花宮成り代わりin誠凛 | ナノ


あくびをかみ殺す。昨日も昨日とて夜中まで新作のゲームをしていたから非常に眠い。それでも一応学校では優等生を装っているから式中に寝るなんてことは無いようにする。名前の順に並んでいるから寝てしまえば後ろの日向が起こしてくれるだろうが、一応。ちらりと後ろを見ると日向が寝ていた。おい、オレの信頼を返せ。

校長の話はとにかく長い。加えて春の暖かい陽気のせいもあって、オレや日向以外にも既に船を漕ぎ始めている奴がちらほらと見えた。ここに木吉がいたら、あいつもきっと船を漕いでいたのだろう。
もう足のリハビリを始めているだろう木吉は入院中で学校に来ない。出席日数がどうなっているのかは知らないが、クラス表には木吉鉄平の文字があったから一応進級しているようだ。オレは毎日見舞いがてら配布物や課題を持って木吉の病室に行く。どんなに忙しくてもこれだけは欠かしたことがないように思う。

原作では"オレ"に足を壊された木吉だが、オレのチームメイトである木吉は単純にオーバーワークで膝を痛めていた。もう少し遅ければバスケができないようになるところだったくらいだ。いつも一緒にいたのになぜ気づかなかったのだろう、なんて思っても仕方の無いことだが、それでも木吉と一番近くにいたのは確かにオレなのだ。オレが気づいてやれなくてどうするんだと自分を責めたのは記憶に新しい。ああ、木吉は今何を考えているだろうか。

「……おい、花宮」

小さく潜んだ声がオレを責める。後ろを振り返るといつの間に起きたのか日向が険しい顔をしていた。

「何かな日向君、校長先生の話は聞かなくていいの?」
「そのキャラうぜえ」

にっこり笑ってやると軽く頭をシバかれる。ほら、日向はすぐに手が出るんだから。少し落ち着いたほうがいいんじゃないのか。
ふう、と息をついて笑顔を消す。面倒臭そうないつもの顔だ。たぶん、バレバレだけど。

「……で、何?」
「てめえ意識飛ばしてんじゃねーよ」
「オレはおまえみたいに寝てねえけど?」
「ちげーよ!変なこと考えんなっつってんだよ!」
「……さすがオレたちチームの主将だね」
「だからそのキャラうぜえって」
「ふはっ、いいかげん教師にバレんぞ」

半ば強制的に話を切って前を向く。優等生は誰かが話している最中におしゃべりなんてしないんだよ。教室に戻ったら後ろの奴がうるさそうだが、まあ気にしないことにする。
校長の話はまだ終わりそうもない。


"花宮"という名前には覚えがあった。オレが愛読していた漫画に花宮真というキャラがいたのが原因だろう。作中一のゲスでお馴染みの彼だ。そして、今のオレの苗字。どうしてオレがその花宮になっているのかは現在のオレの優秀すぎる頭を持ってしても全く説明することができないのだが、とにかく花宮になってしまった。高校最後のバスケの試合を終えて、何か事故にあったような気もするけど、気づけば花宮真になっていた。最初は何かの間違いだと思いもしたが、確定できる、できてしまう要素が馬鹿みたいに多かったのだ。奇跡のような彼らはもちろん、今現在オレと一括りにされている彼ら、あとは中学の胡散臭い先輩の存在もあるだろう。気づいた時はどうすればいいかを非常に悩んだことを憶えている。
まあ、その悩みも、後の親友に蹴飛ばされてしまうわけだけれど。あいつはとにかく規格外だ。

ようやく校長の話に終わりが見えた。寝ていた奴は近くの奴に起こされながら、生徒は指示どおりに体育館を出て行く。あれ以降居眠りをしなかったらしい日向は後ろで未だ険しい顔をしていた。面白いから笑ってやろうと思う。

「ふはっ!何て顔してんだよ、男前が台無しだぜ〜日向くうん?」
「だーッうっぜえええッ!!」
「何してんだよふたりとも」
「あんたたち、後ろがつっかえるから早く行くわよ」

日向の眉間をつついていると名前の順のせいで前の方に座っていた伊月と相田が寄って来る。急かすのは別にいいがふたりして呆れたような目で見るのはやめてもらいたい。ふはっ、ともう随分慣れてしまった笑いを溢せばまだ納得できないような顔をした日向がずんずん先を行く。

「もう、あんたたちは……何かは知らないけど、あとで日向君に謝っておきなさいよ」
「そうだね……反省してる」

怒らせたわけじゃない、たぶん、心配させてしまったんだ。あいつは人の心の機微によく気づくくせに少しばかり不器用だったりするから。でもそれだけじゃなくてさっきのは勘の部分もあったんだろうなあ、なんて。黙ってたのが悪かったのか。

「……なんて言うわけねぇだろ、バァカ」

原作ほどでないにしろ捻くれてしまったオレは遠ざかる背中を睨みつけて笑い飛ばす。二年はすでにオレたちだけになっていて、伊月や相田に急かされるままに歩き出す。癪だが少し嬉しかったから、欲しがっていた武将のフィギュアでも買ってやろうと思う。



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