「どうしよう…渡せるかな?」
「絶対大丈夫!がんばって!」
(なんだなんだ?)




sweet,sweet,chocolate




今日は朝からなんだか空気が甘ったるい。
女子はハラハラ。男子はソワソワ。
そんな甘い空気の中、オレ円堂守は自分の教室に向かって急いでいた。


「おはよー!」


オレが元気に挨拶すれば、教室の中の気のいいクラスメイトたちは、「おはよう!」と同じく、元気いっぱいにあいさつを返してくれる。


「おはよう!豪炎寺!」


自分の席に鞄を置いて、斜め前の席の豪炎寺にあいさつをする。
豪炎寺はそんなオレをやわらかいまなざしで見詰めて、「おはよう」と返してくれた。
そんな豪炎寺の側に、パタパタと駆け寄る。


「あのさ、豪炎寺、今日の部活なんだけど…」


「おーい豪炎寺、お前にお客さんだぞー」


オレが、豪炎寺に今日の部活のメニューのことで相談をしようとすると、クラスメイトの男子一人が大きな声で豪炎寺を呼ぶ。


「悪い…」


「ううん!いいよ。また後でゆっくり話すな!」


困ったようにそういう豪炎寺に、オレは笑って返した。

そんなオレの頭をポンポンと撫でて、豪炎寺は教室の外に居るであろう「お客さん」の元に、いやにゆっくり歩いていった。


「いやぁ〜流石豪炎寺。今朝からもう3人目や。」


豪炎寺の背中を見送るオレの背に聞きなれた声が聞こえた。


「リカ!おはよう」


「おはよう円堂。」


オレが声の聞こえた方に振り返れば、にかっと笑ったリカが、何やら小包をもって立っていた。


「ほぃ円堂。いつもお世話になってます。」


そう言って、手に持っていた小包を、オレの手にポンと置く。


「?ありがとう。なんだこれ?」


ピンク色の可愛らしい小袋に、これまた可愛らしい真っ赤なリボンが巻いてある小包。
オレの手のひらにちょこんと収まっているその小袋を眺めたまま、オレは頭に?マークを並べる。


「なにって円堂、チョコレートやんか。」


もう、いややわ〜

そう言って笑ったリカは、バシバシとオレの背中を叩く。
チョコレート…そっか、チョコレートか。


「ありがとうリカ!オレ、チョコレート大好き!」


なぜリカがオレにチョコをくれるのか、理由は全く分からなかったが、せっかくリカがこんなに可愛らしくラッピングまでしてくれたのだ。
オレは嬉しくて、そう言って笑った。

リカと話をしていると、チャイムが鳴って、がたがたと席に着く生徒たち。
リカも「ほな!」と言って自分の席に帰っていく。
オレも笑って片手を挙げて、自分の席に着く。
けれど、斜め前の豪炎寺の席はまだ空いたままだ。


豪炎寺遅いな…


そう、ぼんやりと空いた豪炎寺の席を眺める。
すると、ガララと教室の前の扉が空いて、少し慌てたように豪炎寺が入って来た。
教室を足早に進んでいく。


「朝から羨ましいな…豪炎寺…」


「この野郎…男の敵めっ…!」


豪炎寺が通り過ぎるたびに、恨めしげに豪炎寺を見つめて呻く男子生徒たち。
視線がいつもより恐い気がするが…気のせいだろうか?


「勘弁してくれよ…」


そう言って、男子生徒たちに返す豪炎寺は、どこか疲れたように見える。


どうした?


オレが、席に着く豪炎寺にそう尋ねようとした時、


「はーい朝礼始めるぞー」


ガラガラと教室の扉が開いて、先生が入ってきてしまった。
オレは出しかけた言葉を飲み込む。

また後で聞こう…

そう心の中で呟いて、オレは慌てて机の上の鞄を片づけた。









「何か今日…豪炎寺忙しいな…」


オレはぼんやりと教室の前の扉を見つめたまま呟く。
それというのも、朝礼前のあいさつ以降、1度も豪炎寺と話ができていないのだ。
オレが豪炎寺に話しかけようとすると、必ず豪炎寺に「お客さん」が来るのだ。
それも、女の子ばかり。
豪炎寺が女の子に人気があるのは前からだけど…毎時間の休み時間にやってくるなんて…
今日はなんだか変だ。

