「あ、主!遅くなってしまい申し訳ございません!」

「おはよう、タナトス。まずは落ち着け。走って来たんだろう?」

「も、申し訳ございません。…はーっ…、おはようございます、主」

「ああ、おはよう、タナトス。珍しいな、お前が寝坊するなんて。さてはヒュプノスがお前のベッドに潜り込んだのか?」

「何故それを」

「お前がぐっすり寝るなんてそんな時くらいだろう。まぁ、ヒュプノスの機嫌良さで分かったんだがな」

「…どうも子供にかかりきりの妻に寂しさを感じて、潜り込んで来たようです」

「相変わらず仲が良い」

「主とご兄弟に比べれば、それ程では」

「…冗談にしては笑えないぞ?」

「冗談ではなかったのですが、そうですか。いや、失言致しました」

「そんなに恐縮するな。なんだか虐めているみたいじゃないか。…と、話が逸れた。それでヒュプノスと何が理由だ?ヒュプノスだけなら起きれるだろう?」

「…アラームが壊れてました」

「ほう」

「正直、両親からのプレゼントなので壊れることはないと思うのですが、鳴らず、遅れてしまいました。…私が遅刻することが冥府にどれだけ迷惑をかけるかは重々承知しております。何より今も主に時間を取らせています。ですから、」

「そんなに恐縮するなと言っただろう、タナトス。あらかた、昨晩はカロンがお前の部屋にでも押しかけて時計を弄ったんだろう」

「何故、」

「彼奴の考えそうなことだ。お前が遅刻すれば自身の仕事も遅くなる。寝坊が出来る、だろ?」

「…つまり?」

「つまり、カロンはまだ此処に来てない、ということだ。…ああ、お前は理解が早くて助かるな」

「主の推理力には遠く及びません」

「褒めてくれるのか?ありがとう。まぁ、状況証拠はヒュプノスから聞いたんだが」

「それでも素晴らしいです。私も主を見習い精進します、ことカロンに関しては。…では主、私に命を」

「…理解が早いお前なら、もっと適切な質問があるんじゃないか?」

「…何処を、狙えば宜しいでしょうか?」

「その短刀は腕、ピックは足と股下には剣がいいな。ついでに首には鎌をかけてくれると助かる」

「御心のままに」




戯れに




「…ところで主、何故御戯れを?事の次第を推測出来たのなら、命だけで十分だったのでは」

「何、簡単なことだ。私がお前と話したかっただけだ、タナトス。相変わらずお前は固いからな」

「…!ありがとうございます!」

「いや、こちらこそありがとうタナトス。後はカロンの悲鳴が冥府に響くことを楽しみに待つことにするよ」

「御意」


2010/11/23