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今日は何だかそんな気分だったから、学校に来ていた。
といっても門をくぐって校内に入ってしまえば授業を受ける気なんて消え失せてしまったのだけど。
6月に入り、転校してきてから中々この学校にも慣れてきたと思う。
テニス部の人たちとも結構打ち解けられたと思っている。
大阪の6月はそれなりに暑いが、今日は適度に太陽が雲に隠れているせいか、眠気を誘われる。
だから秘かにお気に入りの裏山で居眠りをしてみる。
ここは案外誰にも見つからなかったりする。
一人を除いて。

「――起きや!千歳!」

ほら、来た。
迎えが来たことからどうやら私は登校時刻の8時半からぶっ通しで4時間寝続けていたらしい。
聞こえた声に閉じていた目を開ける。
目の前にはどこか呆れた白石。

「……おはよう、白石」

「はい、おはよう。……やなくてな、学校来たんは偉いけど授業も出ぇや?」

起き抜けのまだ回らない頭で思考して挨拶すれば、白石が嘆息する。
挨拶は大切だと思うのだけれど。
目の前でしゃがんで私の顔を覗き込む無駄にイケメンな白石が無駄に格好いい。

実を言うと私は白石に恋をしていたりする。
ちなみに私は心は女の子だけど、肉体はバッチリ男である。
誤解の無いように言っておくが、私はちゃんと元女だ。
なぜ元女なのかと言われれば説明が難しいのだけれど、とりあえず私は一度死んで生まれ変わったのだ。
女から男に。
授業をサボってしまうのもそこそこ頭のいい大学に通っていた私からすると中学の授業が小学生のお勉強に思えてきたからだ。
と言ってもサボり癖がついてしまって、今では何時間も椅子に座っているのが堪えられないだけだ。
男の身体に慣れたことは慣れたけれど、未だ違和感が付きまとっている。
あと背がものすごく高い。元女としては好きな人よりは小さくいたいのだけれど。
これらを総合してぶっちゃけるとなんの冗談だと笑い飛ばしてしまいたかったが、どうにもこうにもただの現実だった。

「どないしたん、千歳?」

「……ん、何でもなかと」

ぼーっと白石の顔を見つめながら思考していると、白石がやや眉を下げて私を伺い見る。

最初はただ綺麗なテニスに目を奪われただけだった。
完璧な基本中の基本の動作しかしないくせにどんな人も白石には敵わなかった。
私はきっと洗練されたプレイに惹かれたのだと思う。
次に日常生活を共にしてみて、滲み出る優しさに心を奪われた。
優しさだけでなく、面白いところやしっかりしたところ、全部が気になった。
たまに残念なくらいイケメンが駄目になる行動をとったりもするが、そんな残念さすら愛しく思える。
本気で末期だ。

「ほら、行くで」

「……授業出たくなか。内容は全部わかっとうばい」

「アホか、出ることに意味があるんやで!」

ぼそりと呟くと白石が嘆息してやや強めに私を諭し始める。
わかってはいるがどうしても気が乗らないというかどうしようもないと思うのだけどどうだろうか。
私はしゅんと眉を八にして憂鬱気に息を吐き出す。

「……そぎゃんおこらんでもよかろもん」

白石はそんな私を見て困ったというように包帯の巻かれた左手を顎に持っていき考え始める。
そんな姿もかっこいいと思う私はどこまでいっても乙女だ。
中身が乙女なモジャ男なんて気持ち悪すぎるだろう。
おまけに背もでかすぎる。なんてこったい。
白石はいい案が浮かばなかったのかもう一度嘆息して口を開いた。

「はあ、……放課後迎えに行くさかい、ちゃんと残り二時間受けや?」

白石が迎えに来てくれるなら、頑張って座っていようかな。
果てしなく面倒なことでも白石のためなら頑張れる気がした。
それでもちょっときついかも。
そんなことを考えつつも私の頭は即座に判断を下したようで、口からは了承の返事が出ていた。

「……わかった」

私が答えると白石は満足そうに笑って私の手を引き、教室へと連行する。
白石に触れられた手とにやけるのを必死に抑えようとする頬がやけに熱かった。




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