はぁーっと大きなため息をついて机に突っ伏する


「なんだろう…モヤモヤする…」


豪炎寺が女の子に呼ばれる度にざわざわとざわめくオレの心。
これは、この気持ちは、文化祭で女の子二人が豪炎寺の話をしていた時に感じた気持ちに似ている。
もう一度、はぁと溜息をついて、自分の腕に顔を埋める。


「円堂くん!」


そんなへこたれたオレの肩をぽんと叩く、可愛らしい声。
呼ばれるままに顔を上げれば、にこりと笑った秋が立っていた。


「秋…」


「なんだか元気ないね。これ、食べて元気出して。」


はい!


そう言って差し出されたものは、今朝リカがくれたものと同じような可愛らしい小袋だった。
ピンク色のきれいなラッピングに、先程までのギスギスした気持ちが溶かされたような気分になって


「ありがとう秋」


その小袋を受け取って、ふにゃりと笑う。
そんなオレを秋は嬉しそうに見つめて


「どういたしまして。いつもお世話になってます」


と言ってきれいに笑った。


「円堂くんは、豪炎寺くんにもうチョコ渡した?」


オレが手の中の小包を嬉しそうに眺めていると、秋がそんなことを聞いてくる。
オレは、視線を秋のほうにやって、きょとんと瞬く。


「チョコを?豪炎寺に?なんで?」


オレが小首を傾げてそう聞けば、秋は驚いたように目をまん丸にする。


「円堂くん…もしかして今日何の日か忘れてる…?」


恐る恐るとでも言うように秋がオレに尋ねる。

今日?今日は何かある日だっけ?
秋の言葉に、オレは黒板の右端に大きく書かれている日付に目をやる。

黒板には2月14日とでかでかと書いてある。

2月14日…

オレはいまいちその日付にピンとこなくて、黒板を見つめたまま固まってしまった。
そんなオレを見て、なぜだか焦ったように秋が口を開いた。


「円堂くん…今日はバレンタインデー…だよ?」


バレンタインデー…


頭の中で先程の秋の言葉を繰り返す。
ゆっくりと黒板から秋のほうに視線を戻せば、秋は困ったように固まっている。

バレンタインデー…
女の子が好きな友達とか、恋する男の子にチョコを渡す日…
そうか…だから今日は女の子はハラハラ、男の子はソワソワ、甘ったるい空気が流れていたのか…
豪炎寺にお客さんが多いのも、バレンタインデーだから…


そこまで考えて、はたと気づく。


大好きな男の子にチョコを渡す日…


「あああああああ!!」


オレはここが教室であることも忘れて大絶叫する。
クラスの皆が何事かとこちらをみるが、そんなこと気にしている余裕なんか、今のオレにはなかった。
目の前の秋は、驚愕したように口をポカンと開けている。

みるみる青ざめるオレの顔。


「秋ぃ…」


青いの顔のまま秋を見つめる。
秋はそんなオレの表情を固まった表情のまま見つめ返して


「円堂くん…もしかして…」


恐る恐るオレの言葉を待つ。


オレは涙目で秋を見つめて


「オレ…豪炎寺にも…皆にもチョコ…用意してない…」


そう絞り出すように呟けば、
一瞬、オレの机のまわりだけ時間が止まったような感じがした。








「うーん…こんな乙女の1大イベントを忘れるやなんて…さすが円堂…」


腕を組み、タコさんウインナーを頬張りながら、うーんと唸るリカ。
そのリカの机を囲んで、秋は苦笑いしながら、オレはどんよりとしながらお弁当をつついていた。

俺たちは今、教室の一番後ろ、オレの席で固まって座っている。
斜め前の席の豪炎寺は、今日は染岡達と部室でご飯を食べると言って出て行ってしまった。
今日がバレンタインデーだということが分かって、豪炎寺が出て行った理由が解かる。
「昼飯くらいゆっくり食わせろ」と、そういうことなのだろう。
現に、昼休みが始って30分たたないというのに、豪炎寺目当ての「お客さんが」後を絶たない。
そんな女の子たちを微妙な気持ちで眺めつつ、バレンタインデーにチョコを忘れるという大事件を起こしてしまったオレ。
恋愛マスターのリカに相談したところ、豪炎寺もおらへんことやし、乙女会議やな!!ということで、今、この状況に至っている。


