「行ってきまーす!」
「守!顔赤いわよ!きゃあ!熱い!!」
「へ?うそ…」
「あんた今日は学校お休みしなさい!」
「ええええええええ!」




二人の気持ち
鈍感な熱血キャプテンの場合




最悪だ…
オレ、円堂守はベッドの上に横になりながらため息をついた。
朝、学校に行こうとしたら母ちゃんに物凄い勢いで呼び止められた。
まさかと思って熱を測れば微熱が少々…
捻挫の患部炎症から来る発熱らしい。
こんなのなんでもないのに…とぶつぶつと文句を言いながら布団にもぐれば、それでも少し体が重かったことに気が付いた。


(今日は、豪炎寺になんでオレに冷たく接したのか聞こうと思ったのにな…)


最近オレに冷たいつんつん頭を思い浮かべてまたため息を吐いた。

秋は、豪炎寺がオレのこと好きだから冷たくしたんだって言っていたけど…
そういう気持ち、よく分からない…
オレは好きな友達とはずっと仲良くしたいって思う。
好きだから冷たくするのってなんだか変じゃないか?
秋は、オレにも分かる時が来るって言ってたけど…


(そのことも、豪炎寺に聞かなくちゃ…)


悶々と考え事をしているうちに瞼が重たくなってくる。
オレは、我慢できずに眠りに落ちた。








どれくらい眠っていたのだろうか?
不意に目が覚めて時計を見れば、午前11時を回った所だった。
卓上時計の隣にきっと高いだろう、フルーツの盛り合わせバスケットが目に入った。

昨日、病院から帰ってみれば、玄関に誰か人が居た。
何者かと、構えながら近づくと、それは怪我をしたその日に、オレが庇った女の子とそのお母さんだった。


「あの…円堂くん…怪我大丈夫?私、本当にごめんなさい!!」


そういって深々と頭を下げられる。


「全然たいしたこと無いよ!只の捻挫だから!だからそんな謝らないでくれよ!」


オレはアタフタと慌てて言った。


「大丈夫よ。この子ったら頑丈なだけが取り柄ですから」


かあちゃんもオレの隣でホホホと笑う。


「いいえ!大事な娘さんを危ない目に合わせてしまって…」


そういって向こうのお母さんが申し訳なさそうに頭を下げる。
かあちゃんは、さっきのオレみたいに慌てて


「そんな!とんでもないですのよ本当に!どうかお気になさらないで!」


とアタフタした。


「あのね…円堂くん…これ、秋に聞いて円堂くんの好きな果物の詰め合わせ…」


お母さん同士話をしている最中、女の子がおずおずとバスケットを差し出す。


「こんなものじゃお詫びにもならないけど…良かったら食べて。」


とふわりと笑った。


見れば、本当にオレの大好きな果物ばかりの詰め合わせだった。


「うわぁ!本当に?全然気にしないでよかったのに…」


大好物の果物を前にオレは目を輝かせる。

隣でかあちゃん達は


「まぁ!こんな立派なもの…本当にすみません。気を使っていただいて…」


「いいえいいえ!こんなものしか出来なくて、お恥ずかしいですわ。」


と遠慮しあっている。
そんな二人を横目に


「ありがとう!美味しくいただくよ!」

と俺が笑えば、
それを見て女の子はやっと安心したのか


「うん!」


と嬉しそうに満点の笑顔で笑った。


(あの子、笑ってくれて良かったな…)


階段から落ちてからあの子の悲しむ顔しか見ていなかったから…
あの子の安心したような嬉しそうな笑顔は本当に嬉しかった。
昨晩の出来事を思い出して微笑む。
昨日、女の子の笑顔と一緒にもらったこのフルーツバスケットは美味しそうにキラキラ輝いているように見えた。

せっかくだし、果物でも頂こうかと、ベッドから降りて、バスケットに手を伸ばそうとした瞬間。


「円堂…?」

「!!!!??!?!?」


オレはもうあと3センチで大好きな果物に触れられるという所で固まった。
なんで?
豪炎寺の声が聞こえた気がした…
あいつが、ここにいるはずないのに…
なんで?なんで?


「…入るぞ…」


「〜〜〜!!」


やっぱり豪炎寺だ!

