((ああ…何でこんなことに…))


「ん…」

「むにゃ…」

「「!?」」

「お兄…ちゃん…」

「ごぅ…え…ん…じぃ…」

「「…!!!!!!」」




眠れぬ夜に





午前2時50分。
俺、豪炎寺修也は、今、なぜか人様の家の台所でため息をついている。
正式には、キッチンのすぐ隣にあるダイニングのテーブルでため息をついているのだが…

そして向かいには同じくため息をついてうなだれているこの家の主が座っている。


「やはりお前も起きていたか…」


「当たり前だ…あの状態で寝られるか…」


そう言って二人また大きなため息をついた。

そもそも、なぜ俺と鬼道がこんな夜中に、こんな所でため息をついているのかというと…
色々あったのだ…そう色々…
それは数十分前の事だ








「ふぁ…」


俺の隣で円堂が大きなあくびをして目をこする。


「円堂、眠くなってきたか?」


ぽんぽんと頭を撫でてやれば、むにゃむにゃと目をしぱたかせて


「うん…ちょっと…」


と眠たそうに呟く。

鬼道の部屋のこれまた立派な壁掛け時計に目をやれば、もうすぐ夜中の2時になろうかという所だ。

もうこんな時間か…

ぼんやり今日の出来事を振り替える。
ガストを出たのが9時過ぎ…
その後不良をぼこぼこにして、それから鬼道の家にお邪魔して…
風呂入って、鬼道のやたら広いベッドの上で、俺と円堂と鬼道と音無、四人でだらだらと雑談して…

そう考えればもうこんな時間で当たり前か…

そういう答えに行き着いた。
時計から視線を円堂に移せば、こっくりこっくり船を漕いでいる。
「明日は学校が休みとはいえもう眠ったほうがいいな…」

鬼道も時計に目をやり呟く。
いつも元気な音無がさっきからやたら大人しいと思っていたが、それもそのはず、鬼道の腕の中でうつらうつらと眠たそうだ。


「春菜…」


「ん…?」


鬼道が音無を閉じ込めていた腕を解いて優しく肩をゆする。
すると音無はぼんやりと鬼道を見つめた。


「すまない眠たかったな?今日はもう寝ような。」


そう言って鬼道はいとおしそうに音無の頭を撫でる。
音無は嬉しそうに目を細めた。
鬼道は、そんな音無に満足したように微笑むと、音無を布団に寝かせて、自分はベッドから降りようとした。


