円堂と音無が危ない目にあいます。
未遂ですが、暴力的な面があったりします。
苦手な方はご注意を〜






「最近、不審者がこの辺りをうろついているらしい。下校は必ず数名で行うように」
「へぇ…不審者か…おっかないなぁ鬼道…あれ?鬼道!?」
「鬼道なら担任の話が終わる前に帰ったぜ。
こうしちゃおれん!春菜はオレが守る!!とか叫びながら」
「き…鬼道…;;」




夜道にご用心




「じゃあ今日の練習はここまでなお疲れさん!」

「「「ありがとうございましたーー!!」」」


河川敷。
サッカー部は今日もここで練習していた。
オレ、円堂守や雷門中のみんなはこぞって公立高校に進学した。
だけど、この高校にはサッカー部がなくて、オレたちサッカー部は1年生のみ。
雷門中に負けず劣らずのマンモス校のこの高校でも、グラウンド争奪戦は厳しい。
1年のみの部に、とうていグラウンドなんか譲ってもらえない。
それならばということで、今日もみんなで河川敷にて練習していたというわけだ。
中学3年になった壁山や、宍戸とも会えるしな。

7月。
いくら日が長くなったといえど、もう7時半。
流石にあたりは暗くなりボールが見えなくなってきた頃、オレ達は練習を終えた。


「円堂」


さぁて帰るかと、バッグを持って帰ろうとした時、声を掛けられる。
声のするほうを見れば、豪炎寺が


「今日、一緒にガスト行かないか?パフェ食いたい…」


と今にも倒れそうに呟く。
今日の練習はハードだったから、きっとお腹が空いてるんだろうな…
顔に似合わず、豪炎寺は甘いものが好きだ。


「ああ!いいぜ!」


オレは笑って答える。

風丸や半田、少林も誘ったのだけど、今日は皆でCDショップに寄って行くらしくて、結局オレと豪炎寺と二人でパフェを食べに行くことになった。







「ううん…悩むな…」

オレの目の前で、うんうんと唸って豪炎寺が頭を抱えている。
このファミレスは、お味の割にお値段もお手頃で、何より品数が多いのが売りだ。
豪炎寺はスイーツのページを行ったり来たり、先ほどからずいぶん悩んでいる。


「何と何で迷ってるんだ?」


そんな姿にオレがふふっと笑って聞く。


「チョコレートバナナパフェか、おおもりイチゴの生クリームパフェか…」


そう言って呟く豪炎寺は本当にかわいいと思う。
いつもはあんなにクールでかっこいいのに…
オレは顔がゆるむのを抑えられない。


「じゃあ、オレどっちか頼むからさ、半分個ずつしようぜ。」


にこにことオレがそう言うと


「いいのか?」


と驚いたようにこちらを見てくる。


「うん!」とオレが笑えば、


「そうか…すまないな」


と、本当に嬉しそうにほほ笑む。
ああ…豪炎寺のこういう柔らかい笑顔、本当に大好きだ。

定員さんに注文をして、パフェが来るまで二人でドリンクバーを飲みつつ、今日の学校での出来事について語り合う。
なんでもない話なのに、こういう時の雑談は本当に楽しい。
「それでさ、染岡ったら…」と今日の掃除時間の染岡とのやり取りを話そうと、ふいに窓の外を見れば、見慣れた後ろ頭が二人。


「あ!あれ鬼道と音無じゃないか??」


オレがそう言って窓の外を指させば、豪炎寺も身を乗り出して窓を覗き込む。


「本当だ…こんな所でなにしてるんだ…」


豪炎寺の疑問はもっともだ。
今俺たちがいるファミレスは、あの二人の家の方向とは正反対だからだ。


「なぁなぁあの二人、誘っていい?」


なぜ二人が家とは正反対の方向のここにいるかは分からなかったが、高校に入学してからあの二人に久しくあっていないオレは、豪炎寺にそうお願いしてみた。
すると、豪炎寺は「いいんじゃないか?携帯で連絡してみよう。」と言って鞄から携帯を取り出して、カチカチと携帯を触る。
ほどなくして、「あ、もしもし?」と電話を耳に押し当てる。


