出会う
 もう帰らないと今日は皆とご飯なんだ。そう心からの笑顔で言ったアレスを思い出してハデスは小さく笑みを漏らした。皆。みな。みんな。アレスの言う皆とはきっと家族のことなのだろう。それがとても嬉しくて、ハデスはまた小さく笑みを漏らした。

「主、何ニヤけてるんですか?」

 カロンが聞く。ハデスは可愛い甥っ子の性だと返し、今日の彼との会話を一つ一つなぞっていく。口を開けば彼の神―――ヘパイストスの名前ばかりが溢れていたように思う。兄貴が―――つまりはヘパイストスが、何をしてそれがさ、とキラキラした瞳で語るアレスは楽しそうに身ぶり手ぶりをつけている。少し前までは戦場の話、それより前は振り向かない両親の話ばかりしていたのに、今ではヘパイストスや彼の可愛い妹達の話、時々気の合わない異母兄弟について愚痴を言っては、かつてだったら見たこともない顔で笑う。幸せ。今のアレスとハデスの状態はまさしくそれであろう。そう思う。そうであってほしいと願う。ただ、これが絶頂だとは思ってほしくない。

「なぁカロン」
「なんです、主」
「あの子が今度来るときは、恋人の話でもされるんだろうか?」
「…くっ、なんです?寂しいんですか?」

 震える肩を隠そうもせずに聞くカロンに、わざと肩を竦めてハデスは返す。

「独り身の私たちには切ない話題じゃないか?」

 とうとう噴き出したカロンを見ながら、ハデスは微笑む。アレスの世界はもっと広がればいい。勿論、自身とともにある時間が減るのは寂しいがそれ以上に願う何かがあるのだ。だからこそハデスは笑う。

「俺たちまだまだ幸せになれますね、主」
「当り前だろう?」

世界が広がる度、幸せも膨らむのだから。

24.出会う


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新しい世界で新しい愛に出会う。

2012.03.07


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