花宮成り代わりin誠凛 | ナノ


伊月がうまく動けない火神からボールをスティールし、日向に回せばボールは綺麗な放物線を描いてゴールに吸い込まれる。ボールを持っていないときにも火神には最低二人でディフェンス。
誠凛はオフェンスに特化したチームで、ディフェンスはあまり強くない。けれど一年、それも初心者を交えてのチームなら火神を抑えてしまえばどうとでもなる。トリプルチームのせいで思うように動かせてもらえない火神がこめかみに青筋を立てているのが愉快で仕方ない。

「花宮くん……ほんっと性格悪いわね」
「ふはっ!んなのわかりきってることだろ」
「それでもそのにやにやした顔はどうにかならないの?ったく、これだから残念なイケメンは……」
「やめろダジャレと同格はさすがに遠慮する」

伊月と同格扱いは嫌だ。前世の女友達がマシンガントークでオレに吹き込んだ話だと残念なイケメンと呼ばれるのは主に伊月やその他約二名だったはずだ。そしてその中に花宮の名前はなかった。つまりオレは残念なイケメンではないはずだ。どうかそうであってほしい。……といっても、この顔もオレのじゃなくて花宮のなんだけど。
相田の思わぬ発言にげんなりし、少しばかり現実を思い出していると、見る見るうちに開いていく点差に一年チームから諦めの雰囲気が出始めた。もういいというチームメイトの胸倉を火神が掴む。

「もういいって…なんだそれオイ!!」

一触即発。現状はまさにそれで、少しでも刺激すればたちまち火神は爆発するだろう。それだけ真剣なのかと思うと、涙が出るくらいの真面目なのかはたまた超弩級の馬鹿なのか考えて呆れてきた。大きな力には逆らわないのが得策だ。どうしたって勝てっこないのだから。
他の一年が正しいと思うから、火神を見ていると目を瞑りたくなる。おまえはあいつらを目の前にしても、同じことが言えるのかと。
隣で相田が止めに入るか決めかねていると、不意に火神が膝から崩れた。

「落ち着いてください」

静かに声を発して火神に膝カックンを食らわせた黒子。流れるような鮮やかなお手並み、しかと拝見いたしました。
もめる一年ズを遠巻きに見つめる。ここから、だ。オレは視線は外さないまま同じように一年の方を眺めている日向たちに言う。

「油断すんなよ。……ここからだ」

一瞬呆けた日向がおうと頷き、他の奴らもそれぞれに気合を入れなおす。こういうところが、誠凛のいいところだと思う。
少しのハプニングで中断していた試合が動き出す。黒子がパスをもらい始めた。そしてそのパスは全て黒子を中継して全く予測もつかないところへと繋がる。まさに、魔法のパス。

「気がつくとパスが通ってる…!?存在感の薄さを利用してパスの中継役になってるの…!?……元帝光中のパス回しに特化した見えない選手……。噂は知ってたけど実在するなんて……!『キセキの世代』幻の6人目!!」

二年もなんとか食らいつこうとするが、黒子の位置がつかめないだけに点差は縮まる一方だ。黒子の存在に気を取られていたためにマークがおろそかになっていた火神にパスが届く。すでに点差はないに等しくなっていた。二人が組むと途端に手がつけられなくなる。オレは黒子と対峙したことはないが、キセキとは戦ったことがある。キセキだけでも酷い試合だったのに、コイツがいたら、オレたちはボールに触れることすらできていなかったんじゃないかと思ったらもう笑うしかない。
残り数秒で黒子がスティール。ガラ空きのゴール下へと走り、レイアップを外した。……こんな奴に試合引っ掻き回されるのはごめんだ。思わず溜息をついて走り出していた火神を見る。

「……だから弱ぇ奴はムカツクんだよ!ちゃんと決めろタコ!!!」

一点差で、リングにあたり跳ね返ったボールを火神がダンクで押し込んだ。一年チームの勝利だ。





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