振り払う
 事故に遭った時、オレは考えられないくらい穏やかな気持ちだったよ。血の生温かさとか心臓のはやりとか、お前の声も喧噪も、そんなものは酷く遠くにあって、ああ、会えるんだと思った。やっと会える。もう二度と会うことはできない、記憶の中じゃない、画面越しじゃない、父親と母親に。今度会ったら、いや、母親となんて記憶のあるうちに会ったことはないけれど、でも、今度会ったら、オレは貴女とダディの子ですか?って聞いて、そうよって抱きしめて貰おうと思ってたんだよ。貴女と同じ、アイドルになってオレ、頑張っていますって言いながらね。ダディはそんなオレを嫌うかもしれないけれど、でも、神宮寺財閥のために頑張りましたって伝えるんだ。貴方のためでなく自分の意志で、この家のために生きたいと思ったってことも、勿論。それで、ね。今度こそ、今度こそ、言うんだ。「愛して下さい」って。テープ越しの愛じゃ足りないから、拒絶の言葉だけじゃ息が出来ないから、今度こそ、振り払われても突き放されても諦めずに「愛」を乞おうと、そうだね、決心してたんだ。でも、目を開けてみれば白い天井とお前の泣き顔で、オレ、やっぱり嫌われてるんだろうね。まだ来るなって言われちゃったみたいだ。まだ生きろって。甘えるなって。酷い両親だろう?そう思わないか、聖川?

50.振り払う

 …残される者の心を考えない、お前の方が酷いじゃないか、神宮寺。
 (…だって、お前のことを考えたら、オレはお前のいない何処にだって行けなくなるよ)

――――――――――
事故にあった神宮寺さんと彼を思う聖川さんの話。
長編かまともなSSで書きたいネタの一つです。

2012.02.23


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