「そうそう。そのガスト、お前らも来いよ」


豪炎寺が窓の外を見ながら話す。
こちらからは二人の頭のてっぺんが丸見えだ。
すると、こちらに気づいたのか音無が嬉しそうにこちらに手を振る。
それを見たオレは嬉しくなって手を振り返す。
鬼道もこちらを見て、オレ達の姿を確認すると、何やら一言しゃべって電話を切った。


「今から来るって。」


豪炎寺が携帯を閉じながら言う。


「先に新製品のひんやりあんみつ、生クリーム多めで頼んでおいてくれってさ。」


豪炎寺は苦笑いしながら呼び出しボタンを押す。
ピンポーンと音が鳴って「はい!ただいま!」なんて定員さんが言っている。
鬼道も豪炎寺も、二人ともすっごくかっこいいのに、そんな姿からはとても想像できないほど甘党なんだ。
オレはついおかしくって声をあげて笑った。





「久しぶりだな円堂。」

「ほんと、お久しぶりですね。お二人とも!」


テーブルの上にはパフェが2つと、美味しそうなチョコレートケーキが1つ。
それから、生クリームの盛りすぎで、下が見えないあんみつが並んでいる。
それを囲むようにオレと豪炎寺、向い側の席には鬼道と音無が座っている。


「本当に久しぶりだな!二人とも元気だったか?」


「ああ。円堂は相変わらずだな」


「そうそう!この前、練習試合で宍戸くんが大活躍だったんです。」


「そうか〜あいつらももう3年なんだもんなぁ…」


「感慨深いな。円堂」


わいわいと久しぶりの再会を喜ぶ。
まさかこんな所で会えるなんて思わなかったから、みんないつもより興奮気味みたいだ。
いつもは無口な豪炎寺が今日はいつもよりおしゃべりだ。


「そういえば…」


二人がここに来てからどれくらいたっだだろう?
オレは、ふと思いついたことを口にする。


「ふたりの家って、このガスト逆方向だよな?こっちに用でもあったのか?」


豪炎寺と二人で鬼道と音無を見つめる。
すると、今まですごく楽しそうだった二人が顔をしかめた。
オレと豪炎寺は顔を見合わせる。


「何か…あったのか?」


豪炎寺が神妙な顔つきで聞く。
すると鬼道は、同じく神妙に口を開いた。


「最近、この辺で不審者が出るらしい…」


ふしんしゃ?
オレはよく分からなくて、頭に?を出しながら豪炎寺の方を見る。

すると豪炎寺は視線をこちらに向けて、


「不審者…ちょっと危ない人のことだ。女の子が嫌がる姿を見て興奮して手を出そうとしたり、自分の裸を見せたがったりする。」


と説明してくれた。
ゆったりとした動作で視線を鬼道に戻す。


「物騒な話だな…俺たちの学校じゃそんな話でなかったが…」

「雷門中もそんな話全然なくて、お兄ちゃんからのメールで私も知ったんです。」


音無が半ば信じられないというような顔で言う。


「雷門中と、お前たちの学校は近いものな…不審者が目撃されたのは俺の通っている高校の近くらしいんだ。」


鬼道がココアを口に運びながら言う。


「俺たちの学校とお前たちの学校は学区が違うからな…だから連絡がなかったのだろう。」


テーブルにココアのカップを置く。


「まったく…学区が違うからと何の連絡もないなんて…」


テーブルにココアのカップを置いた手をそのままに鬼道はぶるぶると震え始めた。
何事かとオレと豪炎寺は顔を見合わせる。


「き…鬼道?」


オレは鬼道に声をかけた。
すると鬼道は頭をあげて、ココアのカップをどん!とテーブルに置き、手には握り拳を作って力説し始めた。


「もしだ!もし!不審者のことを知らずに春菜が普通に帰っていたら…もし!春菜が不審者に何かされたら…俺は…俺は…!!!」

「お…お兄ちゃん…!!」


ついには立ち上がって熱弁しだした鬼道を、隣に座っている音無が恥ずかしそうに宥める。
「す…すまん…つい」そう言って顔を真っ赤にして恥ずかしそうに着席する鬼道。
本当に、鬼道は音無の事が大切なんだなぁと感心して見ていると、隣の豪炎寺ははぁとため息をついて苦笑している。


