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※突然終わる


悪魔の子と罵られ石を投げられる。大人はそれを止めず、むしろ関わってはいけないとでも言うように目を背ける。それから神父に手当てをしてもらう。毎日これを繰り返していたが、最近は少し違っていた。

「あ、また隠してる!」

可愛らしい声が聞こえたと思ったら、目深に被った帽子が取り払われる。小さな女の子は俺から奪った帽子を自分の金糸の上に乗せた。

「返してよ、エミリー」
「ダメ、私がウォルターを見つけられなくなっちゃう」
「……だから、なんだけどな」

困ったような顔をすれば綺麗な金髪を持つ彼女は少し怒ったような顔をする。彼女は俺が困っている姿を見ておかしそうにくすくす笑う。とても、綺麗な笑顔だ。

「そんなに綺麗なんだから、隠したらもったいないよ!」

彼女の頭の上の帽子を取ろうと伸ばした手を取って、エミリーは俺の前を歩き出す。少し開けた場所は芝生で覆われていた。そこに二人で寝転がって、綺麗な赤い夕日を見る彼女は屈託なく笑う。嬉しいのに、俺はいつも鼻の奥がツンとしてうまく笑えなかった。



「綺麗だね、真っ赤な真っ赤な、ウォルターの色」













ドンドンと、ノックというには荒っぽい音がして、意識が浮上する。うっすらと目を開けるとそこには見慣れた天井が見えた。そのままぼうっとしているとドアの向こうから周りを気にしないような大声が耳へ飛び込んだ。

「いつまで寝てるんですかー!」

この組織は人使いが荒い。連日任務に明け暮れるなんていつものことで、その合間に久しぶりに帰ったというのにゆっくり寝させてもくれない。いくら身体が若いからといってもこうもずっと任務続きだとあちこちガタが来るというものだ。……それはそうと、いいかげん起きたことをアピールしなければ。上体を起こし、そろりとベッドから足を抜いて床に下ろす。まだ鳴り止まないノックの音に苦笑して、彼女に負けないくらいの声をあげた。

「もうちょーっと静かにできないかなー、モニカ秘書官」
「そんな場合じゃないんですよ!仕事です、すぐに支度してください」
「はあ……へいへーい」

ドア越しに返事をすれば音は止んだ。このままぼんやりしていたら、すぐにでも第二派が来るだろう。うるさいのは勘弁だし、上司に無言の圧力をかけられるのも好きじゃない。何より執行人には拒否権は存在しないのだから従う他ないのだろう。覚悟していたとはいえ、あまりにもあんまりだ。
組織の横暴さに内心で愚痴をこぼしながらさっさと支度を済ませる。この様子だとシャワーを浴びる暇はなさそうだ。溜息を吐いて部屋着を脱ぎ黒のシャツを着る。パンツは白の七分丈のものを。黒と白は大抵どんな色にもよく似合う。もちろん、血のような赤にもだ。
それから忘れないようにテーブルに置いてあったクロスのピアスを右耳に通してドアを開けた。

「おまたせしましたっと」
「……おはようございます、ウォルターさん。さっそくですけど、カルロ裁判官がお呼びです」

モニカ秘書官はそう言いながら早足で歩きはじめた。執行人たちの部屋の前を通り過ぎ階段を下りてしばらくするとカルロの執務室が見える。ノックして中へ入ったモニカ秘書官に続けばくたびれたYシャツを着たカルロが俺たちを出迎えた。

「昨日は良く眠れたかい?ウォルター」
「あー、まあそれなりに」
「そうか。それはよかった」
「カルロ裁判官、あまり話している時間はありませんよ」
「ああ、そうだったね」

短い挨拶の後、モニカ秘書官に促されてカルロは嘆息した。穏やかだったものから一転して、カルロの目が細められ、表情に真剣さが帯びる。

「最近スキャッグスが各所に横行し始めたのは知っているね?」
「……ああ」
「それについて、"白いマフィア"と呼ばれる武器商人の話が浮上してね。噂では彼がスキャッグスをマフィアに売りまわっているらしい」
「つまり、その"白いマフィア"とかいう奴を調べて来いって?」
「気が早いな。……だが、正解だ」

盛大に舌打ちをする。あの忌まわしいスキャッグスがまた世の中に蔓延し始めたのだ。これに怒りを覚えないでどうする。またスキャッグスに関わるなんて思っても見なかった。スキャッグスは15年前に滅びたとばかり思っていたから。いや、わかってはいた。あの惨劇でスキャッグス一家が完全に滅びたのだったら、アンディのような犠牲者も生まれなかったはずだから。沈黙が部屋を支配すると、しばらくしてカルロの控えめな笑い声が響きはじめる。

「極度のスキャッグス嫌いは相変わらずだね」
「…………」
「……ふぅ、茶化して悪かったよ。お願いだからそんなに睨まないでくれ」

睨みつければ、カルロは肩を竦めてみせる。
不幸な人間は世界に五万といる。カルロはそれを良くわかっていた。だから俺が勘違いしないように、わざとそういう態度をとる。そうでないと、身動きがとれなくなるから。我ながら面倒くさい思考回路をしているなと眉間にしわを寄せるとカルロが笑い出した。

「ほら、怖い顔をやめてくれ。モニカが泣いてしまうだろう」
「泣きませんよ!」
「どうどう。落ち着けモニカ」
「あなたのせいです!」

……なんだかカルロとモニカ秘書官を見ていたらバカらしくなってきた。どうでもよくなって深く息を吐く。ガシガシと頭を掻いて口を開いた。

「それで、俺はどこに行けばいいわけ?」
「ああ、そうだったな」
「忘れてたんですか……」
「少し黙ろうか、モニカ」
「……これが上司で本当にいいのか」
「聞こえているよ、ウォルター。と、それはまあ置いておこうじゃないか。本題に戻るとして、君にはボルタ地区へ行ってもらいたい」





すごく中途半端だけどここから5巻に突入、何とかエミリーの強制執行フラグをへし折る。

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