「この気持ち…必ず伝える…」
「豪炎寺くん…」
「なんだ?」
「意気込んでる所申し訳ないんだけど…」
「?」
「今日、円堂くん休みだって…」
「!!!!??」






二人の気持ち
無口で不器用なストライカーの場合






「あれ?円堂今日休み?」


教科書を借りに来た半田が珍しそうに聞く。


「そうなの。円堂くん昨日体育で怪我しちゃって」


教科書を渡してやりながら木野が心配そうに言う。


「円堂が怪我!!?どんな大事故が起こったんだよ。」


教科書を受け取りながら半田が本当にびっくりした様に言う。
その気持ちも分かる。
円堂は今まで、どんな無茶苦茶な特訓でも怪我一つしたこと無かったから…


「ちょっと色々あってね」


木野が困ったように微笑む。

今日の部活の時みんなに話すわ。

そう言ってひらひらと手を振って自分の教室に戻る半田を見送った。


木野と半田の一連のやり取りを遠巻きに見ていた俺、豪炎寺修也はおおきなため息を一つ吐いた。
昨日、円堂が怪我をして病院で泣いていて、それを見て初めて俺の浅はかな行動で円堂を傷つけていたと気付いた。
木野に言われた通り、今日からは肩の力を抜いて、自然体で俺のしたいように円堂に接しようと意気込んで登校してきたのだが…
今日は円堂は休みだった。
捻挫の患部の炎症からくる発熱が原因のようだ。
完全に肩透かしを食らった俺は、自分の席でこっそりと落ち込んでいる所だった。


「おーい顔に覇気がねぇぞ」


ぽんと頭に何か固いものが当たる感触がしてそちらを向く。
そこには「よぅ」と現国の教科書を片手に染岡が立っていた。


「円堂、休みなんだってな」


そういいながら、空いていた俺の前の席に腰掛ける。


「具合、悪いのか?」

「昨日体育で怪我してな…」


がっくりと肩を落として言う。


「落ち込んでんなー」


と染岡がちゃかす様に笑う。


「俺が…未熟だったばっかりに円堂を傷つけちまってな…今日…謝ろうと思ったんだが・・・」


そういって更にがっくりと肩を落とす。

染岡が「あー…」とばつが悪そうに頬を掻く。
俺の落ち込みっぷりを見て、先ほど笑ったことを申し訳なく思っているのだろう。
染岡は少し考えると、俺の肩ををばんっ!と力強く叩いて


「そんなに落ち込むくらい円堂のこと気にしてんならさ、授業なんてふけて見舞いにでも行ってやれよ!!」


にかっと笑ってそう言った。
授業をふけて…
顔を上げて染岡を見る。
染岡はじっとこちらを見て力強く頷いた。

そうだ…その手があった。
どうせ今日は円堂のことが気になって授業になんかならないだろう。
実際の所、先ほどの授業中の俺ときたら、ぼんやりと空を眺めて先生の問いかけにも答えず全くの上の空。
それを注意されれば、眼光鋭く先生を睨みつけ、先生は竦み上がり、俺におびえてまともな授業にならなかったらしい。
それはひどい有様だったと、休み時間になるなり木野に告げられた。
それならばいっそ、気だるい授業をイヤイヤ聞くより円堂の顔を見に行った方が数百倍いいに決まっている。
そうと決まれば…

俺は勢い良く立ち上がると、机の脇にかけてあったスポーツバッグを取り、机の中の物を放り込み始める。
それを染岡は満足そうに眺めている。

必要な物をあらかた詰め終えると、そのバッグを取り、廊下へと続く扉へ向かう。


「豪炎寺?どこいくんだよ?」


クラスメートに不思議そうに声を掛けられたが


「風邪引いたから自主休校」


と無愛想に答えた。
するとクラスメートは


「都合のいい風邪だな?まぁお大事に」


といたずらっ子のように笑って俺の肩をぽんと叩く。
「サンキュ」と言って扉に手をかける。
教室から出ようとすると中の染岡と目が合った。
染岡は「頑張れよ」とでも言うように片手を上げたので、俺もにやりと笑って手を降り返した。

授業開始のチャイムが鳴り、すっかり静まった校庭を歩いていると、俺のクラスから声が聞こえてくる。
窓が開いているからとはいえ、あいつら声でかすぎるぞ。
微笑ましく思って笑っていると