「それで、私たちお兄ちゃんの学区を通るいつもの帰り道を避けて、逆方向のこちらから帰ろうとしていたんです。」


真っ赤になってちょびちょびココアをすすっている鬼道の代わりに音無が説明してくれる。
そうか。そう言えば二人の家は、鬼道の学区を通って少し行った所にあるんだっけ。
中学の時、よく遊びに行っていた鬼道の家を思い浮かべる。

ずるずるとオレンジジュースをすすっていると、しばらく黙って話を聞いていた豪炎寺が


「そう言うことなら早く帰った方がよくないか?もうすっかりこんな時間だが…」


店内の時計を指さす。


「「「あ…」」」

その時刻を見て俺たちは固まった。
もうすっかり夜10時を回っていたのだ。











「本当にごめん!オレが二人を誘ったから…」


オレ達は、今住宅街を歩いていた。
もう夜も遅いのでしんと静まったそこは、オレ達の声だけが響く。


「先輩のせいじゃないです!誘ってもらって本当に嬉しかったです。」


音無が一生懸命話す。
オレは嬉しくって心が温かくなるような気がした。
音無は本当にかわいい。
鬼道が大切にしたがるのもわかるなぁ…


「えへへ。ありがとう」


オレは笑って答える。
音無も安心したように微笑んだ。


「しかし…本当にここの住宅街は暗いな…これは変質者が出てもおかしくないな。」


豪炎寺があたりを見渡しながら言う。
確かに、ここは街灯の数も少なく、家と家の間の死角に入れば道路からは見えない。
おまけに、道路が入り組んでいるので、角を何個か曲がるだけでも道に迷ってしまいそうだ。
豪炎寺の言う通り、これは“ふしんしゃ”?だっけ?が潜んでいてもおかしくない。


「ああ。だがもう俺の高校の学区も終わる。もうすぐ俺の家だしな。」


鬼道が勝ち誇ったように言う。
今日の鬼道はいつもと違う。
何というか、表情豊かというか…興奮気味というか…
いつもは冷静沈着で、とてもおとなっぽいけど…
音無が絡むと人が変わったようだ。
なんだか微笑ましくってくすくすと笑う。

