「ついにあの二人…くっついたらしいな…」
「マジで!!?」
「おまえそりゃあ…やっとくしかねぇだろ…」
「ああ…やるか…」
「こっそりな!!」



コングラッチュレーション・クラッカー




「豪炎寺ーー!!」


廊下の向こうから、ぶんぶんと手を振りかけてくる可愛いあの子。

あの子の名前は円堂守という。

そんなあの子に手を振り返す俺、豪炎寺修也。

俺とあの子は、つい先日、晴れて両思いであることが発覚した。


「ごめん!豪炎寺!」


はぁはぁと息を切らせて、俺の頭半個分下の円堂の頭が揺れる。
俺はその頭をぽんぽんと撫でる。

すると円堂は、恥ずかしそうに、嬉しそうに、えへへと笑った。


「オレさ、今日、部活動会議で帰りが遅れそうなんだ。」


そう言って俺を上目遣いで見上げる。


「だから、今日は豪炎寺先に帰ってて!」


少し残念そうに笑う円堂は、とても愛らしくて、俺は頬の筋肉が緩む。


俺たちの高校は、半年に一回、部活動会議というものが開かれる。
全ての部活の部長が集まり、これからの部活動の方針やら、目標やら、
部費の内訳の相談やら、色々と話し合うらしい。
会議は踊るとよくいうもので、部活動会議が定時で終わった試しなど、
一度もない。
きっと今回も、とっぷりと日が暮れるまで議論をするのだろう。


「いや…一緒に帰ろう」


俺がそう言うと、円堂は眉をハの字に歪ませて、


「でも、きっと帰りすごく遅くなるぜ?危ないよ…それに、豪炎寺のお家の人、
すごく心配するんじゃないか?」


困ったように訴える。


全くこいつは…


俺は、はぁとため息を一つつくと、円堂の頭をポンポンと撫でる。


「俺の事なら心配するな。今日は親は病院に泊りだし、男だから自分の身は自分
で守れる。」


まだ困ったようにこちらを見つめている円堂の眼をまっすぐに捕える。


「それに、俺はお前の方が心配だ。以前、変な男たちに襲われかけたの、忘れた
のか?」


ピシャリと言い放てば、円堂はますます困ったように、口端を下げて、「でも…
」と食い下がった。

全くこいつときたら、いつも自分は二の次で、人のことばかりを気に掛ける。
自分が危ないめに会うことなんかお構いなしで、人のために一生懸命だ。
円堂の、そういう所が好きなんだけれども、心配の種でもある。

俺はまたはぁとため息をつくと、円堂の顔を覗きこむ。


「俺がお前と一緒にいたいんだよ」


円堂


耳元に唇を寄せて、低く囁けば、円堂が反抗できないことを俺は知っている。
案の定、円堂は耳まで真っ赤に染めて、「うん…」と小さく呟いた。








「終わったらメールするな!」


嬉しそうに手を振りながら、会議室へ向かって走る円堂。

あの円堂が、俺と両思い…
部室に向う途中、思わずにやける。
わざとらしく咳ごんで口元を手で覆う。


傍から見れば、只の変な人だが、今の俺はそうなっても仕方ないと思う。
だってだ、あの円堂と、あの、宇宙一恋愛ごとには無関心な円堂とだ。
両思いだった。
そりゃあ思い出してにやけてしまいたくもなるさ。

うんうんと、誰が聞いているわけでもないのに、心の中で1人頷く。
俺が悶々とそんな事を考えながら歩いていると、不意にポケットの携帯が震える。
誰だ?と思い、ディスプレイを見れば、

題名:お願いしますね!!
差出人:立向居 勇気

の文字が。

立向居…これはまた珍しい奴からのメールだな…
高校に入学する前の春休み以降、ご無沙汰だったその男からのメールに、
驚きはしたが、さして気にも留めずにメールを開く。
その内容に、思わず俺は固まった。


題名:お願いしますね!!

