花宮成り代わりin誠凛 | ナノ


「ラグビー興味ない!?」
「将棋とかやったことある?」
「日本人なら野球でしょ!」
「水泳!!チョーキモチイイ!」

ごった返す人ごみを眺めながらテーブルに肘をつく。あちこちから聞こえる勧誘の声は大きくて思わずご苦労様と言いたくなる。ついでに言うと肘をつくよりいっそのことテーブルに足を乗せてしまいたいのだが、それをすると隣に座る相田にシバかれることになるから止めておく。

「あの……」

ふいにかかった声に居住まいを正す。そこそこ身長のある男子生徒が相田に促されて向かいの椅子に腰掛けた。この学校は部活の勧誘と仮入部届の提出作業が同時に行われる。前世のオレの学校では仮入部がなかったから新鮮だった。

「じゃ、ここに名前と学籍番号ね」
「はい。あとは…出身中学と動機…?」
「あ、そこら辺は任意だからどっちでもいーよ」

相田が説明込みの指示をして男子生徒が書類に書き込んで行く。間違いがないことを確認した男子生徒が相田に書類を渡して席を立つ。きちんと挨拶をしていくところは礼儀正しくていいと思われる。すぐに人の波に消えていった背中から視線を外して隣の相田に目を向ける。

「おい、ヨダレ垂れてんぞ」
「はっいけないいけない」

慌てて涎を拭う相田はさっきの男子生徒の体格でも気に入ったのだろうか。彼女の目には身体能力が数値化されて見えるから、服の上からでも目星い数値が見えたのかもしれない。あと、相田は生粋の筋肉フェチだ。おそらく。

「なかなかの素材ね……」
「すぐにヘバらなきゃいいがな」
「もー、花宮君はすぐにまたそういうことを……」
「で?今何人だよ」
「そうね…ひーふー…さっきの子で十人目ね。もーちょい欲しいかなー」

相田が数え終わったのを受け取ってパラパラと書類の束をめくる。そこそこ有名な中学の名前もあったりする中、最終的に残る一年が五人しかいないのも考え物だ。そういえば最新巻ではモブ三人衆からひとり試合に出ていたな。オレにとっては最終巻だが。オレがここにいる時点で原作通りに行くとは限らないとはいえ、先がわからないのは不安だ。勝てるように努力は惜しまないけれど。その辺、オレと花宮じゃ違ったりするのだろうか。

うきうきしている相田に影が差す。

「来ました…新入生…」
「バスケ部ってここか?」
「わあっ!?」

小金井が巨人に首根っこ引っつかまれて連行されてきた。相田が悲鳴のような声を上げるが、まあ仕方ないだろう。オレだって原作で知っていなければビビッていただろう。
「…うん」と弱弱しく返事をする相田の心の叫びが聞こえた気がした。「連れて来られとるやんけー!?」というところか。なぜ関西弁なんだ、あの妖怪サトリを思い出して胸糞悪くなってきやがった。

目の前の巨体、火神大我は入部届を提出するだけして説明も聞かずに帰っていった。最後に出されたお茶の紙コップを握りつぶしてゴミ箱にシュート。しながら「どーせ日本のバスケなんてどこも一緒だろ」と一言。これは痛い。将来黒歴史にならなければいいのだが。

「こっ…こえええ!!あれで高一!?」
「てゆーか首根っこ掴まれて帰ってきた理由が知りたいわ…」

小金井がぐったりと机に突っ伏す。まあ確かに威圧感は半端無い。これから誠凛のダブルエースを担って行くのだからそれくらいで丁度いいのだが、今言っても仕方ないか。相田は火神に期待しつつもどこか得心いかないというような顔で考え込んでいる。
ふと机に視線を落とせば集め忘れらしい紙が目に入った。全く気づかなかった。さすがというか、何というか。

「帝光中学……黒子テツヤ……」

ついに始まるのか、なんて考えると気分が沈む。もう一度、あの圧倒的な力の差を目にしなくてはならないのか。オレはいつの間にこんなにも弱くなったのだろう。
帝光中というワードにぎゃあぎゃあ騒ぐ相田に書類を突きつけてスクールバッグに手をかける。気分が乗らない、というか下がってしまったというか。

「花宮君?どこに行くの?」
「木吉んとこ」

遠まわしに帰ると告げて足早に人ごみを縫うように歩く。鉛を引きずっているように足が重くて、けれど歩くことは止められない。
何でか、無性にあいつの顔が見たかった。

131212修正



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