そう頭が認識した瞬間、オレは足が痛いのも忘れて、ものすごい速さで布団の中に潜り込んだ。
心臓がドキドキとうるさい。
顔がみるみる赤くなっていくのがわかる。
どうして?
どうしてここに豪炎寺が…
ずっと会いたいと思っていたけど突然すぎる。
まだ心の準備ができていないのに…
そんなことを悶々と考えていたら、豪炎寺がゆっくりとこの布団に近づいてくる気配がして、
いよいよオレの頭は心臓のドキドキのせいで真っ白になってしまった。


「円堂」


すぐ近くで豪炎寺の声が聞こえて、体がはねた。
豪炎寺の声が優しい。


「円堂…今までその…悪かった…」


本当に申し訳なさそうに豪炎寺が呟く。
その声を聞くだけで、オレは目の奥が熱くなる。


「お前のことを…嫌いになったとか、そういうんじゃないんだ…」


布団の上からぽんぽんと撫でられる。
そんな風に優しくされたら、もう堪えることができなくて、オレは声を殺して泣き出してしまった。


「頼むから、出てきてくれよ」


そう言った豪炎寺の声は、今まで以上に優しくて、
いつもの頼りになる豪炎寺からは想像できないくらい弱弱しい声だった。
今、どんな顔をしているの?
ぼろぼろと流れる涙は止まらない。
こんな顔見られるのは恥ずかしいけれど、豪炎寺の顔が見たい。
それに、今日、必ず伝えるって決めたこの気持ち…
今伝えなくちゃ…

そう思って、頭だけを布団の外に出した。

おそるおそる豪炎寺の顔を盗み見れば

(う…わぁ…)

豪炎寺はほっとしたような、愛しいものを見るような、優しい目で俺を見つめた。

そんな風に見つめられたら、優しくされて嬉しい気持と、今まで冷たくされた悲しさと、
胸がドキドキする気持ちが心の中でぐちゃぐちゃに混ざり合ってどうしていいのか分からなくなる。


「ば…かやろう…豪炎…寺ぃ…」


とにかく、伝えなくちゃ。
そう思って、なんとかそれだけ絞り出す。
涙声で上手に喋れていないけれど。


「すまない…」


そういって豪炎寺は本当に申し訳なさそうに呟いて
オレの頬を流れる涙を、大きな手でぬぐってくれる。
豪炎寺が触れる手が暖かくて優しい。


「オレ…豪炎寺に…嫌われたのかと思って…」


ひときわ小さな声で囁いた。
豪炎寺はうまく聞こえなかったのか、こちらに耳を傾けてくる。
オレはやっきになって、がばりと布団から起き上がると、涙でうるんで焦点が定まらない眼で豪炎寺を見つめて喚き立てる。


「オレ…心配、したんだからな!豪炎寺に…嫌われたんじゃないかって…
豪炎寺、オレが話し掛けても無視するし、一緒に帰ろうって言っても忙しいって言って一緒に帰ってくれないし…オレ…オレ…」


手を握り締めて一生懸命に話すけれど、
気持ちがぐちゃぐちゃで何を言っているのか自分でもよく分からない。
涙で豪炎寺の顔がよく見えない。
豪炎寺は今どんな顔をしているのかな?
困って…呆れちゃったかな…?
目からぽろぽろと涙がこぼれては落ちていく。


「ごめん…」


豪炎寺の声が聞こえたと思ったら、オレは何か温かいものに包まれていた。
それが豪炎寺の腕だと気付くのに、時間はかからなかった。


「本当に…ごめん…」

そう言って、オレを抱きしめてくれる豪炎寺の腕はとても優しい。
オレは嬉しくてまた涙が流れた。
豪炎寺が俺の背中を撫でてくれる。
そこからじんわりと豪炎寺の気持ちが溢れてくるような気がして、
オレは気持ちよくて豪炎寺の胸に顔を埋めて、豪炎寺に縋り付くようにしがみついた。
豪炎寺の胸からは暖かい陽だまりのにおいがした。
ドキドキと高鳴る心臓がうるさい。
豪炎寺の温もりに蕩けそうな頭のどこかで、昨日秋が言ったことを思い出す。


「豪炎寺くんは円堂くんの事が大好きだから冷たくしたんだと思うわ。」


そうだ。
豪炎寺の気持ち、聞かなくちゃ…


「豪…炎寺…」


オレがそう呟くと、豪炎寺はそっとオレから体を離して、まっすぐにオレを見つめてくれる。
豪炎寺のぬくもりが離れてしまうことが、ひどくもったいない気がしたけど…
ちゃんと目を見て聞かなくちゃ…
心の中で、よし…!と呟いて俺はまっすぐに豪炎寺を見つめて聞いた。


