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2ndアレルヤ中盤以降



鮮やかなオレンジで彩色された自らの機体の整備をイアンに頼み、任務を終えたアレルヤは格納庫から出る。廊下を道なりに行き、まずは部屋でシャワーと着替えを済ませようと歩を進める。スメラギへの報告はシャワーの後でも問題ないだろう。アレルヤはあまりシャワーに時間をかけるタイプではなかったからだ。既に汗は引いたと思っていたが、それでもまだ張り付くパイロットスーツは脱ぎ難いものだった。
任務の報告を終え、ブリーフィングルームから自室に向かう途中、このトレミー内では珍しく開け放たれていた扉から、鮮烈な濃紫が見えた。優美で雅やかなその色彩は彼によく馴染み、神秘的な雰囲気を醸し出している。決して驕りでない自信や真意の読めない鮮血も相まって、もう何年も共に過ごしているからといっても、ティエリア・アーデはどこまでいってもアレルヤにとっては未知の存在だった。

「ティエリア」
「アレルヤか。おかえり」
「ただいま」

広大な宇宙をはるかに望むことができる一室に入り、ティエリアの隣に並ぶ。アレルヤに向けて微かに笑ったティエリアに一抹の不安を覚える。彼の瞳が、酷く遠くを見つめていた。

ティエリアは誰よりもイオリア・シュヘンベルグの計画の成就を願い、尽力している。ソレスタル・ビーイングの要である量子演算型システム・ヴェーダへのアクセス権を持つティエリアはひどく矛盾を孕んだ存在だ。かつての彼はどこまでも計画に忠実だからこそ冷徹で、それでいながらどこまでも優しかった。矛盾を孕んだ彼はそれでも壊れないほど強くあるのか。
ティエリアはアレルヤたち第四世代のマイスターの中では一番の古株だ。刹那がマイスターに選任されたときにはまだ子供ではないかとアレルヤは思ったが、今思えばティエリアも十分子供で通る年齢に見える。そんな彼が、ヴェーダの意志だからと戦いに身を投じていた彼が、最近では自らの意志で戦うことを選びとろうとしていた。それは喜ばしくも、悲しいことだとアレルヤは思う。
彼にはきっと、戦う理由がない。
イノベイターである彼が戦うのは、自分を生み出したイオリア・シュヘンベルグの計画を成就させるため。生み出されたときは彼自身が平和を願い戦っていたわけではない。今でこそ心から平和を願っているティエリアだが、戦わない道だって選ぼうと思えば選べたはずだ。そのことを思うとアレルヤはどうしようもない無力感を感じる。言ってしまえば一人の人間の都合で生み出された彼が世界のために戦っている。他の、本来戦うべき存在である大勢の人間の代わりに。戦うだけが全てではないが、戦わなければ何も変わらない。その戦いを穢れのないティエリアに負わせようとする世界の悪意が見えるようだった。

「僕はあなたたちが幸せに暮らせるならそれでいい」

不意に横目でアレルヤを見たその瞳には優しさが滲んでいた。アレルヤは彼の言葉を内心で復唱して、それからたっぷり数十秒呆けて見せる。それをティエリアがくすくすと笑って、正面の暗闇を見つめる。

「僕は、とても自分勝手だ。だからあなたたちが幸せであるためなら何だってする」
「……あんまり無茶はしないでね」
「善処はしよう」

アレルヤの気持ちを読み取ったかのようにティエリアは話す。脳量子波がそうさせるのか、ティエリアにはアレルヤの思考が手に取るようにわかったようだった。承諾というよりはあまり聞く気がない返事に苦笑が漏れる。きつく言い聞かせなくてはならない場面だというのに、許してしまうのは空っぽだった彼がようやく自分で歩き始めたからか。言い知れない不安が消え始めて、ようやくアレルヤは不恰好に微笑んだ。


やっと君が

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