「なぁなぁ豪炎寺ここは!?」

「うっさい!今こっち教えてるんだから待ってろ」

「ねぇねぇ秋!これなんだけど…」

「ああ。それはね…」




スタディーズ・オール




「えー、今日からテスト期間に入るわけです。皆さん無理はいけませんが頑張って勉強して下さいね。」


担任の先生がにこにこと笑う。

穏やかな笑顔がこの時ばかりは悪意を感じる。

そう…オレたちの高校は、今まさに期末試験期間へと突入したわけだ。


「うわぁ…最悪だ…数学どうしょ…」


「社会って範囲どこだっけ?弥生時代まで?」


「お前選択古文だっけ?土佐日記の現代語訳教えてくれよ!」


ざわざわと騒がしくなる教室。

この1年11組というクラスは、みんな仲良しのお気楽極楽クラスだ。

文化祭などの行事にはどこよりも積極的だが、勉強に関してはどこよりも消極的だ。

だから、このクラスの大半のは試験5分前が命懸けな人達ばかりだ。


(オレもその一人なんだけど…)


苦笑しながらごそごそと荷物をしまう。

いつもはカバンの中なんて、お弁当とペンケースくらいしか入っていないのだけど…

さすがにテスト1週間前、やらないにしても教科書くらい持ち帰らなければ…

ずっしりと重いカバンを持つ。


「円堂」


椅子から立ち上がると同時に声がかけられる。

声のする方を見れば豪炎寺が帰り支度を整えてこちらに手を挙げた。


「なんだ?豪炎寺」


ぱたぱたと豪炎寺のもとに駆け寄る。


「テストの方はどんな感じだ?」

神妙な顔つきで豪炎寺が訪ねる。


「…まぁ…大丈夫!何とかなるさ!」


本当はけっこう自信がないのだけれど、なかなか堂々と無理!とは言いにくいもので…

オレはどしっと胸を張って応えた。

それを聞いた豪炎寺は、眉間に皺を刻んで、


「ウソだな…授業中あれだけ気持ち良く寝息を立てていて大丈夫な訳がないだろ…」


はぁとため息をつく。


オレはえへへと頬を掻きながら苦笑いした。

豪炎寺に隠し事はできないや。


照れ笑いをしているオレを困ったように笑いながら見つめていた豪炎寺が口を開く。


「もし良ければ、これから1週間一緒に勉強しないか?」


それを聞いたオレは、目を一度ぱちくりと瞬かせた。


1週間勉強…
豪炎寺と…
1週間ずっと豪炎寺と一緒にいられる!
テスト1週間前は勉強に集中するため、部活動禁止になる。
サッカーが出来ないことはもちろん、その間豪炎寺と会えないと思って、すこし淋しいなと思っていたから…

頭のなかで、豪炎寺に言われた事を整理する。

とたん、嬉しさが込み上げてきて、キラキラと目を輝かせながら


「うん!」


と笑う。


そんなオレを豪炎寺は幸せそうに見つめて、微笑んでくれた。


「じゃあとりあえず、今日は俺の家で勉強するか。」


カバンを抱え直し、豪炎寺が歩きだす。


「おう!」


とオレも元気良く後に続く。

さぁ教室を出ようとしたとき、オレたちの前に数人のクラスメイトが立ちはだかった。


「話は聞いたぞ…豪炎寺…」


険しい顔つきで、男子生徒の一人がこちらを見る。

オレも豪炎寺も、事態が飲み込めず、ぽかんとクラスメイトを見つめる。


「我々1年11組は、お前ら二人の仲を応援している!この前の文化祭でくっついたことも知っている…だが、しかしだ!今回ばかりはそうもいかん!」


別の男子生徒が握り拳をぶるぶる震わせて熱弁する。


「二人っきりで勉強など言語道断!」


「よって、俺たちもまぜて、みんなでテスト勉強を…」


「断る!」


クラスメイトが次々熱弁を振るうのを、豪炎寺は遠慮もなく、バッサリと切り捨てた。

瞬間、扉の前に立ちふさがっていたクラスメイト達が崩れ落ちる。
「鬼!悪魔!!お前、俺たちが欠点の嵐になってもいいのか!?」

「知るか!」


「マジでよろしくお願いします!本気でやばいんです今回!」


「お前等が、文化祭出展部門1位おめでとう打ち上げとか言って、連日連夜騒ぎまくっていたのが悪い!」


倒れても、未だずるずると豪炎寺にすがりつくクラスメイト達。
それを必死に振りほどこうと足を前に進める豪炎寺。

壮絶なその光景を苦笑しながら見つめるオレ。

本当に仲良しだなぁこのクラス…

そんなオレのシャツの裾をつんつんと引っ張られる感覚がする。
振り向けば、クラスの女子が数名。

「どした?」


笑顔でそう聞けば、女子たちが困ったようににオレに耳打ちした。

「やられたね。あいつらが相手じゃ、豪炎寺くん絶対離さないよ…」


「私たちがあいつら何とかするし、二人で逃げちゃいなよ!」


ね!と、ウインクされる。


逃げちゃうか…それもいいんだけど…

オレは少し考えると。女子にこっそりと耳打ちした。


「え…?そりゃうちらはかまわないけど…円堂くんはいいの?」


オレのつぶやいた言葉にびっくりしたようにオレを見上げてくる女の子。
オレはにっこりと笑って頷く。
そして、大きく息を吸い込むと、扉の前でごちゃごちゃしている男子に向かって叫んだ。


