世界で一番あたたかい日




学校も、もうすぐ冬休みに入ろうかという寒い冬の日。
稲妻町に珍しく雪が降った。
グラウンドは使えないし、体育館で軽い筋トレをした後、早めに部活が終わった。
こんな日は早く家に帰って温まるに限る!そういって、皆そそくさと家路についてしまった。
最後までごそごそと身辺整理で部室に残っていたオレ、円堂守。
鞄のファスナーをジーッと閉める。


「ごめん豪炎寺!お待たせ!」


オレがそう言えば帰ってくるやわらかい微笑み。


「それじゃあ帰るか」


サッカーの雑誌をぱらぱらとめくっていた豪炎寺が、鞄を持って立ち上がる。


「おう!」


オレは笑って豪炎寺の後を続いて部室を出た。


「雪…止まないなぁ…」


「そうだな…明日の朝までは降り続けるらしいな…」


ぼんやり空を眺めながら呟く。
灰色の雲は、しんしんと雪を降らせ続けている。


「明日は学校休みになるかもしれないな」


ニヤリと意地悪そうに笑う豪炎寺。


「ええ…!じゃあ部活できないじゃないか…」


顔面蒼白でその顔を見つめれば、可笑しそうに笑う。


「お前は本当にサッカーの事ばかりだな」


そう言ってぽんぽんと頭を撫でられる。
そんな豪炎寺の笑顔にドキドキと高鳴る心臓。
甘やかされて、嬉しい気持ちになるなんてなんだか悔しくて、怒ったように頬を膨らませば、目の前の豪炎寺はますます嬉しそうな顔で「ごめんごめん」と笑った。


「バカ…」


俯いて小声でそう呟けば、クスクス笑って頭を撫でる豪炎寺。
バカバカ…ずるい…
どんどん暑くなる顔を見られないように、豪炎寺の手を振り払って駆け出す。


「雪降ってるし!寒いから早く帰ろう!!」


正門に向って少し走った後、振り返ってそう叫べば、今だ部室の入口で立っている豪炎寺。


「顔真っ赤…全然寒そうじゃないじゃないか…」


そう言って、可笑しそうに、嬉しそうに笑うから…
オレは、ますます体が暑くなって、豪炎寺を置いて一人駆け出した。






「悪かったって円堂」


絶対に悪かったなんて思っていないだろう豪炎寺が言う。
うっすらと雪が積もった商店街。
その雪のせいで、人通りの少ないそこを、ずんずんと怒ったように歩くオレ。
2歩後ろを歩く豪炎寺の表情は見えないけれど…
用意に想像がつく。
豪炎寺は、オレの揺れる背中を眺めながら愛おしそうに笑っているのだ。

そんな豪炎寺の顔を考えるだけで、またオレの心臓はドキドキとうるさくなる。

甘やかさないで欲しい。
甘やかして欲しい。

そんな真逆の感情が、オレの心でぐるぐると混ざり合っている。

オレももう、全然怒っている訳ではないのだけれど、そんな気持ちのせいで、どうにもこうにも豪炎寺の顔を見るのが恥ずかしくて、怒ったような態度を取ってしまうのだ。


「なぁ…円堂…」


豪炎寺の声が掛かる。
あまりにも愛おしそうなその声に、オレの肩はピクリと揺れる。

分かってるんだ、豪炎寺は
その声で、甘やかすように名前を囁かれれば、オレが反抗できないことを

いやにゆっくりとした動作で、豪炎寺の方を振り向けば、想像通り、優しく微笑んでいる豪炎寺。
オレは、真っ赤な顔で俯く。
ふわりと降りてくる大きな手。


「やっとこっち向いてくれたな」


そのままやんわりと頭を撫でてくれる。


「もう機嫌直せよ」


そう言って、困ったように甘く囁く豪炎寺。
その、耳に心地よく響く低めの声に蕩けそうになりながら、必死に言葉をつむぐ。


「最初から…怒ってないよ…ただ…恥ずかしくて…」


ごにょごにょと一生懸命呟くオレを、頭半個分上から見ていた豪炎寺は


「円堂…可愛い…」


そう言ってくすりと笑う。
耳元で囁かれたその言葉は、一瞬でオレの体を駆け巡って体温を上げる。
心臓が苦しい。暑くて暑くて本当に蕩けてしまいそうだ。
力の入らない体で豪炎寺を見上げる。
頭半個上の豪炎寺は、愛おしそうにオレを見つめていて


「バカやろう…豪炎寺…」


オレは、なんとかそれだけ呟くと、涙目で豪炎寺を睨んだ。
すると、今まで幸せそうに笑っていた豪炎寺の表情が一瞬ばつが悪そうな顔になる。
何事かと思って、オレが目を逸らさずに見つめていると、


「わわ…」


途端ぐしゃぐしゃとかき回されるオレの髪の毛。
訳が分からず、呆けていると


「バカはお前だ…」


そう言って真っ赤な顔で歩き出す豪炎寺。
慌てて豪炎寺の後を追いかける。


「豪炎寺?」


不思議そうに豪炎寺を見上げれば、豪炎寺は真っ赤な顔で眉間に皺を深く刻んでいる。

なんだなんだ?と頭に?を並べれば、


「無意識なのが余計たちが悪い…」


そんなオレを横目で盗み見てため息を吐く豪炎寺。

無意識?なんのことだ?

