(火戦兄弟:甘:微すれ違い)







好きだよ。好きだ。本当に大好きなんだ。

愛され方を知らない俺は愛し方すら幼稚で、譫言のように繰り返される言葉に、きっとアンタは辟易してるんだろう?何時だって、眉間に寄った皺は濃いままで、その瞳に俺を映そうとはしないんだから、ちゃんと気付いてるよ。俺だって。

でもさ、だからって、俺はどうしたらこの気持ちが上手く伝えられるのか、伝わるのかが分かんないんだからどうしようもないんだよ。

アンタに嫌われることを考えると、叔父上みたいに強引なことなんて出来ないし。かといって伯父上みたいに優しく見守るだけで我慢できる性分でもない。父様みたいに嫉妬で確認出来るほど、アンタに好かれてる自信もないから、仕方ないんだよ。俺は俺のままでしか愛せないんだから。こんな、アンタに不快な思いしか抱かせない愛し方しか知らないんだから。

でも大丈夫。分かってくれとか言わないし。それで嫌われたら嫌だから。でももし嫌われたら、タルタロスにだって喜んで飛び込んで、それで、一生暗いアンフォラの中で息を殺して生きるよ。アンタが俺を思い出さないよう、吐息だって凍らして砕くし、匂いだってしないように深い深いとこに落として貰うから。心配することは何一つないんだ。な、イイ考えだろ?

だから、アンタは俺を好きになる必要なんて一つもないんだ。別に俺、答えなんて求めてないから。



「…へぇ」
「ただ俺が勝手に兄貴が好きって言ってるだけなんだから、一々それに返す必要なんてないし」
「確かにそうやなぁ。けどな、一つ質問してええか?」
「うん!いいよ!」
「これ、例えば、相手が応えた場合はどうするん?」
「え?」
「相手がお前んこと好き言うたら、どう返すん?」
「…え?」

突然の問いに見上げれば、手で顔を覆われて兄貴の顔が少しも見えない。変なの。変な事を言い出したのは兄貴なのに、見られないようにするなんて。

まるで借りてきた猫のように、兄貴の膝を枕にして、成されるがままに髪を梳いて貰っていた身としては、いきなり奪われた心地好さの方が大事で。顔を覆うその手をまた髪に戻した。

あ、兄貴の呆れた顔が見える。


「ん?まだお前よく分かってないんと違う?やっぱ阿呆やな」
「阿呆でいいんだよ。阿呆のままだから兄貴といれるんだし」

ぐりぐりと兄貴のお腹に頭を擦り付けながら、にししと笑う。

「それにさ、俺、兄貴に好きとか言われたら死んじゃうよ?しかも腹上死。相手は兄貴でお願いな」

もう一度見上げたら、まるで父様の浮気現場の最中を見た時みたいに、心底理解出来ないと顔に書いてある。ちょっと傷付くけどさ、仕方ないだろ。愛してるんだから愛したいのに。

「理解できへんわ、阿呆」
「気持ちいーまま死ねるって幸せだと思うんだけどなぁ。しかも繋がってるとかロマンチックなのに。残念」

感覚がズレてるとか何だとか、兄貴の発言を無視しながら起き上がり、膝を跨いだ。すると兄貴は呆れたように何も言わずに、読んでいた書類を横に置く。これだけで俺が今からすることが分かってるんだから凄いよなぁ。嬉しさにニヤけても仕方ないと思うくらい凄いし、だからこそ兄貴で良かったと何時だって思ってる。

「好きだよ。好き。大好きなんだ。兄貴、大好き」

首筋に頭を擦り付けると、くすぐったそうに兄貴が身をよじるから、嬉しくてそれを繰り返す。

好きだよ。好き。大好きなんだ。

兄貴の手が頭を撫でる度に、気持ち良さから手放しそうになる意識を引き止めながら思う。

大好きだから、だからさ、もし兄貴が応えてくれたらさ、俺、やっぱ、うん、一つになって死にたいや。


百合のように白い、


(想いだったら綺麗だったのに)

END


2010/12/29(日記より再録)