あまえんぼ
「ねぇ、逃げないでよ」
 硬い体を後ろから抱き締めて、縋るように、甘えるように口にしてみる。これはオレの狡さだとちゃんと自覚してる。ただでさえ狭いベッドの上で逃げ場なんてないのに。長男気質のお前が頼られるのに弱いって知ってるのに、お願い、なんて告げて耳に口付ける。
「ねぇ、オレから逃げないで?」
「逃げてなどい、ない、だろう」
 ちゅちゅとリップ音を響かせて、切り揃えられた髪から覗く耳を食む。ぴくりと震える体が愛しくて、その震えさえも封じ込めるように抱きしめて。
「ん、馬鹿、が、逃がす気もない癖に」
「ないけど、心までは縛れないからね」
 なんて戯言を交わして、浴衣から覗く生白い首筋に顔を寄せて、鼻をこすりつけて、唇を寄せて、舌を這わす。お前の唇から温い呼気が漏れる音がする。それが腰に響いて気持ちいい。
「オレは心も体も縛られて、ほら、お前なしじゃ生きてけないよ?」
 本能むき出しのそれをすりつけてクスクスと笑う。動けないよう腕で絡め取っているのに、うろたえ震える姿はあまりに。
「だから、ねぇ、逃げないでよ。お願い」
「だから逃げられないと、」
「逃げられると、もっと、もっと酷いことしちゃいたくなるでしょ?」
 反転させた体を胸に抱き直して、膝で股を割って。薄く開いた唇を舌でなぞってもう一度笑う。

―――この茶番に。

「お前は相変わらず、悪趣味だ」
「ああ、でもそれはお前が一番知ってるだろう?」
「残念なことに、な。本当にお前は仕方ない」
「じゃあ、ちゃんと言ってよ」
 俺に分かるように。俺のベッドで寝転んでいた理由(ワケ)を。少し濡れた髪も。首筋から香る石鹸の匂いも。少し緩められた帯も。膝に力を入れて、小さく呻いたお前の顔を見ながらゆっくりと口角を上げて。お前の大好きなこの声で耳元で囁いた。

「ねぇ、逃げないで。言葉にして?」

あまえんぼ

「…事後の腕枕を忘れるなよ」
 そう言って伸ばされた腕に頬を寄せて、オレは嬉しくて笑った。

―――――――――――――
たまに書きたくなるちょっと怪しい雰囲気。
意地っ張りな子と全部分かっていて意地悪しちゃう子が好きです。

2012.06.10


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