「…どこ行くの?」


ベッドに中途半端に腰掛けた形になっている鬼道のTシャツの裾を音無が掴む。


「?隣の部屋だが…」


鬼道が首をかしげて言う。
それを聞いた音無は寂しげな目で鬼道を見つめる。


「お兄ちゃん…私と一緒に寝てくれないの…?」


「!!!!!?」


音無が心細そうに呟く。
それを聞いた鬼道はあわあわとうろたえる。


「な…!だめだ春菜!年頃の男女が一緒に寝るなど…不謹慎だろ!」


柄にもなく、鬼道の顔は真っ赤だ。
そんな鬼道を音無はじーっと見つめて


「昔は一緒に寝てくれたのに…二人きりの兄妹なのに…せっかく一緒にいれるのに…」


うるうると目を潤ませる。


「…分かった。分かった春菜。今日は久しぶりだし、一緒に寝よう」

あ…折れた…

鬼道は顔を真っ赤にしながら、恥ずかしそうに音無の隣に寝転がる。
その光景が何ともおかしくて、くっくっと声を殺して笑う。
すると鬼道は身体を起こしてこちらを睨む。


「…他人事だと思って…」


「いいじゃないか妹と一緒に眠れて。羨ましいかぎりだ。」


嫌味満載で笑う。
鬼道はそんな俺をじとっと見つめて、


「覚えていろよ豪炎寺…」


と呟いた。
くっくっと俺が笑っていると、とんと肩に体重がかかる。
見れば、円堂が眠さに耐えられなくなったのか、俺の肩にもたれてすよすよと寝息を立てている。


いつも元気そうに輝いている大きな瞳は閉じられて、眺めのまつげはうっすら影を落としている。
いつも楽しそうに笑う唇は、うっすら開いて静かに呼吸を繰り返す。


かわいい…


ドキドキと心臓が高鳴る。
円堂から視線が外せない。

俺が何とも言えないムラムラを抱えて円堂を見つめていると、なぜか視線を感じる。
円堂から視線を外し、そちらを見ると、鬼道が人の悪そうな笑顔でこちらを見ていた。


「お前らも一緒に寝るか?」


ニヤニヤと面白そうに呟く。
くそう鬼道め…

親にエロ本を見つかった時のような妙な恥ずかしさにかられた俺は
顔を真っ赤にしてきっと鬼道を睨むと、俺の肩にもたれかかっている円堂の肩をゆする。


「おい、円堂…」


「んん…?」


しぱしぱと目を開けたり閉めたり一生懸命こちらを見つめてくる。
ああ…かわいいな本当に…


「そろそろ寝るぞ。ほら、布団に入って。」


「…うん…。」


ごそごそと酷く倦怠に布団にもぐる円堂。
俺はよしよしと布団を撫でてやる。

穏やかに円堂が寝息を立て始めたのを確認すると、俺はベッドから抜け出す。


「鬼道、悪いが俺はそこのソファで眠らせてもらうぞ。」


俺が指をさす先には、大人が一人足を延ばしてゆったりと眠れるようなソファがある。
さすがに俺一人、隣の部屋で眠らせてもらうのはひどすぎるかな…と思ってのことだ。


「布団はそこのクローゼットの上の棚にある。」


鬼道が指さす先にはこれまた大きなクローゼットがある。


「サンキュ」


そう言って、ゆっくりとベッドから立ち上がろうとすると…



むんず



なんだか嫌な予感がして、視線を円堂の方にやる。

視線の先の円堂は眠気で焦点の合ってない眼をこちらに向けてふわりとほほ笑むと。


「豪炎寺…どこ行くんだ?」


と言った。
そんな円堂の手は、オレのTシャツの裾をきゅっと握りしめている。

これは…

ゴクリと唾を飲んで俺は呟く。


「あそこのソファで寝るんだ…」


そう言って大きなソファを指さす。
すると、円堂はみるみる涙目になって、


「なんでだ?一緒に…寝てくれないのかよ…?」



やっぱりね!!!



服の裾をつかまれた時にまさかと思ったが…
俺が苦悩する姿を見て、鬼道はニヤニヤしている。
ちくしょう鬼道め…


「気持ちは嬉しいが円堂…高校にもなって、男女が同じ布団で寝るのはその…不謹慎だぞ?」


先ほど鬼道が音無に言ったことと同じことを円堂にも言う。
円堂はイヤイヤと首を振って、


「関係ない…そんなの…イナズマキャラバンではみんな一緒に寝てたじゃないか…オレ…豪炎寺が一緒じゃなきゃ…寝ないからな…」


眠たそうにぼんやりとこちらを見つめてくる円堂はそりゃあもう堪らなかった。
仮にも、好きな相手にこんなことを言われて嬉しくないわけじゃない…嬉しくないわけないんだが…

このやろう…人の気も知らないで…

俺は、はぁーっと大きくため息をつくと、
円堂の頭をぐりぐりと撫でて


「分かった。今日だけ…一緒に寝てやるよ。」


腹を括ってそう言った。
すると円堂は嬉しそうにふわりと笑って目を閉じた。


「好きな子と一緒に寝れて、羨ましい限りだ豪炎寺。」


ごそごそと布団にもぐりこむ俺に、鬼道がもう、それはそれは楽しそうに笑って言う。


「人が悪いぞ…鬼道…」


俺はもう、言い返す元気もなく、力なく呟いて布団に寝転がる。

結局オレ達四人は、俺、円堂、音無、鬼道の順に川の字になって眠ることになってしまった。
横を向けば、幸せそうに寝息を立てる円堂の顔がすぐ近くにある。
俺は勢いよく目をそらすと、

(頑張れ俺!俺はやればできる子だ!俺は石になれる!!!!)