「まぁらしいっちゃらしいねんけどな〜」


そう言って、フォークを口にくわえたままにこりと笑うリカ。
オレはその言葉にますます肩を落とす。

そんなオレ達のやり取りを苦笑して見つめる秋。


「どうしよう…今日部活は職員会議のせいで無くなっちゃったし…豪炎寺…すぐ帰っちゃうだろうし…チョコ準備してる暇なんかないよ…」


しょんぼりと落ち込むオレを見て、リカはごくりとペットボトルのお茶を一口飲むと、


「だぁーいじょうぶや!円堂!」


そう言ってにかっと笑う。


え?


と一言漏らして、不思議そうにオレと秋はリカを見つめる。
2人の視線を受けたリカは、にこにこと笑ったまま


「家庭科係りのうちは知ってんねん」


そういって自信満々にオレに向かって親指を立てる。


「今日の5、6限目の家庭科の時間はな…」


オレをまっすぐに見つめるリカ。
オレも固唾をのんでリカを見つめる。


「男子は実習室でエプロン作り、女子は…」


「女子は…?」


ごくりと唾を飲み込む。
そんなオレを嬉しそうに見つめるリカ。
そして今日一番いい笑顔でにかっと笑うと


「調理室でチョコケーキ作りや!!」


そう言ってウインクをかました。
















「はぁい。では各々作業を始めて下さい。」


5限目。調理実習室。
調理実習担当の先生がパンパンと手を鳴らす。
「はぁーい」と元気良く返事をして、1年11組の女子たちはそれぞれ和気あいあいと作業を開始する。


「ほな、うちらも始めよか」


「よろしくお願いします!!」


揃いの割烹着を腕まくりしながらリカが言う。
オレも、そこら辺にあったしゃもじ片手に元気に答える。
秋はそんなオレ達を穏やかに見つめて、道具の準備をしてくれていた。


「さぁやるで!まずはメレンゲ作りからや!!」


「おす!」


びしっと卵を指差すリカ。
オレはしゃもじを握りしめ、返事を返す。

さぁ頑張るぞ!と、卵を手に取った時にふと気付く。


「なぁなぁリカ…」


オレがそう呟くと、小麦粉を計っていたリカがこちらを向く。


「材料、これだけじゃ…リカとか秋とか、サッカー部の皆の分…作れないよ…」


困ったようにそう呟くオレ。
そんなオレをびっくりしたように見つめ返すリカ。
そして、眉間にどんどん深く皺が刻まれる。
小麦粉を計る手を止め、ずんずんとこちらにやってきた。

え?え?リカ怒ってる?
オレ、変なこと言った?

