焦がれる
 今、とある愛が終わった。
 アフロディテの涙を拭いながら、まるで神聖な儀式を行うかのようにアレスは彼女の眦(まなじり)に口付けた。彼女は―――普段は妖艶で読みがたく気丈な女だが、今はただ音もなく泣いている。嗚咽も表情もない。アレスは涙と形容したそれが今や何の変哲もない水となって彼女を苛んでいる気さえしている。驚きも悲しみも、まして喜びも。その液体からは汲み取れなかった。それこそが終わりであるのだろう。アレスは酷くこの瞬間を愛おしく思う。少なくとも彼女をその腕に掻き抱くほどには愛おしいものに思えた。
 アフロディテ―――愛という女はしばしばこのような状態に陥る。人前でそれを見せたことはないと彼女は言うが、アレスからすればそんなことはどうでも良かった。愛を生む女は愛が失われた時、その体から水を失う。その事実だけが酷く愛おしかった。ただ無責任に愛を与えるのではないという事実が酷く心地よかった。きっと、彼女は自分の愛が失われた時にもただ音もなく泣いてくれるのだろう。それだけが、アレスにとって女からの愛が本物であるという証明だった。ただ与えられたのではない。お互いが思い合い、満たされていたからこそ成り立ったという証左だった。
 だから、アレスはアフロディテを抱きしめては口付けを送る。女から失われた愛を自身のそれで埋めるように。これこそが男の愛の証明なのだと言わんばかりに。アフロディテがアレスの―――愛人の名を愛おしげに呼ぶまで儀式は続いた。

01.焦がれる

いつか来る終わりに耐えられなくなるようにと込められた願いを女は知らない。


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初めて書くアレアプがヤンデレ(?)アレスに持ってかれたとか信じない。

2012.03.01


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