差出人:立向居 勇気

本文: 豪炎寺さん。聞きましたよ!円堂さんとくっつかれたそうですね。
おめでとうございます。
豪炎寺さんなら大丈夫だと思いますけど、円堂さんのこと泣かせたら許しませんからね!
円堂さんのこと、幸せにして下さいね!!


俺は肩からずり落ちそうな鞄に、意識を引き戻される。
慌てて鞄を肩に担ぎなおした後、もう一度メール画面にかじりつく。
差出人は…間違いない。立向居だ。内容も…夢じゃない…
本文に俺の名前が入っているから、宛先間違いでもない…

なぜ立向居が知っている…

俺はなんだか、嫌な汗が流れた。
円堂と俺が両思いだと発覚したあの日から、3日も立ってないぞ!?
それをなぜ、今は九州にいる立向居が知っている…!!
別に、知られたくないわけじゃない。
知られたくないわけじゃないんだが…
ただ、こう、両思いが発覚した直後というのは、俺の心も色々とデリケートなわけで…


まぁいい…とりあえず落ち着こう…
今は部活だ。
ぶんぶんと頭を左右に振って、足を進める。
部室はもう目の前だ。
色々と、立向居には聞きたいことがあるけれど、今はいい…
うまく聞けそうに無い…
とりあえず、部活だ!今は部活に集中するんだ!と、
いつも以上の意気込みで、部室の扉を開ける。



っぱぁぁああん!!



「「「「「「「おめでとう〜〜〜〜〜」」」」」」」



扉を開けた瞬間、何かが破裂したような音が聞こえて、俺の目の前にカラフルな色の紙テープが舞う。
俺の頭には、はらはらと同じだけの色の紙吹雪が落ちた。
固まる俺の目の前には、ニヤニヤ顔のサッカー部の部員たちが…
一瞬で今の状況を判断した俺は、ずるずるとその場に崩れ落ちた。


ああ…お前らもか…









「わっりぃ!それ、たぶん俺のせいだわ!」


染岡が、オレンジジュース片手に、全く悪びれた様子も無く言い放つ。


「あの文化祭の後、お前らがくっついたって聞いてさ、吹雪にメールしたんだ。」


ごくりとジュースを一口飲むと、


「吹雪のやつ、お前たちのこと気にしてたからさ!一番に報告した!」


いい笑顔で笑った。

そんないい笑顔の染岡を、俺はじとっと睨みつける。

先程の、立向居からのメールの事を、ぽろりと口からこぼせば、
この染岡の返答だ。
吹雪からめぐりめぐって立向居まで話が言ったのだろう。
これはもう綱海の耳にも入ってるな…
綱海と立向居は何かと仲がいいから…
北は北海道、南は沖縄まで…
俺と円堂の両想いの噂は、日本列島を横断したわけだ。

俺はがっくりと肩を落とす。
別に、俺と円堂が両想いなのを知られるのはいい。
だが、こう、俺と円堂のことをよく知る連中に、俺と円堂が恋仲であることを知られるのは
気恥ずかしいというか、微妙な男子心というか…
「あの子たち、好き同士なんだね」と、微笑ましく見られるのが恥ずかしいというか…
とにかく複雑な心境なのだ。

そんな俺の心はつゆ知らず、がやがやと騒がしい教室。
今、サッカー部の部室は、パーティー会場と化していた。
「豪炎寺(はぁと)円堂両想いおめでとう☆」とでかでかと書いてある垂れ幕。
クリスマスか!というような飾り付け。
そして、山の様なお菓子とジュースがけして広くない部室に、所狭しと並んでいる。
こいつらは、どうやら俺と円堂のことを祝うために、こっそりとパーティーの準備を進めていたらしい。
その気持ちは嬉しい。嬉しいのだが…
俺は、今日何度目かも分からない溜息を吐いた。