怪訝な顔で豪炎寺をじぃーっと見つめる。
そんなオレの視線を受けて、豪炎寺は困ったように笑ってオレの頭に手を置く。


「オレ以外の男の前で、さっきみたいな顔しないでくれよ?」


ぽんぽんと頭を撫でられる。


「ま、無理だろうけどな…」


そう言って、お手上げですとでも言うように笑う。
オレは、はっきり言って何のことか分からなかったけれど、豪炎寺が当然のように無理ですと決め付けているようなので、諦めないことが信条のオレは


「何かよくわかんないけど、大丈夫だぜ!豪炎寺!もう豪炎寺以外の前であんな顔しないからな!」


そう言って力強く笑う。
そんなオレを呆れたように見つめた豪炎寺は、


「期待せずに期待しておくよ」


そう言って微笑んだ。


「なんだよそれー」


オレが怒ったようにそういえば、何も言わずただただ笑う豪炎寺。


「まぁいいだろ。ほら、寒いから早く行くぞ」


ごまかしたようにそう言って歩き出されれば、オレはそれ以上何も聞けない。
だけど、どこか機嫌のよさそうな豪炎寺の後姿を見て、まぁいいか…という気持ちになって、先を行く豪炎寺の後を追いかけた。




ちらちらと雪が降る帰り道。
他愛無い話をして家路を歩けば、もうオレと豪炎寺の家へと続く分かれ道だ。
冬は暗くなるのが早く、分かれ道にぽつりと一つある街頭は、もう明かりがついていた。
その薄明かりの下で、立ち止まる。


「じゃあ…また明日な」


「ああ」


そう言ってオレが別れの挨拶をすれば、柔らかく微笑んでくれる豪炎寺。

仕方のないことだけど、豪炎寺とのお別れはいつも淋しい。
豪炎寺と居る時は、ドキドキして苦しいけど、それの倍くらいいつも楽しいから…
またすぐに会えるんだと分かっていても、悲しくなる。

そんな物悲しい気持ちを顔に出さないように笑う。


「それじゃあ…」


そう言って、後ろ髪を引かれる思いで背中を向ける。


「円堂」


後ろ背にいやに近くに豪炎寺の声が聞こえたので、びっくりして声のした方に振り向く。
途端、温もりに包まれるオレの体。


「円堂…」


オレを呼ぶ甘い声が、耳元で聞こえて、物悲しさでしょぼくれていた筈のオレの心臓は、急にドキドキと脈を打ち始める。


「豪炎寺…」


熱さで震える声で、オレを閉じ込めている腕の主の名前を呼べば、その腕にきゅっと力がこめられた。
しんしんと降る雪の音と、ドキドキと高鳴る心臓の音がうるさい。
時間が止まってしまったような感覚の中、オレは豪炎寺の腕の中で、ぎゅっ目を瞑った。


「円堂…」


どれくらいの時間そうしていたのだろうか?
止まっていた時間は豪炎寺がオレの名前を呼ぶことでいつも通りに動き出す。
囁くようなその声に、震えそうになる体をおさえて耳を澄ます。


「好きだよ…」


甘い甘い響きで囁かれたその言葉は、オレの全身を駆け巡って、身体中をしびれされる。
きゅうっと胸が締め付けられて、ドキドキして息も出来ない。


「オレも…好きだよ?」


なんとかそれだけ口にして、豪炎寺の学ランにしがみつく。
すると豪炎寺はオレを抱きしめている腕に力をこめる。


「あ…」


ぎゅうっと力強く抱きしめてくる豪炎寺の腕は、制服の上からでもヤケドしそうに熱い。
その熱さに、またオレの心臓はドキドキと高鳴る。
心臓の音だけがやけにうるさくって、あまりの熱さにが分からなくってしまったオレは、ぎゅうっと目を瞑った。

ふっとオレをきつく抱きしめていた腕が解かれる。
名残惜しそうにゆっくりと離れていく豪炎寺の体。
オレも、握り締めていた豪炎寺の学ランから手を離す。


「ごめん…」


瞳を逸らしながら豪炎寺が呟く。
まだ熱さの引かない顔をぶんぶんと横に振る。


「なんで…謝るんだよ?オレ…すっごく嬉しかった」


小さな声で囁けば、熱っぽい瞳を細めて笑う豪炎寺。
その笑顔はやけに色っぽい。
ドキドキ高鳴る胸を押えながら微笑み返す。


「また…明日な…」


そう言って、蕩けた笑顔の豪炎寺は、コツリと額を合わせてくる。
その行為が、色っぽい笑顔に反していやに子供っぽく感じられて、なんだか少し可笑しい。


「ああ…また明日…」


きゅっと豪炎寺の学ランの裾を握りながらオレも笑った。







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携帯サイトのほうで、僭越ながら相互リンクをして下さった、晃良様に押し付けた小説。
ありがたくも、リクエストを頂きまして、ノンケシリーズで甘々なお話をとのことでしたので
調 子 に 乗 り ま し た !
大好きな晃良様からのリクエストで、しかも甘いのなんて…
これはもう、私の中のパトススを全開で書かせていただかねば・・・!!と、漲った結果がこれです…
すごく糖度高めを目指してみましたが…なんだかすみません…
といいますか、甘いのしか書けない私の駄目な文才を心配して下さったのか、
甘いのをとリクエストして頂いて…
私は晃良さんの器のでかさに感動しています!
小説書かせて頂いて、本当にありがとうございました!!
こんな駄目な私ですが、これからもどうぞよろしくお願いしますm(__)m




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