自惚れる
「神宮寺…これは、その、嫉妬からか?」
「………は?」
 聖川の言葉に固まること数秒。その間に思い浮かんだのは彼奴を部屋に引き摺り込むまでの経緯だった。
 あれはそう偶然。偶然に中庭を通りかかった際に、聖川が子羊ちゃんと談笑していただけのことだった。何をしていたわけでもない。特別顔が近いわけでも、何かの拍子に触れ合ったわけでも、俺の知らない笑顔一つ向けられたわけでもない。けれど唐突に聖川の世界から切り取られたかのような不安があって、彼女への羨望があって、独占欲が溢れだした。オレのなのに、という傲慢が胸一杯に。気が付けば二人の間に入って、連れ出して、寮に戻って、部屋で無理矢理キスをした。背中に縋りついた手に酷く安堵を覚えていたら、不意にこの一言。
「…しっと、シット…嫉妬」
「神宮寺?」
「…これが嫉妬、ねぇ」
 言われてみればすんなりと落ちる回答に納得する。子羊ちゃんと一緒だなんてあまりにも日常的な光景だったから嫉妬するなんて思いもよらなかった。言い訳をするならそうだろう。まさか他人は勿論、自分の感情にも敏いはずのこのオレが。ただそれ以上に、本人さえ見落としていた感情に気付く聖川を思うと自然に笑みが漏れた。
「聖川、お前本当にオレのことがよく分かってるんだな」
「なんだ藪から棒に」
「お前に言われるまで自覚なかったんだけどね、オレ、嫉妬してたみたい」
 勢いに任せて掻き抱いてしまった体をゆっくりと離して、少し乱れた髪を手櫛で直してやる。すると怪訝そうな眼差しでこちらを見ながら、聖川は気持ち悪いと吐き捨てて少し俯く。撫でやすくなった頭は無意識だろうか。考えて、どちらでも良いとそのつむじに口付けた。途端、色の白い此奴の耳が赤くなる。
「…っ嫉妬してたという割に穏やかだな、今のお前は」
「まぁね。色々気付いちゃったからかな」
「気付いた?何にだ」
 聖川がまだ赤みの残る顔をあげる。瞳に映る好奇心の色だとか、その問いの返答を告げた時だとかを思うとむず痒くて、もしかした眉が下がっているかもしれない。そんなことを考えながら、隠すことのない甘さを含んだ声音で返した。

「気付いたんだよ。オレがあんな何でもない光景に嫉妬しちゃう程お前のこと大好きだっていうのと、オレの感情が嫉妬って気付いちゃう程オレの愛がお前にちゃんと届いてたってこと」

 たっぷり10秒固まって。瞬間「顔から火が出る」を体現するように赤くなる頬を両手で挟んで笑う。今度はさ、お前も分かりやすくオレのこと思って嫉妬してよ。そう告げると、怒りからか羞恥からかは分からないけれど聖川が泣きそうな顔をするから、オレは堪らずまた愛を囁くのだ。


17.自惚れる

 だって、嫉妬って相手を好きだからするもんなんだから、つまりはさ。
 「嫉妬した?」なんて相手に愛されている自信がないと言えないだろ?

――――――――――
2012.07.08

 「しっと」表記の中にsh*tを混ぜなくて正解でした。神宮寺さんはそんな下品な言葉は使わないよ!といいつつ、英国貴族みたいに直接的な言葉使って話してたら身悶えるのでしょう、私は。


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