「何を落ち込んでいるんだ!豪炎寺!恋ってのはいいぞぉ!」


ストレートティーを片手に、親指を立ててウインクしているのは一之瀬だ。


「そうだぞ!豪炎寺!!あの…あの…恋愛には無頓着だった円堂が…ついに…!!!」


拳を握り締めながらぶるぶる震えているのは風丸だ。


「そうだよなぁ風丸!お前はずっと近くで円堂の事見てきたんだもんな…
小鳥が巣立つ親鳥の気持ちみたいなもんだよな…!!」

バシバシと風丸の背中を叩きながら、同じく涙ぐむ染岡。



…ここはどこの居酒屋だ…



異常な部員のテンションに、ひきつりながら笑う。

そんな、部員たちから視線を外して、ぐるりと部室を見回せば、派手な飾りが目に入る。
おおきな垂れ幕。
折り紙で作った飾り。
さっきは、あまりの出来事で頭が混乱してちゃんと見れなかったが、
こうして見ると、どれも丁寧に作られていて、手間がかかったことを容易に想像させる。


これ作るの、大変だっただろうな…


ぼんやりそんなことを考えて、視線をチームメイトに移す。

相変わらずどんちゃん騒ぎをしている部員たちだが、
こんなに手間のかかることをしてまでパーティーを開いてくれたんだ。


「みんなお前達のことを心配しているんだよ。」


不意に、以前ファミレスで鬼道に言われた言葉を思い出す。

ああ…そうだよな…
こいつらは、本当に俺達の事を心配して、心から祝福してくれているんだよな。

そう思うと、本当にありがたくなる。
こいつらの暖かさ。優しさに。
素直にありがとうと言えればいいのだけど、口下手な俺は、こういう時に上手くしゃべれない。
少し顔を赤くしながら、オレンジジュースをちょびちょびと啜る。


「いやや!豪炎寺顔赤いでーーー!照れてる?照れてるんちゃうんーーーー!!?」


リカが面白そうに茶化す。
それを聞いたチームメイトたちは、俺の方を一斉に見て、嬉しそうに騒ぎ出す。


「なんだなんだ!豪炎寺!照れることなんかないぞ!」


「そうだぜ!せっかくのめでたい日なんだ!今日は騒げ!!」


先ほどよりも騒がしさを増した部室。
俺は苦笑しながら「そうだな」と言って、ジュースを一気に飲み干した。







宴もたけなわ、酒もないのに、いい具合に出来上がったチームメイトたち。
お決まりのカードゲームなんかで盛り上がっている最中、俺は不意に頭に浮かんだ問いを口に出してみる。


「そういえば…俺、円堂と両想いになったなんて、誰にも言ってないよな…
なんでお前ら知ってるんだ?」


隣の松野の手札を1枚取りながら聞く。
カードはハートのエース。俺の手札にはエースはない。


一瞬、驚愕して一斉に俺の方を見たチームメイト達。
そして、各々やれやれとため息をついてゲームを再開させる。


「言われなくっても知ってるよ。」


影野が俺の手札から1枚取りながら呟く。


「お前ら、ばればれなんだよ。」


土門が影野から1枚。


「まぁその鈍さが二人らしいんだけれども。」


一之瀬が土門から


「せやかて、鈍すぎやわ!誰でも見たら分かるっちゅーねん。」


浦部が一之瀬から

なんだなんだ?話が見えない?


「円堂が豪炎寺を連れ出し立って聞いた時は、安心したよなぁ〜」

やっとかぁーって!

そう言いながら半田が浦部から


「ああ…親鳥の気持ちだ…」


半田から染岡へ

またそのセリフか…おっさんか染岡


「あの円堂が…ついに円堂が…!!」


染岡から風丸へ

そんなに震えたら手札見えるぞ風丸。


そこまでおとなしく話を聞いたところで、俺はついに我慢できなくなった。


「なんだ?お前ら何の話をしている?」


眉間にしわを寄せて、ぐるりとみんなを見る。
皆は困ったように苦笑している。


「だ〜か〜ら〜」


隣から、もういい加減気付けというように松野の声が聞こえる。


「お互いの気持ちを気付いてなかったのは、君たちだけだったってこと!
あんなにピンクのオーラ出してたのに、全然気が付いていないんだもん!」


たまったもんじゃないよね!

