「俺さ、兄貴のこと嫌いだよ。だから嫌いなところだったらいくらでも挙げられるんだ」

にこり、笑ってアレスは言う。

「例えば素直じゃないところとかさ。俺は兄貴をよく見てるわけじゃないから分からないこともあるけど、でも、大分捻くれてるよな。悪意に対しても好意に対しても敏感過ぎて、全然素直じゃないし可愛くないと思う」

「あと名前、あんまり読んでくれないよな。俺の名前は阿呆じゃなくてアレスなのに。分かってないみたいだし。まぁ、たまにさ傷付いたりもするよ?俺にはちゃんとした名前があるのにーって」

「あ、とは…うん。まぁ何より俺にだけ冷たい態度取るとことかも、嫌だなぁ。あんま笑ってくれないし、酷いことばっか言うし、…とまぁ他にもあるわけだけど」

サッと足を組み直す。

「なぁ、兄貴?俺、兄貴が大嫌いだよ」

にこり、アレスが笑う。
そうかよ。吐き捨てようと思った台詞は、掴まれた腕の痛みに飲まれた。

「だからさ、気付いてよ。じゃないと苦しいんだ。そんな顔させたいわけじゃないし。まさかこんなに鈍いとは思わなかったから、ホント。困っちゃうんだけど、やっぱり勝てないなぁ」

「なぁ、なぁ兄貴、今日はエイプリルフールなんだよ?だから俺は兄貴が大嫌いなんだ」

困ったように眉根を寄せて、アレスは言う。

「だからそんな顔しないでよ」

「な、おま、そんな顔って…っ!」

「泣きそうな顔」

ふわり、頬に触れた手を叩(はた)く。なのにアレスはにこりと笑う。

「…っ、嫌いや、お前なんか大っ嫌いや!」

「うん、俺も大嫌い」

大嫌い大嫌いだぁーいきらい。
アレスの目に俺が映る。赤い赤い瞳の中、赤い赤い顔をした俺が。
なんて、悔しい結末。

「…!阿呆がっ…!!」

吐き捨てた言葉はアレスの耳には届かない。



だってそれさえも
愛の言葉