぞー」


はっとして、声の掛けられた方を振り向く俺と円堂。
そこには、困ったような照れているような表情の染岡と風丸が、改札の前でやれやれと呆れたようにこちらを見ている。

うっかり、あの二人のことを忘れていた俺と円堂は、二人して自分達しか見えていなかった事の恥ずかしさに顔を赤らめながら二人の下に駆け寄った。


ガタンゴトンと揺れる電車。
そのボックス席に座る俺たち4人。
窓と席との間にわずかに設置されたテーブルに、ジュースと少しのお菓子を広げる。
電車の走る速度にあわせて変わる景色に目をやりつつ、雑談を繰り返す。


「あのシュートはすごかったなぁ〜」


「いや!あのシュートは、ミッドフィルダーのパスが良かったからだよ!」


雑談の内容はもっぱら昨日のサッカーのテレビ中継の話で持ちきりだ。
あの選手のあのプレイが良かっただの、俺が監督なら、あそこの交代はあの選手だっただの、皆好き勝手なことを言う。
俺は、楽しそうな皆の顔を眺めつつ、ぽつりぽつりと会話に口を挟んだりしていた。


「円堂。ここ、チョコレートが付いているぞ」


不意に、円堂の隣、俺の斜め前の席の風丸がそんな事を言う。
その言葉に円堂の方を見れば、話に夢中になりすぎて気が付かなかったのか、円堂の唇の端にチョコレートが付いている。


「え…ここ?」


そう言って、あらぬ方向をゴシゴシと擦る円堂。


「ああ!違うよ!こっちだよ!」


そんな円堂をじれったそうに見守る風丸。
その姿が、世話の焼ける兄弟を見守る兄貴か何かに見えて、微笑まして思わず噴出して笑う。
急に笑い出した俺を、怪訝な顔で見つめる風丸と円堂。


「いや…悪い…お前らがあんまり可愛いからさ…」


そう言ってくっくっと笑いながら、円堂の口の端に付いたチョコレートをぐいっと親指で拭う。


「ほら取れた。ここについてたんだよな?風丸」


そう言って、さっきまでじれったそうにしていた風丸を見れば、やけに慌てたように「お…おう!」と頷く。
その顔はなぜだか真っ赤だ。
隣の円堂に顔視線を移せば、風丸以上に顔を真っ赤に染めて、俺がさっきチョコレートを拭ってやって所を手で押えて、俯いている。
なぜ二人して様子がおかしいのか分からず、眉間に皺を寄せていると、隣の席の染岡がはぁと盛大なため息をついた。


「お前って…実は天然だよな…」


ばっと染岡のほうを見れば、染岡も耳を赤くして、窓の外なんか眺めている。


「そんなキザな事…俺にはできねぇ…」


そうぶっきらぼうに呟く染岡。


キザ…?
そっぽを向いてしまった染岡から視線を外してもう一度ボックス席をぐるりと見渡す。
俺の目に映る顔は、どれも真っ赤で黙り込んでしまっている。
俺は…何かこいつらの顔を赤くするような事をしたのだろうか…?
すっかり静かになってしまったボックス席で、俺は一人訳が分からないというような顔で、ただただ電車に揺られた。







「うっわー!でっかいスタジアム!!」


きゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐ円堂。
先ほどの、電車の中でのしおらしさは何処へやら…
大きなサッカースタジアムの中に入るや否や、大はしゃぎで嬉しそうに走り回っている。


「円堂!あまりうろちょろするなよ!」


放っておくと、どこまでも走ってゆきそうな円堂の後を追いかける風丸。
俺と染岡は、そんな二人の様子を、スタジアムの観客席入口の前でぼんやりと眺めていた。


(あ…つまづいた…)


もう随分遠くまで走っていってしまった円堂が、何かにつまづいて転びそうになるのが見えた。
慌てて駆け寄る風丸。
着せ替え人形程度の大きさにしか見えないこの距離では、二人の表情を確認することなど出来ないが、容易に想像できる。
今、円堂は困ったように、でも可笑しそうに笑っている。
そして風丸は怒ったように円堂に世話を焼いているのだろう。
微笑ましさに思わず顔が緩む。


