「あー…っと、よう、タナトス」

「ああ、カロンですか。おはようございます」

「ん、おはよう。ところでアレ、どうしたワケだ?朝っぱらから真っ白な灰と化してる主なんて中々見ないが…。何かあったのか?」

「カロン…主をアレ呼ばわりしないで下さい。全く貴方は。まぁ…そうですね、簡単に言えば、朝一に届いた奥方からの手紙に『大嫌い』って書いてあったんですよ。それであんな状態になってるんです」

腕を組みながら口にする。
カロンは心底楽しそうにニヤリと笑った。

「で、今日が何の日か気付いてないと」

「ええ、そうみたいなんです。俺が教えようと思ったんですが、奥方絡みになると理解力が鈍るんで、多分、信じて貰えないと」

「ペルちゃん絡むと弱気だからな、主は。いや、そこが面白いんだけどさ。そうだ。ついでに、俺は止どめの嘘でも吐いてこようか?」

「は…?馬鹿ですか?止めて下さいよ」

殺しますよ?と刀身を首に押し当てれば、ピタリとカロンは固まる。
その前に奥方をそんな気安く呼ぶなと口にする。

「主ー?奥方から頂いた便箋の裏、何か書いてあるようですよ」

「…あ」「…え」

突然現れた影が言葉を口にしたと思えば、主の様子がみるみる変わっていく。

「真っ白な主から花を飛ばす主に変わった、な。」

「はい。確かに今の主は春真っ只中ですね…ヒュプノス、一体何をしたんです?」

「んー?奥方の事だから嘘でも主に『嫌い』なんて言い切れないでしょ?だから、書いてても同じだろうなぁと思って。早く嘘だって気付いて欲しいはずだから、何処かにネタばらしがあると思ったんだよ。そしたら便箋の後ろに黒くなってるところがあるからビンゴだったわけ」

くすりと笑ってヒュプノスは言う。

「本当は俺が悪戯する予定だったんだけどねー残念。今日悪戯しても奥方ネタは効かないし、奥方の性に出来ないからね。怒られるの嫌だし。主、怒ると恐いし手加減してくれないんだもん」

お手上げのポーズのまま、ねぇと賛同を求めてくる。
悪戯しなければいいと思うんだが。心の中で呟いた。

「んじゃ俺も今日の悪戯は止めとくか。にしても…相変わらず可愛い恋愛してるよ、アンタら。てゆーかいい年した男がよ、全く」

カチャリ、刀身が煌めく。
仏の顔も三度までとは言うが、死神が三度目を許してやる必要は無いよな。言い聞かせるように掌に力を込めた。

「カロン、俺、注意しましたよね?呼び方には気をつけろって。なのに主と奥方をアンタら呼ばわりして主に暴言紛いを吐くってことは、言って聞かせても分からないと。そう認識して宜しいんですよね?」

もう一度カチャリと刀身を鳴らす。
ヒュプノスが馬鹿だなぁと呟くのと、カロンの額から汗が流れ落ちるのは同時だった。



みんなだれかの
地雷源

(カロン、タナトスに手間かけさせたら駄目だよ。俺の仕事が増えるから)

(…は?)

(なんて言うか、永遠に眠るか催眠術にかけられるかって感じ?どっちがいい?)

(…はぁああああああ!?)