「ほら!そんな所でごちゃごちゃしてないで!行こうぜ!今からガストで11組のみんなで勉強会だ!!!」


オレの方を見て、固まった豪炎寺と男子数名。
一瞬遅れて、うぉおおお!!と歓声を上げる男子。
そして崩れ落ちる豪炎寺。

そんな姿を見て、オレと、クラスの皆は大はしゃぎで笑った。





「ここは?」


「あん?ここはこうで、こうだよ」


「おおおおお!!!豪炎寺すっげーな!!」


「ねぇねぇ秋〜」


「うん。ここはね、こういう訳になるからね…」


「すっごい!秋天才!!!」


ガヤガヤとざわつくファミレスの店内。

禁煙席の半分ほどを陣取って、我らが1年11組の勉強会が盛大に行われている。


「くそっ…なぜ俺がこんなことを…」


「いーじゃねぇか豪炎寺!パフェ奢ってやるからさ!」


「くっ…あんみつもつけろよ…」


オレの一つ奥の席では、豪炎寺がぶつぶつと文句を言いながら、男子とスイーツに囲まれて数学を教えている。
そんな珍しい豪炎寺の姿を微笑ましく眺めながら、オレは女子たちと一緒に秋に英語を教わっていた。


「ごめんね、円堂くん…本当は二人で勉強するつもりだったんでしょ?」


向かいに座っている女子が申し訳なさそうに言う。
オレは慌てて首を振って、


「何言ってんだよ!みんなで勉強するの、楽しいからいいんだよ!!」


と笑った。

それを皮切りに、勉強を差し置いて雑談会が始まってしまった。

円堂くんってサッカーうまいよね!から始まって、豪炎寺くんかっこいいよね!っていう話から、学校の先生の話まで、とめどなく話は続く。
オレはおかしくて、ずっと笑っていた。

手元のジュースに手を伸ばすと空っぽだったことに気付く。


「あ、オレ、ジュースとってくる。」


そういってオレが立ち上がると、

「あ、私行ってこようか?」


と秋も席を立ちかけたけど、「いいよいいよ!座ってろ!」と笑って、秋を席に着かせる。

ジュースのサーバーの前に立って、何を飲もうか考えていたら、オレのコップの隣にコトリと同じ形のコールド用グラスが置かれる。

誰かと思って見上げれば、見慣れたツンツン頭が…


「あいつら…ほんと元気だよな…」


若干疲れたような豪炎寺だった。
あはは、とオレは笑って、オレンジジュースを汲む。


「でも、このクラス、ほんとおもしろいよな!オレ11組大好き!」


横に避けながら笑う。
豪炎寺はそんなオレを見つめて、ふっと困ったように微笑むと、


「まぁオレも嫌いじゃないんだがな…」


とジュースサーバーにグラスを置いた。

それを聞いて、オレがにこにこ笑っていると、何にするか迷うように指をさまよわせていた豪炎寺が、こちらを見ずに呟いた。


「今週の土曜と日曜…俺の家に来い。」


オレと同じ、オレンジジュースのボタンを押す。
サーバーはガーッと音をたてて、豪炎寺のグラスにジュースをそ注ぐ。


「みんな一緒も楽しいが…俺はお前と二人で居たい…」


オレンジジュースの入ったカップを取りながらこちらを振り返る。
やけにゆったりとしたその動作に、オレはなぜだか目が離せなかった。


「円堂」


まっすぐに見つめられて、オレの大好きな声で囁かれれば、オレはもう赤くなるしかない。

俯きながら


「行く…」


と呟けば、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられる。


「途中まで迎えに行く。今晩メールするよ。」


そう言って、豪炎寺は自分の席に戻って行ってしまった。

オレは、力の入らない手でオレンジジューズを握りしめて、まるでその場に縛り付けられてしまったかのように動けなかった。

そうだ…豪炎寺と二人でいるということ…
それは、みんなでいる時よりもっともっとドキドキするということ…


(オレ…勉強なんかできるのかな…)


うるさい心臓の音を聞きながら、俺は頭の隅っこでそんなことを考えた。










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12月25日〜1月22日までの拍手のお礼でした。
お礼にも関わらず、まさかの続きもので…(死)
すみませんでしたーーーーー!!!

クラスのみんなに愛される豪円カップルが愛おしいです。






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