オレがそうしている間も鬼道は続ける。


「そうだ。もう時間も遅いし、みんな俺の家に泊まりに来い。父も、みんなに会いたいと言っていたしな。」


楽しそうに言う。

それを聞いたオレは、もうすごく嬉しくて


「いいのか鬼道!!?わーわー!オレ、一回鬼道の家に泊まってみたいと思ってたんだよな!」


飛び上がって喜んだ。


「いいのか?鬼道…」


ぴょんぴょんととび跳ねるオレの横で豪炎寺が申し訳なさそうに言う。


「ああ。もちろんだ。お前らの家とは逆方向のここまで送ってくれたんだ。それくらいはさせてくれ。」


そう言って鬼道はにやりとほほ笑んだ。


「そうか…ならばお言葉に甘えさせて頂くよ。」


豪炎寺もにやりとほほ笑んだ。

なんだか、あの二人が話していると絵になるなぁとぼんやり考えていた。


「じゃあじゃあ、私、家に着替えを取りに行ってくる!いいでしょ?お兄ちゃん。」


ぼんやり二人を眺めている隣で、音無が嬉しそうに言う。


「ああ。もちろんいいぞ。じゃあ行くか…」


そう言って鬼道が音無と一緒に行こうとすると、


「大丈夫だよ!ここまできたら、私のおうちすぐそこだもん!さっといって帰ってくるから、お兄ちゃんは準備して待ってて!」


そう言って音無は手を振って元気いっぱいに走って行ってしまった。


「おい!春菜!!」


鬼道が呼び止めるが、音無はどんどん走って行ってしまう。
鬼道はすごく慌てているようだ。


「オレが音無を連れてくるよ。二人は先行っててくれ!」


そう言ってオレは音無の後を追いかけて駆け出す。


「待て円堂!お前が行ってもだめなんだよ…!」


そんな豪炎寺の声が聞こえた気がする。
オレが行っても?
よく分からなかったけど、オレは音無の後を追いかけた。


「おーとなし!」


何個か暗がりの角を曲がった所で音無に追いつく。
曲がり角の先で立ち止まっている音無の肩を叩く。


「え…円…堂さん…」


そう言った音無の体は細かく震えていた。

何かがおかしい。

そう直感したオレは素早く音無の前に回り込む。

するとそこには

「円堂キャプテン?まさかこんな所で出会えるなんてな…」


「その制服ってあっちの高校のやつ?」


「なんだよ、やっぱりこっちの高校じゃなかったんじゃん。」



3人のガラの悪そうな体格のいい男の人が並んでこちらを見下ろしていた。

やばい…

本能がそう叫ぶ。


「いこう…音無。」


相手にしたらだめだ…
このまま逃げてしまおう。
豪炎寺と鬼道の所まで行けばきっと大丈夫。

そう思って、踵を返す。


「どこ行くんだよ円堂キャプテン。」


「俺たち、ずっとあんたのこと探してたんだぜ?」


そのまま走り去ろうとしたのだけれど、家の塀を背中に3人の男に囲まれてしまった。

しまった…!!


「へぇ〜女子の制服なんか着て…あの噂って本当だったんだ?」


何?あの噂??
オレは訳が分からず、そう言った男の方を睨む。


「わけわかんないって顔だなぁ」


もう一人の男が俺を下から舐めるように見つめる。


「俺たち、あんたが中学生の頃、テレビであんたの事見てさ、なんて生意気な奴なんだろうって思ったわけ。」


また別の男が続ける。


「ちょっとサッカーがうまいからってちやほやされてさ、調子に乗ってんじゃねぇよ」


目の前の男がこちらを睨む。


「でさ、いつかぼこぼこにしてやろうと思ってたらさ、あんた、女になったっていうじゃん?」


そういうと男は堪らないとでも言うようにげらげらと笑いだす。
残りの二人もつられたように笑いだす。


「何の冗談かと思ってさ、ほんとに女になったか確かめてやろと思って俺らこの辺探してたわけ。」


そう言って目を細めるとこちらに手を伸ばしてくる。


「触んな!!」


とっさにオレはその手を撥ね退ける。

すると今までにやにやと笑っていた男たちの顔が冷ややかなものに変わる。


「お前。この状況解ってるか?」


「お前生意気なんだよ。見ていてイライラすんだよ」


「二度とサッカーできねぇ体にしてやるよ。」


じりっとどんどん壁に追いやられる。
やばい…どうしたら…

ふとオレの後ろで震えている音無を見る。
その瞳は不安げに揺れている。
それでもオレと目が合うと、気丈さをその瞳に携える。
オレは、音無だけでも守らなくては…

オレは男をきっと睨むと手に持っていたカバンを思いっきりぶん投げた。


「うっわ…!」


横でオレ達の行く手を遮っていた男にカバンが当たる。
予期せぬ事態に男は軽く吹っ飛んだ。


「今だ!音無、逃げるぞ!」


「円堂さん…!!」


オレは音無の手を握ると走り出した。
とにかく逃げるんだ!
豪炎寺と鬼道の所に行けばなんとかなる…
それだけを考えてオレは走る。
走ろうとした。


「いやぁ!」


音無の叫びが聞こえた。
慌てて声のする方を見ると、音無の腕を男の一人が掴んでいる。


「音無!!」


オレは握っていた音無の手を離して、音無をつかんで離さない男に飛びかかろうとした


「ぐっ…!!」


飛びかかろうとしたが甘かった。
吹き飛ばした男と、音無の手をつかんでいる男、それとは別のもう1人がオレを後ろから羽交い絞めにして、地面に押し倒した。


「円堂さん!!!」


音無が青い顔で叫ぶ。
男の手を振りほどこうと必死にもがくが、びくともしていない。
それどころか、その行為が相手を挑発したのか、「うるせぇ!」と男が手を振り上げ、音無の頬を打つ。
バシン!と音がして、音無が倒れこむ。
そして俺と同じように音無の上にも男が覆いかぶさる。