そう自分に言い聞かせた。


そうして自分と格闘してだいぶ時間がたったころ、
隣に円堂が寝ているという事をなんとか意識せずにいられるようになり、うとうととし始めたちょうどその時
ごそごそと円堂が身じろぎする。

起きたのか?

気になって、円堂の方に体を向ける。

すると円堂はすやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている。

寝返りを打っただけか…

そう思って、眠気に身を任せて目を閉じた。
が、胸に何か温かい感触がして驚いて目を開ける。
見るとそこには、円堂が俺の胸にすり寄ってきているのだ。
それはそれはもう幸せそうに。

俺は胸が高鳴って一瞬で目が覚めた。
これは…この状況は…まずい!

俺は切れそうな理性を必死でつなぎとめて、なんとか円堂を離そうと、そっと円堂に触れる。
円堂の肩に触れた瞬間、円堂が「ううん…」と声を上げた。
俺は、びっくりして手を引っ込める。

起こしたのか…?

そう思ってじっとしていたが、円堂が起きたような気配はない。
ほっとして、俺はもう一度円堂の肩に触れる。

「ごぅ…え…じ…」

円堂が俺の名を呼ぶ。
やはり起こしたか…??

そう思ってそっと円堂の顔を覗き込む。


「ご…えん…じ…だいすき…」


「〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!?!?!?」


俺が顔をのぞいた瞬間、幸せそうに微笑んで円堂が呟く。
すりすりと俺の胸に顔を寄せる。

やばい…
キスしたい…

もう駄目だ。
俺はよく頑張った。
よく耐えた。

そうやけくそに心の中で叫んで、俺は眠っている円堂の肩を掴み、
顔を近づける。

唇が近づく。
円堂の息が頬にかかってくすぐったい。



がばっ!!!!!!


「うっわ…!!」



もう唇と唇が触れ合うという所で、俺の2人隣の鬼道が急に勢いよく起き上がる。
びっくりして俺は、少し大きな声を出してしまった。
慌てて、眠っている円堂と音無を見る。

良かった…起こしてはいなかった…

ほっと肩をなでおろす。
そして急に何事かと鬼道の方を見れば、親指を立て、くいくいと扉の方を指さす。


外に出ろというわけか…?


そして俺たちはこっそりベッドから抜け出し、台所に逃げ延びたのだった…









「あんな天使のような寝顔で、お兄ちゃん大好きなんて言われた日には…俺は…俺は…」


俺は円堂の寝言でいっぱいいっぱいで、全く聞こえていなかったが、どうやら鬼道も
俺と同じく、音無に「大好き」と寝言で呟かれたらしい。
ホットココアの入ったカップを置きながらぶるぶると震えている。
目にはうっすらと嬉し涙が浮かんでいる。

そんな鬼道を見て俺はため息をつく。


「お前はいいよ…妹だろ?俺なんかなぁ…円堂だぞ…円堂が隣に寝ていて何もできないこの気持ち…お前には分からないだろう…」


そう言って、テーブルに突っ伏する。
いかん…なんだか悔し涙が出てきた。


「お前…そう言うがな…年の近い…しかも何年も離れていた妹が、隣で寝ているというのも辛いもんだぞ…」


頭の上から降ってきたその声に顔を上げれば、ふっと笑って横を向く鬼道。
その横顔には哀愁が漂っている。


「どうする…?」


そんな鬼道の横顔をみながら呟く。


「なにがだ?」


俺の言葉に、鬼道がこちらを向く。


「これから。もう目が冴えちまって眠れない。鬼道もだろ。」


テーブルに突っ伏しながら俺が言うと、
鬼道は少し悩んでから


「とりあえず、感動する映画のDVDでも見て興奮を抑えるか。」


少し疲れたようにそう言った。
それはいい。
そう言って俺も体を起こすと、二人して力なく席を立ち、大きなテレビのあるリビングに向かった。




少年たちの眠れぬ夜は更けてゆく。












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豪炎寺さんは、熱い人なので、付き合ってもいないのに、ちゅーとか、それ以上のこととか、絶対にできない人だと思います。





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