「豪炎寺はどうしたー?」

「風邪ひいて自主休校らしいでーす!」

「風邪?今朝は元気だったじゃないか?」

「あいつは元気でも、あいつの可愛いあの子は捻挫で苦しんでいるんでーす!」

「…そういえば円堂は昨日怪我したんだったんだな…」


そんな先生とクラスメイトのやりとりが聞こえてきた。
俺は、顔を真っ赤にしながら


「あいつら明日覚えてろよ…」


と誰も居ない校庭で呟いて、俺は円堂の家に向かって駆け出した。









「円堂…?」
コンコンと扉を軽くノックする。
俺のもう片方の手には、先ほどおばさんから有無を言わさず渡された、薬とおかゆの乗ったお盆が乗っている。
それというのも、俺を出迎えてくれたおばさんが、俺の顔を見るなり


「まぁ!豪炎寺くんお見舞いに来てくれたの?助かるわー!
おばさん、ちょうど今から出かけなくちゃいけなくて、守を一人にもできないし、どうしようかと思ってたのよー!!」


こちらが返答する間もなく家に上げてもらい、ちょっと待っててと台所の前で待たされ、有無を言わさず薬とおかゆの乗ったお盆を手渡された。


「申し訳ないんだけど、それ守に食べさせてもらえるかしら?薬は食後で3種類ね!
あ!豪炎寺くんお腹すいたら台所の鍋にカレーがあるから良かったら食べてね。」


そう言って忙しそうに支度をすると


「じゃあよろしくね!豪炎寺くん!夜には戻るわ!!」


そう言って慌ただしく出て行ってしまった。
俺は、一連のドタバタで、何がなにやら分からないうちに円堂の看病を任されてしまった。

しかし…病気の息子…今は娘か…の看病を任せられるなんて…
俺は相当信用されているのか、それとも男として認識されていないのか…
後者でないことを祈りつつ、俺は円堂の部屋に向かった。

そんなこんなで今のこの状況に至るわけだが…
扉の先に居るはずの円堂からは何の返事も無い。


「…入るぞ…」


そう一言告げて、俺は円堂の部屋に入った。
円堂の寝ているはずのベッドに円堂の姿はなく、その代わりにこんもりと盛り上がった布団があった。
あいつが女の子になってしまったあの日と全く同じだ…
俺はそれを見てぷっと吹き出すと、近くにあるテーブルの上にお盆をおろした。
テーブルの上には、高そうなフルーツの詰め合わせバスケットがあった。
誰かからのお見舞いだろうか?
そんな事を考えながらベッドに近づく。


「円堂」


なるべく優しく声をかける。
すると布団がびくりと動いた。


「円堂…今までその…悪かった…」


俺は床に膝をついて布団に顔を近づける。


「お前のことを…嫌いになったとか、そういうんじゃないんだ…」


布団の上からぽんぽんと撫でる。


「頼むから、出てきてくれよ」


自分でも驚くほどに弱弱しい声だった。
俺は不器用だから、思ってることをそのまま口に出せない。
円堂が出てきてくれた所でうまく謝れないかもしれない。
だけど、この気持ちを伝えなくては…
泣かせて、悲しい顔、させてごめん。
傷つけてごめん。
本当は優しくしたかったんだ。
色々な思いが頭をめぐる。
俺はじっと布団を見つめた。

ごぞごそと布団が動いて、ひょっこりと円堂が頭だけを布団から出す。
ずいぶんと久しぶりに円堂の顔を見た気がする。
その顔からはぽろぽろと大粒の涙が流れている。


「ば…かやろう…豪炎…寺ぃ…」


円堂がしゃっくりあげながらそういう。


「すまない…」


そういって俺は流れる涙を指で拭ってやる。


「オレ…豪炎寺に…嫌われたのかと思って…」


ひときわ小さな声で囁いた。
俺は上手く聞き取れなくて、「え?」と耳を傾けた。
すると円堂は、がばっと起き上がって、その大きな目から流れる涙をそのままに、やけになったように話し始めた。


「オレ…心配、したんだからな!豪炎寺に…嫌われたんじゃないかって…
豪炎寺、オレが話し掛けても無視するし、一緒に帰ろうって言っても忙しいって言って一緒に帰ってくれないし…オレ…オレ…」