「豪炎寺…オレのこと…好きか…?」


「!!!?」


豪炎寺は一瞬心底びっくりしたように眼を見開いたあと、
顔を赤くさせてそっぽを向いてしまった。

急にこんなこと聞いて、困らせてしまったかな?
すぐに答えてくれないってことは、本当はやっぱりオレのことヤなのかな…

そんな思いがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
頼む…豪炎寺…

オレはじっと豪炎寺を見つめていた。

豪炎寺は、少し何かを考えたような顔をして、
すぅっと息を吸った後、まっすぐにオレの方を見て、


「好きだ」


と、言った。

豪炎寺がオレのこと好き…

オレはなぜだか顔が熱くなるのを感じた。
心臓がドキドキと高鳴ってうるさい。
手が意味もなく震える。


嫌いになったからじゃなくて、好きだから俺に冷たくしたのか?とか
好きだったらなんで冷たくするんだ?とか、
他にももっと聞きたい事があったけど…

豪炎寺のまっすぐな眼がくすぐったくて、
豪炎寺の気持ちがすごくうれしくて、
オレはもう豪炎寺がオレのことを好きというその事実だけで満足した気持ちになって、

「良かったぁ〜」

と胸をなでおろした。


「オレも…豪炎寺が好きだからさ…」


えへへと恥ずかしいのを隠すように笑う。

ありがとう豪炎寺。
好きって言ってくれて嬉しい。
冷たくされて寂しかった。

そんなオレの気持ちを伝えたくて、
でも、ドキドキと胸が高鳴って、恥ずかしくって、なんだかうまく伝えられそうにない。
どうやったらこの気持ち、豪炎寺に伝わるだろうと考えて、オレは大事な友達との懐かしい出来事を思い出した。


「小学校の時に風丸とケンカした時も思ったけど…」


大親友風丸と喧嘩をした時の思い出を話そうとした。
風丸とケンカしたときも、風丸に冷たくされて、オレはどうしようもなくさみしくて、毎晩泣いていたんだ。
伝わったかな?と、豪炎寺の顔を見れば、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
あれ?うまく伝わっていないのかな?

「やっぱり友達と気まずいっていうのは嫌だよな…」


きっともっと話せば豪炎寺も分かってくれる。
そう思って俺は話しつづける。


「俺、豪炎寺もみんなも大好き!これからもずっとずっと仲良しでいてくれよな!」


そう言った瞬間、がっくりと豪炎寺が肩を落とした。
あれ…?おかしいな…オレなんか変な事…言った??
あまりに豪炎寺が頭を抱えて苦悩しているので、オレは心配になって


「どうした?豪炎寺?腹でも痛いのか??」


と心配そうに豪炎寺の顔を覗き込む。
すると、ゆっくりと豪炎寺はこちらを向いて、最初は恥ずかしいような困ったような、複雑な顔をしていたけれど、
はぁとひとつため息をつくと、ポンとオレの頭に手を置いて


「ああ。こちらこそ、これからも仲良くしてくれ」


と笑った。

その甘やかすような優しい笑顔に、
心臓がドキドキと高鳴るのが分かった。
この心臓のドキドキが豪炎寺に伝わらないように、


「うん!」


となるべく元気いっぱいに笑った。

ふと。風丸とケンカした時の事を思い出す。
確かに、風丸に冷たくされて、さびしくて毎日泣いていたのは豪炎寺の時と一緒だけれど、
こんな風に優しくされて満たされた気持になったり、甘やかされてドキドキしたりすること、あっただろうか?

そんなことをぼんやりと考える。

豪炎寺は不思議だ。
豪炎寺といるとドキドキして暖かい。
ずっとずっと一緒にいたいと思ってしまう。

この不思議な気持の正体をオレはまだ知らないけれど
今はただ、この幸せな気持に浸っていたいと、そう思った。






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そんな訳で円堂編でした。
すれ違い青春ラブが大好物な管理人です!!!(爆)

しかし、私のボキャブラリーの少なさといったら…
もっとこう上手に二人の気持ちを表現できたらいいのにと日々悶々しています。





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