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いつもいつも疑問に思っていた。
今日が嫌で明日を望むのに、明日が来ればまた今日が始まって、また今日が嫌になる。どうして人は明日を望むのに、どうして明日を生きられないのだろうか。今を生きている俺は昨日の俺が望んだ俺で、今日の俺が望んだ俺は明日の俺。
矛盾と言うよりは理想との平行線。決して交わってくれない、現実。

「青いお侍さん」
「Ah?どうした、いつき」
「それはこっちの台詞だべ。どうしただ?ぼーっとして」
「…なんでもねえよ、ちょっと思考が飛んでただけだ」

そう、ちょっと。
子供の頃に抱いた、どうしようもなくくだらない疑問。
"明日"を望むのに今日を抜け出せば明日しか来なくて、今日と明日は交わるのに、今日と"明日"は交わってくれない。
きっと幼い俺が望んだのは名前だけの"明日"。
"今日"という名前の日ではなく"明日"という名前の日を生きたかったんだ。
我ながら変な望みである。

「ほんとに、なんでもねえよ」

心配そうに顔を覗きこんでくる少女をくしゃくしゃと撫で回す。
髪の毛が乱れたと怒りながらもはにかむような笑顔を見せるこの子が、俺は愛しい。
この子は、俺の無償の愛を受け取ってくれる。
ただそれが嬉しくて、愛しいのだ。

「それより、今日は何すんだ?」

月に一度だけ、城を抜け出していつきのところに遊びにくる。
すでに城の中でも知られていることだから、誰も特に何も言わない。
暗黙の了解とでもいうのか、この日だけは小十郎すら黙って見送ってくれる。
迎えには来られるけど。

「んとな、雪だるまをつくっぺ!」
「Ok.snowmanだな」

雪だるまなんてもうずいぶん作っていない。
というか最初にして最後に雪だるまを作ったのははるか昔のことだ。
そのときは両手に収まりきるほど小さかったから、今日はうんと大きな雪だるまを作ろう。
いつきよりも大きいのを。

「おし、じゃあ雪集めろ」
「らじゃー!」

いつきは俺の教えた英語で返事をして小さな手で雪をかき集める。
黄色いミトンに包まれた手はとても小さくて、とても綺麗だ。
いつきは農民だからその手で米を作っている。
毎日毎日、くたくたになるくらい。だからこそとてもきれいなのだろう。
人殺しの俺の手とはまるで違う、命を作る手だ。

それにしてもこんな一面雪景色のこの奥州でいつも袖なし半パンで寒くはないのだろうか。
これから大人になっていくのに女の子がお腹を冷やすのはだめだろ。
……今度、着物でも仕立ててもらうか。

白い息を吐き出してはしゃぐいつきに頬が緩む。
俺も雪を集めるかと座り込んだ。



「でけただ!」
「wonderful!いいじゃねえか」

二人ではしゃぎまくる。十九といくらかの男が十そこらの女の子と同じくらいはしゃいでるってのはいかなものか。
まあいつきは楽しそうだからいいか。
あーだこーだと言い合いながら作った雪だるまはみっつ。
大きなのが二つと小さいのが一つ。当然ながら俺と小十郎といつきだ。
いつきが描いた大層コミカルな顔は、結構特徴をつかんでいて面白かった。
これなら小十郎の眉間によった皺も減るはずだろう。

「お侍さん、いつもありがとな」
「Ah?なんだ、急に」
「……何もねーだ」

言ってから照れたのかいつきはそっぽを向いてしまった。
それがおかしくて少し笑いながら頭を撫でてやる。
こちらこそありがとう、なんて言えるほどの純粋さはすでに俺にはない。
無償の愛だなんていってるが、結局そうやっていつきの言葉で喜んでしまう俺は無償の愛なんで持ち合わせていないのだろう。

赤くなった小さな肩を見て、着物は何色にしようかと考える。
きっといつきには青が似合うだろう。
伊達の、青空みたいな一点の曇りもない青が。

「Thank you for making you love.」

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