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人生をやり直せたならどんなによかっただろうか。記憶を持ったままでもう一度この場所に立てたらどんなによかっただろうか。それを、どんなに望んだだろうか。

ルークはときたまそんなことを考える。そう思うということはそれなりに後悔していると言うことだ。後悔することがルークたちの行動のために失われた命を侮辱する好意だということはわかっているが、それでもルークはそう思わずにはいられなかった。

自分は正しかったのか?自分は間違ってなかったのか?最近では気が付けばぼんやりと思考していることが多くなった。いくら考えても答えは出ない。それどころか、答えが出なくても前に進まなければならない。待ってくれと叫んでも誰も何も、待ってなどくれないのだ。自分の行動が正しいのかを考え、間違いでないことを確認する。だが、それももう終わりだ。

必ず帰ってくる。
ルークは自分が約束を守れないということを直感的に感じ取っていた。それでも信じたかったのは紛れもなくルーク自身の思いだ。
ルークはアッシュの中に還る。

「……やっとおまえに…居場所を返せる」

既に息のない腕の中のアッシュを見る。今更返されても迷惑なだけだと怒鳴られそうだが、ずっと返したかった。アッシュの居場所を奪ってしまったのは不可抗力だとしても、返せるなら返したかった。ルークは、それが今までルークとして生きてきたことを否定することだと知っていた。それでもいいと思ったのは自分の居場所が変わっても、自分とみんなの関係は変わらないと知っていたからだ。

ルークは消える。
アッシュの中に、記憶だけを残して。

ジェイドが確立した理論だ。それは間違いないだろう。


《世界は消えなかったのか》


淡い暖かな橙色が集まる。第七音素のみで形成された、幻みたいなその男が、ルークとアッシュを惹き会わせた。ルークと、ルークの中に生きる全ての人間と惹き会わせた。実際にルークを作ったのはヴァンだったが、それも目の前の第七音素の意識集合体がいなければありえなかった話だ。

《私の見た未来が、僅かでも覆されるとは……驚嘆に値する》

ローレライはそれだけを呟いて、ルークとアッシュを包み込んだ。崩れ行くエルドラントの中でルークたちを乗せた譜陣だけが上昇していく。

ルークは仲間とのこの旅で生きることの辛さを知った。血に塗れたこの手は幸せを掴むことすら拒んだ。たくさんの命を奪ったルークは、生きることの辛さを知った。それと同時に、生きることへの喜びを見出した。

「……死にたくない」

この命で誰かが助かるのなら、喜んで差し出そう。
その思いは確かに本物だった。それがルークの覚悟だった。それなのに、それなのに死にたくないと思ったのはきっと彼らがいたからだろう。どれだけ罵られようとルークは生きていたかった。

「……たい……」

折角死にたくないと本気で思えるようになったのに。思えるようになってから、まだ一年と経っていないというのに。心の底から生きていたいと思った瞬間、消えるのか。

ルークは普通の生活がしたかった。
普通に起きて普通に食事をして普通に遊んで普通に寝て。普通に物事を考えて普通に知識を得て、普通に誰かと笑いあいたかった。生きたいと願えば願うほど、その思いは比例して大きくなっていく。


「…まだ生きていたいッ……!!」


他の誰でもなく、自分の為に。

《…ルーク……我が声に……》

それを聞くのは、もう何度目だろうか。
舞い上がった橙色からは優しい音が零れ落ちた。


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テーマ「人外ファンタジー」
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