慌てているオレの目の前で立ち止まったリカは、じっとオレの目を見つめて


「アホ!あたしらの分なんかいつでもええねん!今日はバレンタインデーやで!?本命チョコに命かけんでどないすんねん!」


握り拳をぶるぶると震わせながらリカが叫ぶ。


「良いか円堂!バレンタインデーはな、恋する乙女にとって1年で1番大事な日や!」


がっとオレの肩を両手でつかむリカ


「好きって気持ちを込めて作ったチョコは、何よりも甘くて美味しいんやで!?」


肩を掴む手に力を込めて、力説する。


「今から作るチョコは、豪炎寺にあげるためだけに、豪炎寺のことだけを思いながら作り!雑念は捨てるんやぁぁああ!!」


そう言って、肩から手を離したリカは、両方の手に拳を作って、ぶるぶる震えながらその手を天高く掲げた。
そんなリカの様子をポカンと見つめるオレと秋。


「何々?円堂くんチョコ忘れちゃったの?」


リカの大声を聞きつけて、他の班の女子もわらわらと寄ってくる。


「それはいけないよ!私たちも協力するから、頑張ろ!」


「リカちゃんの言う通りだよ円堂くん!友チョコはまた今度でいいじゃない!」


「今日は豪炎寺くんのために美味しいケーキ作りましょ!」


オレのまわりを囲む女子たちが、口々に応援の言葉をくれる。


「ありがとう…!みんな!オレやるよ!!!」


みんなに励まされて、力が湧いてきたオレは、ぐっと拳を握りしめると元気いっぱいに笑う。
わー!と拍手をくれるクラスメイト達。
今まさに、11組は一つにまとまった。


「あのー…」


ただ一人、まとまっていない人物。


「一致団結したのはいいですけど…」


声のしたほうを一斉に見るオレ達。


「皆さん早くし製作を始めないと時間がなくなりますよ?」


おずおずとそういう先生。
そんな先生の言葉に、オレ達は慌てて自分たちの調理台に戻って行った。


豪炎寺のことだけ考えてチョコ作り…


先程、リカに言われた言葉を思い出す。


豪炎寺…甘いもの好きだもんな…


そんなことを考えながらボウルの中の卵白を泡立てる。


オレが上手にケーキを作れたら豪炎寺は笑ってくれるだろうか?


オレの作ったケーキを美味しそうに頬張る豪炎寺を想像する。
すると、オレの心臓はドキドキと高鳴って泡立て機を握る手はほかほかと熱くなる。


豪炎寺の喜んだ顔が見たいな…


リカ曰く、好きって気持ちを込めて作ったチョコは、何よりも甘くて美味しいらしい。


よおーし!!


オレは頭の中でもう一度気合いを入れなおすと、泡立て機を回す手に力をこめた。











「じゃあ円堂くん。頑張ってね」


「ファイトやで!円堂!」


そう言って見送ってくれる秋とリカ。
そんな二人にオレは元気いっぱいに手を振って教室を後にする。

3歩前を歩いていた豪炎寺は、そんなオレ達を怪訝な顔で見つめていたけれど…
えへへと笑ってごまかして、豪炎寺に追いつく。
オレの手の中で揺れる鞄の中には、一心に豪炎寺の事を思いながら作ったチョコレートケーキが入っている。
応援してくれたリカや秋、クラスの皆のためにも、ちゃんと豪炎寺に渡さなくちゃな!
そう意気込んで、歩みを進める。
そんなオレを豪炎寺は楽しそうに見つめて、「今日も元気だな」と笑った。
オレも豪炎寺に視線をやって笑い返す。
ふと、豪炎寺の手元に目をやる。


(あ…)


途端、痛むオレの胸。


豪炎寺の手には、シックな茶色の小さな手提げ袋が1つ。
きっと、今日来ていた数人の「お客さん」からもらったものだろう。

好きな人を思いながら作ったチョコレートは甘くて何よりも美味しい。

オレの知らない女の子が豪炎寺を思って作ったチョコレート…
豪炎寺が今手に持っているそれも、甘い味がするのだろうか?


「どうした?」


ひきつった表情のまま固まってしまったオレを豪炎寺が不思議そうに呟く。


「あ…!ごめんごめん!なんでもないよ!」


慌てて笑ってごまかす。
そんなオレに、豪炎寺は安心したように笑ってまた歩き出す。


どうしよう…


豪炎寺が手に持っているものは、きっと豪炎寺にチョコを渡した女の子がずっと前からせっせと準備していたものだろう。
ずっとずっと前から大好きな人の事を考えて作ったチョコレート…
方やオレは、今日の今日までそんなこと、すっかり忘れていて…

オレは鞄の紐をぎゅうっと握りしめる。

その、握りしめている鞄の中で、今から渡そうとしているものが、
豪炎寺が手に持っているそれに比べて、ひどく惨めな物のような気がして


渡せなくなっちゃった…


豪炎寺の後ろをついて行きながら、オレは暗い気持ちで俯いた。





とぼとぼと、歩く河川敷。
土手の先を流れる川は夕焼けでオレンジ色に染まっている。
本当なら、このきれいな夕焼けを幸せな気持ちで眺めていたはずなのに…
オレのバカ…
そう心の中で呟く。