「やめろ!音無に手を出すな!!女の子に手を挙げるなんてお前ら何考えてるんだ!!」


オレはなんとか男の腕から抜け出そうと必死で体をよじる。
でも、男の力は強く、ましてや上から押さえつけられていては、こちらが完全に不利というものだ。
頭上からくっくっと笑う声が聞こえて、何がおかしいんだ!とそちらを向けば


「女の子ね〜今はお前も女の子なんだぜ?」


そう言っていやらしい目でこちらを見てくる。


「ひゃっ…!」


脇腹あたりにじっとりと濡れた感触がする。
見れば、今、オレを頭上から見下ろしている男の手が、オレの制服のシャツの間から差し込まれていた。


「やめろ…このやろ…!!」


オレは必死に腕を動かしたり、足で相手の脇腹を蹴ったりするけれど、女の子力じゃ足りないのか、相手はびくともしていない。
豪炎寺がオレじゃダメって言ってたのはこういうことだったのか?
オレじゃもしもの時音無を守れないから…
そう思うと悔しくて涙がこぼれてくる。
そうしている間にも、男の手はゆるゆるとオレの肌を撫でて、どんどん上に上がってくる。

気持ち悪い気持ち悪い。
誰か助けて…
豪炎寺…豪炎寺…豪炎寺…!!!

どかぁ!!


「ぎゃっ…!!」


オレがもう駄目だと目をつぶった瞬間。
何かがぶつかったような音がした後、男の声がして、ふと体が軽くなる。

おそるおそる目を開けると、さっきまでオレの上に乗っていた男は数メートル先で倒れている。


「お…音無!!」


隣で倒れている音無を抱きかかえる。


「大…丈夫です…」


先ほど男に殴られた頬が痛々しく腫れている。
制服のシャツはボタンが数個引き千切られたようになっていて、音無の白い肌が露出している。
それはそれを直してやりながら倒れている男を睨む。
くそ、くそ、絶対に許さないぞ。

オレが立ち上がろうとすると、


「円堂…お前は春菜についていてやってくれ…」


「大丈夫か?円堂?」


聞きなれた声が後ろで聞こえた。


「豪炎寺!鬼道!」


オレの後ろには心から待ちわびた二人が立っていた。


「お兄…ちゃん…」


音無が力なく鬼道を呼ぶ。


その顔を鬼道がじっと見つめて、


「すまない春菜…一人にしてしまって…もう大丈夫だ…」


そう優しく笑って、音無の頬を撫でる。
音無は安心したようにふんわり笑った後、気を失ってしまった。


「春菜をこんな目にあわせて…貴様らどうなるか分かっているな…?」


笑みを消して鬼道が男達を睨む。
男達はよろよろと立ちあがってこちらを睨んでいる。


「鬼道…オレも…!」


オレも加勢しようと立ち上がろうとするが、足に力が入らない。
足が震えて思うように体が動かない。


「円堂」


優しい声と共にぽんと頭に手を置かれる。
見上げれば、豪炎寺が微笑んでいた。


「豪…炎寺…」


その笑顔を見ると、オレはひどく安心した気持ちになって、泣きたくもないのに勝手に目から涙がこぼれた。


「豪炎寺…豪炎寺…」


ぐしゅぐしゅと泣くオレの涙をぬぐって、豪炎寺が頭を撫でてくれる。


「怖かったな…もう大丈夫だ…」


そう言ってまっすぐオレをみてほほ笑む。


「少し待っていてくれるか?」


「うん…」


豪炎寺はオレの返事を聞くと、オレの頭をぽんぽんと撫でてすっと立ち上がる。


「……殺す」


そう一言だけ呟くと、その言葉を待っていたかの様な鬼道と、風のような速さで男たちに飛びかかった。
その二人の背中には、サッカーボールもないのに魔人が見えたような気がした。