そう言いながら、ずいっと松野がカードを差し出す。


「そんな、自分達だけ気付いてない、好きどうしがだよ?
文化祭、どっちかの手を引いて屋上の方に走って行ったなんて聞いたらさ…」


ん!


早く引け!とでも言うように、松野がカードを押し出す。


「絶対告白だ!って思うでしょ!?」


俺が1枚のカードに手をかけた瞬間に言い放つ。


「お互い好きどうしなのに、告白が失敗するなんてありえないよね?だから僕たちすぐわかったのさ!
ああ…あの二人ついに両想いか〜って!」


カードを引き抜く。
俺が手にしたカードはジョーカーだった。

松野の方を見返せば、してやったりとでもいうような松野の顔。

と、いうことはだ…
ここにいる全員は、俺と円堂、二人の気持ちを知っていて…
俺達が屋上でお互いの気持ちを告白したのも感ずいていて…
ずーっと前から、俺達が両想いだって知ってたって言うのか!?

頭で理解したとたん、かああああと顔が熱くなる。
ドタバタしていたのは当事者だけで、こいつらは、じれったい気持ちで俺たちをずっと見守っていたという訳だ。
きっとたぶん、俺達が気持ちを自覚するずっと前から…
ああああああもう恥ずかしい!なんだかすごく恥ずかしいぞ!!


「お前ら…!!」


何ともいえない気持ちになって俺は立ち上がる。
ばらばらと俺の持っていたカードが床に落ちる。


「お!豪炎寺ババもちか!」


「うるさい!今はそれ所じゃない!!」


羞恥の余りファイヤトルネードをぶちかまそうとしている俺を、
半田と土門が止める。


「まぁそう怒るなよ。俺達が下手に口出ししたら、
お前達の気持ちをぐちゃぐちゃにしちゃうんじゃないかって、みんな心配して見守ってたんだよ。」


一之瀬が穏やかに言う。


その言葉に、俺は暴れるのを辞める。
そうか…そんな風に考えていてくれたのか…
ほんのり心が温かくなるその事実に、今までの羞恥を忘れかけた…その時…


「まぁ僕はおもしろがって何も言わなかっただけなんだけどね」


スパッ!といい笑顔で松野が言い放つ。


その言葉を聞いて、再び羞恥がわいてきた俺。


「やっぱり面白がってたんじゃねーーーかーーーーー!!!!」


「うわぁ!今度は爆熱ストーム!?爆熱のほうなの!!?」


「おま…マックス!いらんこと言うなよ!!」


「だって本当のことだもんーーー♪」


また暴れだした俺を、半田と土門、そして影野が必死で押さえる。


「親鳥の心境だ…」


「だな…」


「いやぁ…やっぱり恋っていいなぁ…」


そんな俺達をよそに、染岡、風丸、一之瀬は、ジュース片手に、感傷に浸っていたとか…


円堂が、部室にきて、この有様に大声で笑いだすまで、あと少し。






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そんなわけで、両想いになった二人をお祝いするみなさんのお話でした!

ノンケシリーズ完結にあたり頂いたお祝いのメッセージで、
「豪炎寺はみんなにクラッカー鳴らされていればいい!」という素晴らしい萌をいただきまして…
みなぎった私は、お話書かせて頂いていいですか!!!?と、あつかましくお願いしましたところ、
快くおkを頂き、書かせて頂いたものです!!
ありがとうございました!!

このお話は、拍手下さった方にささげます…!!!

雷門イレブンは、やっぱり仲良しなのがいい!!
ということで、こんな話に…

コメディは書いていて癒されます…!!!







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