「なぁ…豪炎寺」


それまで俺と同じように二人を見守っていた染岡が、不意に声をかける。
なんだ?と染岡の方に顔を向ければ、染岡は俺の方を見ておらず、視線は今ではもうすっかりスタジアムの向こう側の観客席まで行ってしまった二人に向けられている。


「今日…悪かったな…せっかくのデート邪魔しちまってよ…」


無表情でそう呟く染岡。
その真意は計り知れない。


「別にいいさ…俺もあいつも、お前らと一緒にいるのは楽しい…」


そう言いつつ、ゆったりと視線をスタジアムの向こうに戻す。


「お前のことは信頼している…けどな…」


ポツリと呟く染岡。
いつも、やたらと大きな声の染岡にしては珍しい小さな声。
独り言でも呟いているような…
そんな染岡の様子に、分かった気がした。今日の二人の行動の意味が。


「今日一緒に行くって言ったのは…俺に円堂を任せて大丈夫か見定めるためだな…?」


俺の後ろに居る染岡が頷く気配がした。


「ほら、俺らってさ、何だかんだ円堂と付き合い長いだろ?苦労もいっぱい共有してきたわけよ。」


先輩がみーんな引退して、俺と円堂と半田と3人しか部員居なくなった時とかさ大変だったんだぜ?

そう言って染岡が笑う。
俺はただ黙って前だけを見つめる。


「風丸もさ、小さい頃から円堂と一緒だっただろ?だからあいつやけに円堂に過保護な所あるしさ…」


そこまで言うと、はぁーっと盛大にため息を吐いて、階段を降りる。


「何ていうか…大事な娘を嫁に出す親心みたいな…そんな感じなんだよな…」


そう言って俺の隣に並んで、俺の視線の先と同じ方を見つめる。
そこには、嬉しそうに身を乗り出して、スタジアムを指差す円堂と風丸の姿が。


「それで?」


「お?」


今まで黙っていた俺が急に口を開いたので、予期していなかった染岡が若干驚いたようにこちらを見る。


「俺は親父さん達から見たらどうだった?」


合格だった訳か?

そう言って染岡のほうをじっと見つめる。
俺の視線を受けて、一瞬うっと息を詰まらせた染岡だったが、一度呼吸を置くと、真っ直ぐに俺の方を見つめる。


「円堂の事、よろしく頼みます。」


そう言って笑うから。


「任せて下さい」


俺もニヤリと笑った。


「豪炎寺ー!染岡ー!」


スタジアムの向こうから大きな声がする。
見れば、円堂がこちらに向って大きく手を振っている。
俺たちもつられて片手を挙げる。


「円堂を見ている時のお前、本当にいい顔をしていたよ」


こっちが恥ずかしくなるくらいな

手を振りながら染岡が呟く。


「俺としてはさ、お前も大事なチームメイトだから…お前にもちゃんと幸せになってほしんだよ…」


突然の言葉に勢いよく染岡を見上げる。
隣の染岡は、柄にも無いことを言ったせいか、若干顔が赤い。


「円堂が、ちゃんとお前を幸せに出来るのかって事も、今日は見に来たんだけどさ…」


ちらりと横目でこちらを見る。
俺と視線が合うと、一瞬と惑ったように宙を仰いだ後、こちらに向き直って


「いらん心配だったみたいだな!」


にかっと笑った。
その染岡の笑顔に俺もつられて


「ああ。当たり前だ」


そう言って、ニヤリと笑った。


俺が、円堂と一緒に居て幸せにならないはずが無いだろう?
円堂が俺の隣で笑っていれば、それが俺にとっても一番幸せだ。
だから俺は守るよ。
円堂が悲しまないように、俺の隣でずっと笑っていられるように。
ずっとずっと大事にします。

だから…

娘さんを僕に下さい!










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携帯サイトの方で恐縮にも相互させて頂いている「泣くぞ俺。」あならぐさんに押し付けたものです。
頂いたリクエストは「ノンケシリーズの風丸と染岡絡みの豪円」だったのですが…
なぜこんなことに…!震
あれですね…染岡さんと風丸さんは、私の中でひな鳥を見守る母鳥な感じなので…
うっかりこんなことに…!!
ああああこんな小説ですが、よければもらってやってください!

このたびは、相互本当にありがとうございました!!







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