手を握り締めてしゃっくり上げながら一生懸命に話す。
最後の方は堪え切れなくなってわんわんと泣き出してしまった。
大きな目からぽろぽろと涙がこぼれては落ちていく。
そんな円堂の姿は痛々しくもあり、そして何よりも愛しく思えた。


「ごめん…」


堪らない気持ちになって、気が付けば俺は円堂を抱きしめていた。
オレの腕の中で震える体は暖かかった。


「本当に…ごめん…」


円堂を抱きしめる腕に力を込める。
腕の中の円堂はまだ泣いている。
円堂に少しでも俺の気持ちが伝わるように円堂の背中を撫でる。
すると円堂は縋り付くように俺の背中に腕をまわした。

その仕草が嬉しくて、愛しくて俺は円堂の髪に唇を落とす。
円堂の髪からは暖かいおひさまの匂いがした。


「豪…炎寺…」


しゃっくり上げながら円堂が控えめに話す。
円堂の温もりを手放すのはひどくもったいない気がしたが、体を離して円堂の顔を覗き込む。
すると、円堂は目に涙をいっぱい溜めて言った。


「豪炎寺…オレのこと…好きか…?」


「!!!?」


突然の問いに俺は頭が真っ白になった。
今それを聞くのか?
この気持ちを伝えなくてはと思っていたが、こうも唐突だと心の準備ができていない。
だが目の前の円堂は眼をうるうるさせてこちらを見ている。
答えを…待ってはくれなさそうだ…

「なよなよ逃げとらんと、好きな子とちゃんと向き合い!」

昨日の浦部の言葉を思い出す。

そうだ。
俺は今まで散々この気持ちから逃げてきた。
そのせいで円堂を傷つけた。
こんどは…逃げない。

俺はすぅっと息を吸い込むと、円堂の目をまっすぐに見て


「好きだ」


と、言った。

円堂は眼をぱちくりさせてこちらを見ている。

言ってしまってから嫌な汗をかいてきた。
俺のこの気持ちは、受け入れてもらえたのだろうか?
それとも…

俺の頭の中をいやな考えがぐるぐると渦巻く。
心臓がドキドキと高鳴って気持ちが悪い…

するとしばらく無反応だった円堂がその顔を綻ばせて


「良かったぁ〜」


と、それはそれは綺麗な顔でほほ笑んだ。


「オレも…豪炎寺が好きだからさ…」

えへへと恥ずかしそうに笑った。


今…なんて…?
今、円堂も俺のことが好きと言ったか?
俺は顔が赤くなるのがわかった。
心臓がドキドキとうるさい。
あの、円堂が俺のことが好き…
その事実だけで俺は嬉しさで倒れそうだった。
が…


「小学校の時に風丸とケンカした時も思ったけど…」


風丸?
なぜ今風丸の名前が出てくるんだ…?


「やっぱり友達と気まずいっていうのは嫌だよな…」


まさか…いや、まさかと思うが…


「俺、豪炎寺もみんなも大好き!これからもずっとずっと仲良しでいてくれよな!」


やっぱりね!!!
もうずっと前から解っていたはずだ。
円堂がこういう奴だって…
それを俺は円堂も自分と同じ気持ちで俺のことを好きだと思っていたなんて…
なんというか、顔から火が出そうなほどに恥ずかしい…


俺が頭を抱えて悶絶していると、円堂が


「どうした?豪炎寺?腹でも痛いのか??」


と心配そうに覗き込んでくる。
その顔を見つめ返せば、先程までとめどなく流れたいた涙も、今はもう止まっている。


円堂が元気になってくれた。
今はそれだけで良しとしよう。


俺はそう思い直して、はぁとひとつため息をつくと


「ああ。こちらこそ、これからも仲良くしてくれ」


そう言って円堂の頭を撫でてやる。
すると円堂は本当に幸せそうに笑って

「うん!」

と言った。



ああ…俺はなんて大変なやつを好きになってしまったんだ。
だけど、こういう円堂だからこそ好きになったんだ。

覚悟しておけよ円堂。
絶対に俺だけのものにしてやるからな。

俺は新たな誓いを胸に、もう一度円堂の頭を撫でた。





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円堂は友達の好きと、恋愛の好きとの違いがよく分からない子だと思います。
まだ円堂が自分の気持ちに気付くのにもう少しかかりそうです…


長くなってしまってすみません!!!!!!(泣)





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