「円堂」


こっそりと落ち込んでいたオレに、豪炎寺が声をかける。
もんもんと考え込んでいたオレは、はっとして豪炎寺の方を見つめる。


「ん」


「ふぇ?」


視線の先の豪炎寺はずいっと腕を挙げて、オレの目の前に何かを差し出した。


「これ…」


その差し出されたものを見て、オレは泣きそうになる。
それは、豪炎寺が誰かにもらっただろう、チョコレートの手提げ袋だった。


「やるよ」


豪炎寺はオレの顔をまっすぐに見つめてそんなことを言う。
なんてひどい
オレ以外の誰かが豪炎寺への思いを込めて作ったチョコレート…
そんな物を、豪炎寺の事が大好きなオレに食べろというのだろうか?


「でも…これ…」


豪炎寺が女の子にもらったチョコなんじゃ…


オレは泣きそうになるのを我慢しながら必死にそれだけしぼり出そうとした。
そんなオレの言葉をさえぎって、豪炎寺が


「それ、オレが昨日作ったチョコクッキー。よかったらもらってくれ。」


そう言った。


豪炎寺が…オレのため…?
確かに豪炎寺はそう言った。
今、オレの目の前に差し出されているチョコレートは、女の子が豪炎寺に贈ったものではなくて、
豪炎寺がオレのためにせっせと作ってくれたものだと言うのか?

オレがぽかんと不思議そうな顔で豪炎寺を見つめる。
すると、豪炎寺は恥ずかしそうに、今までまっすぐにオレを見ていた視線を反らす。


「…なんというか…逆チョコってやつだ…今日バレンタインデーだろ?」


今は、男子が女子にチョコレートを贈るのが流行ってるんだってさ。


そう言って、なかなか手提げを受け取らないオレに、もう一度ずいっと袋を突きつける。
ぽすんとオレの手のひらに収まったそれは、温かな空気を纏っているようだ。
豪炎寺がオレのために作ってくれたチョコレート。
嬉しい。嬉しい。
じんわりと心が温かくなる。
嬉しさで涙目になりながら豪炎寺のほうを見る。

恥ずかしそうに頬をかいている豪炎寺の手には、他に何も収まっていない。
豪炎寺が持っていたチョコレートは、今オレの手の中に収まっている1つだけ。


「どうして…?」


ぽつりと呟く。
力なく呟いたオレを、恥ずかしそうに視線をそらしていた豪炎寺が不思議そうに見つめる。


「今日はバレンタインデーで…豪炎寺は女の子にすごく人気があって…何度も呼び出されてて…」


休み時間、一言も話せないくらい頻繁に女の子が来ていた。
お昼休みも、呼び出されるのが嫌で部室でお弁当を食べていた

それなのにそれなのに


「どうしてチョコレート、ひとつももらってないの…?」


不安そうに呟くオレ。
そんなオレを最初びっくりしたように見つめていた豪炎寺だったが、すぐにふわりと笑うとオレの頭をポンポンと撫でる。


「義理チョコをくれるような女子の友達なんか居ないし、マネージャーや浦部は円堂がくれるだろっていって何もくれなかったし…」


オレの頭を撫でながら優しく囁く豪炎寺。


「お前以外からの気持ちの入ったチョコなんか、オレはいらないから…全部断った」


そう言って恥ずかしそうに、困ったようにはにかむ豪炎寺。
そんな笑顔の豪炎寺を、オレは呆けたように見つめたまま固まってしまった。

豪炎寺は女の子に人気がある。
今日だって、本当にたくさんの女の子に呼び出されていた。
きっと、オレの想像がつかないような可愛い子からも呼び出しがあったはずだ…
それを、それを目の前のこの男は全部断ったというのだろうか?

