花宮成り代わりin誠凛 | ナノ


放課後の体育館にバスケ部の入部希望者が集まる。相田を見てひそひそと内緒話をする一年を見ているといっそ哀れに思えてくる。おまえたちはまだ相田の見かけだけしか知らないからそんなことが言えるんだ。あと色気ないとか言ったらシバかれるぞ。マネージャー可愛いという発言をした二人に日向が後ろからどついた。軽めに見える割りに音がすごかったのはどういうことなのか。

「男子バスケ部カントク、相田リコです。よろしく!!」

並んだ一年の前に躍り出て相田が高らかに宣言する。確かに自分たちと同じ年頃の女子高生が監督をしているバスケ部は珍しいだろう。というかオレもこの部しか知らない。相田が顧問の武田先生を「見ているだけ」と紹介して、オレを指差した。

「そして、彼、花宮君も監督を兼任してるわ。私が総監督、花宮君が補佐のような感じかしら」
「って言っても能力は似たようなもんだよな、実際」
「オレのことはいいから、一年見なくていいの?」
「そうね……まあ部員は後で紹介しましょう」

一年の好奇の目に晒されて居心地が悪くなる。どうしてオレに話題を持っていったんだ。伊月も伊月で肯定するな。相田はなんとか意識を一年に戻してくれたようで一度並んだ一年を見渡してから叫んだ。

「じゃあまずは……シャツを脱げ!!」
「えええ〜〜!!?」

有無を言わさずシャツを剥ぎ取っていく相田が恐ろしい目をしていた。心の中で一年に合掌する。おそらく他の部員たちも同じことをしているだろうな、と思ったり。この状況で手を合わさない奴がいるとしたら木吉くらいか。
そんなことをしている間に相田はうろたえる一年たちを端から順に視ていった。

「キミ、ちょっと瞬発力弱いね。反復横とび50回/20secぐらいでしょ?バスケやるならもうチョイほしいな」

といった具合に次々と身体能力、特徴を挙げていく相田に一年の困惑が強まる。というか本気で混乱している。相田の父親はスポーツトレーナーで、データをとってトレーニングメニューを作る父親の隣で毎日肉体とデータを見続けている内についた特技だ。相田の目には身体能力が全て数値で見えている。……という話をそっくりそのまま日向が一年に説明していた。
相田のこの能力はうちの部ではとても重宝されている。もちろん、彼女が監督になっているのはこの能力だけでなく、頭脳や作戦の立て方など、その他の要素も十分にあるわけだが。火神の身体を見てだらしなく涎を垂らしていたとしても、監督としての能力は十二分にある。はずだ。それにしても、さすがに火神は他とは比べ物にならないくらいの体つきをしているな。相田が涎を垂らして見惚れるのも頷け……はしないな。

「カントク!いつまでボーッとしてんだよ!」
「!ごめんっっ!で、えっと……」
「全員視たっしょ。火神でラスト」
「あっそう?……れ?」

あとは、黒子か。「黒子はボクです」と急に相田の目の前に現れた黒子を認識する。オレも今の今まで忘れていた。さすがはジャンプ至上最も影の薄い主人公といったところか。
できれば、キセキの世代は黒子と火神無しで勝ちたかった。無理ということは十分わかっているが、それでも考えずにはいられない。すでにあの敗北から二年近く経つ。木吉にも散々言われてきたのだから既に吹っ切れていたと思っていたが、オレはまだ存外引きずっているらしい。

「花宮ー?」
「……」
「……ふはっ」
「もー!笑うことないじゃんかよー!」
「…………」
「悪かったって、怒るなよ」
「……花宮もずいぶん水戸部の言いたいことがわかるようになってきたね」
「おまえには負けるがな」

小金井の声に思考を打ち切る。小金井は不思議そうに、水戸部は心配そうにオレの顔をうかがっていて思わず笑ってしまった。木吉といると気苦労が絶えないが、この二人といるのは余計なことを考えずにすんで楽だ。
いつの間にか相田は黒子の身体を視終わっていた。黒子が帝光中学校で試合に出ていたとかいろんなことがわかって周りは終始呆然としている。驚く顔はなかなか見物だった。いそいそとシャツを着る黒子を見ながら、オレは漠然と「始まる」ことを確信した。



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