「もーーーすっげぇ怖かったし気持ち悪かった!な!音無!」


「はい!もーどうなる事かと思いましたよね!円堂さん!」


あの後、おいおいそれはやりすぎなんじゃないか?と思うほどに3人の男たちは、豪炎寺と鬼道にボコボコにされて、警察に連行されていった。

警官の人が、「え…なんでこの人たちこんなにめちゃめちゃなの…?」と冷や汗を流していたけれど、豪炎寺と鬼道が口を揃えて


「正当防衛です。」


「こうしないと彼女たちがひどい目にあっていたのでね。」


とぴしゃりと言い放つと、


「そう…」


と怯えながらパトカーで帰って行った。

あんな事があったことだし、時間も時間だし、今からそれぞれの家に帰るには怖すぎるということで、当初の予定通り、鬼道の家に泊まらせてもらうことになった。
音無は着替えを取りに帰るのを諦めて、オレと豪炎寺と一緒に鬼道のパジャマを借りることになった。
そして今俺たちはやたらと広い鬼道の部屋のベットに4人で腰かけているのだった。


「すまなかった春菜…!俺が…俺がふがいないばっかりに…!!」


オレと音無が今日の出来事がいかに怖かったか話していると、ぎゅーっと鬼道が音無を抱きしめる。

オレと音無がお風呂から上がって部屋に入ってきたとたん、鬼道ががばっと音無に抱きつき、有無を言わさずにベッドに担ぎあげ、鬼道の足の間に音無を座らせて後ろから抱き締めた。
それからずっと鬼道は音無を抱きしめて離さない。


「顔に…顔にこんな傷まで作って…」


そう言いながら、鬼道は大きなシップが張られた音無の頬を大切そうに撫でる。
音無はくすぐったそうに


「大丈夫よお兄ちゃん。もう全然痛くないわ。」


と笑った。


「は…はるなああああぁあああ!!」


そういうと鬼道はまたぎゅーっと音無をきつく抱きしめた。


そんな二人を微笑ましく眺めていると、とんと肩に何かが触れる。
何かと思ってみれば、豪炎寺がこちらにもたれてきたようだった。
触れ合う肩と肩。
それを見てオレの胸はドキドキと高鳴る。


「…お前が押し倒されている所を見たとき…心臓が止まるかと思った…」


豪炎寺からふわりとシャンプーの香りが漂う。


「頼むから…もう無茶はしないでくれよな…」


そう言ってこちらをまっすぐに見つめてくる。
そんな真剣な目で見つめられたら、オレはどんどん体が熱くなって溶けてしまいそうだ。


「ごめんな…もうしない…」


ぎゅっと豪炎寺の手を握ってそう言えば
豪炎寺はふわりと優しく笑って手を握り返してくれた。


オレがえへへと笑って豪炎寺を見つめれば、豪炎寺も眼詰め替えしてくれて
オレはひどく幸せな気持ちになった。


「だけどさ、豪炎寺…」


オレが思い出したように言う。
豪炎寺は、ん?とこちらに耳を傾けてくれる。


「オレさ、怖かったけど、大丈夫だったんだ!」


「?」


オレの言いたい事が分からないというように、豪炎寺は頭に?マークを並べている。


「オレさ、豪炎寺は絶対に来てくれるって信じてたから…」


内緒話みたいに耳元でこっそりと呟いた。

すると豪炎寺は顔を真っ赤にしてほほ笑むと


「バカ…」


とオレの頭を小突いた。






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このあと4人で仲良く同じ布団で寝ました(爆

次は、眠ってしまった女子2人を残して台所で語り合う男子二人です。
これの続きです。

今回の話が異様に長くなってしまったので次は軽めの話にしたいです…!!!




あと3話くらいで終わりますの予定です…!
予定は未定とよく言いますが…!爆






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