オレ以外の女の子の、好きの気持なんかいらないって
そう断ったのだろうか

じわりと涙腺が緩むのがわかる。
目の前の豪炎寺は、今だオレの頭を甘やかすように撫でている。

大好き。
大好きだ豪炎寺…
バレンタインデーのことも忘れちゃうようなこんなオレだけど…
大好きなんだよ豪炎寺

どんどん涙腺が緩む。
駄目だ駄目だ!
オレの気持ち、豪炎寺が好きな子の気持ち…
ちゃんと渡さずには終われない。
だって今日は、バレンタインデーなのだから


「あの…さ…!!」


がばりと豪炎寺から離れる。
びっくりした豪炎寺はぽかんとこちらを見つめている。
そんな豪炎寺を尻目に、慌てて鞄の中をがさごそと探り始めるオレ。
そして、鞄の中のラッピングされたケーキを取り出す。


「これ、ごめん…オレ、今日バレンタインデーだって忘れてて…その…今日の調理実習で作ったチョコケーキなんだけど…」


そう言っておずおずと差し出す。
豪炎寺は、まだぽかんと放心したままオレのほうを見つめている。


「オレ、ケーキなんて作ったことないし…調理実習とかで作ったケーキで本当に申し訳ないんだけど…」


よかったら…もらってほしい


そう言おうとしたオレの腕は、ぐいっと前方に引っ張られて、
最後まで言葉を紡がないまま、手に持ったチョコレートごと豪炎寺の腕に閉じ込められる


「豪炎寺!!?」


びっくりしたオレは、顔を真っ赤にしながら豪炎寺を見る。


「俺にくれるのか?」


そう呟いた豪炎寺の顔は、オレの肩口に埋められていて表情を見ることができなかったが、
プラチナの髪から覗く耳が真っ赤に染まっていることで、
容易に想像することができた。


オレが小さな声でうん。と頷く。
すると、豪炎寺はオレを閉じ込める腕に力を込める。


「すっげぇ嬉しい…」


耳元から聞こえる声は、今にも蕩けそうに甘い。
そんな豪炎寺の声に、オレは顔が熱くなっていくのがわかる。
心臓がドキドキうるさい。

豪炎寺の腕の中であわあわと慌てていたオレの体をゆっくりと離して、豪炎寺がオレの顔を覗き込む。
真っ赤なオレの顔を見つめてくすりと一つ笑うと、


「バレンタインデーの事なんて忘れてると思ってたから…」


そう言ってぐしゃぐしゃと頭を撫でる。


「まさかお前からもらえるなんて思わなかった」


最後にぽんぽんと優しく頭を叩いて手を離す。


「嬉しくってつい…ごめんな」


そう幸せそうに笑って、オレの手のひらからケーキを受け取る。
ああもう…なんだってこいつはこんなにもかっこいいんだ…

バレンタインデーの事を忘れていたことを見透かされて、それでも甘やかしてくれたことが嬉しくて、なんだか少し悔しくて
いつも、豪炎寺にはどきどきさせられっぱなし。
たまにはオレも、豪炎寺を焦らせてみたい。

そう思ってきっと豪炎寺に視線をやる。


「確かにバレンタインデーの事忘れてて、慌てて作ったチョコケーキかもしれないけど…」


嬉しそうにケーキを見つめていた豪炎寺が、急に叫びだしたオレをびっくりしたように見つめる。
そんな豪炎寺を真っ赤な顔で見つめながら


「豪炎寺が好きな気持ちは…いっぱい入ってるから…!」


そうら叫ぶオレを最初目をまん丸にして見ていた豪炎寺は、
すぐに幸せそうに目を細めて


「ありがとう」


愛おしそうにもう一度オレを抱きしめて、耳元でそう囁いた。

ああもう…こっちが豪炎寺を慌てさせてやろうと思っていたのに…
結局、最後までドキドキしっぱなしのオレ。
少し悔しい気持ちはあったけれど、耳にかかる息が、くすぐったくて気持ちよくて
ただただ豪炎寺が好きな気持ちが溢れてきて


「こっちこそ、ありがとう豪炎寺」


オレも、そう言って幸せそうに呟いた。








夜、自分の部屋でこっそりと豪炎寺にもらったクッキーを食べた。
口の中でさくりとほどけていくそれは、今まで食べたどんなクッキーよりも甘くて美味しかった。


オレが今日豪炎寺に渡したケーキも、甘い味がしていればいいな。


甘い甘いチョコレートクッキーを頬張りながら、オレはそんな風に思った。





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全体的にすごく変な文章になってしまった…汗
なにはともあれハッピーバレンタイン!!!!






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