花宮成り代わりin誠凛 | ナノ
16


多少乱暴に手を引く日向によってベンチに放り込まれる。すでに相田は選手交代の申請を出していたようで、俺の代わりに小金井が困惑の表情を浮かべながら、けれどしっかりとした足取りでコートに入る。

「何さらしとんじゃワレェ!」
「ちっと頭冷やしてろ!」
「あ、はい」

目まぐるしく動く状況の中で、俺はというと、相田と日向に笑顔で一発ずつシバかれ一応冷静に思考できるようにはなっていた。日向の蹴りが背中に直撃し、相田のハリセンが脳天に直下して、急激に目が覚めたのだ。
そうして平静を持ち直してみると、自分が「やらかした」ということを自覚した。ベンチに座り込んで手で顔を覆う。非常に、恥ずかしい。薄っすらと厨二病を患っている上に大人気ないなんて、なんて救いようがない。
顔を覆う手の隙間から黄瀬を覗き見てみると未だに事態を理解できていないようだった。

「ほら、タオルとドリンク。いつまでそうやってるの」
「……悪い」
「いいわよ、花宮くんがメンタル弱いのは知ってるし」
「容赦ないな」
「だって本当のことでしょ?」
「…………」

ぐうの音も出ないほど言い負かされて、俺は試合が再開したコートを目で追う。黄瀬は少しだけこちらを気にしていたが、しばらくすると試合に集中した。相田も、俺から視線を外して、コートに向き合う。
ボールが地面を叩きつける重い音、鳴り止まない、バッシュが擦れるスキール音。苦しいくらいの熱気に汗が肌を伝っていく。
それら全てが、どこか遠くで起きているように思える。

それから先、俺の頭はほとんど思考を停止していた。黄瀬と対峙する火神と海常の他の選手に必死で食らいつく二年組。声を張る一年ベンチトリオと土田、真剣な、片時もコートから視線を外さない相田。それも、どこか遠くで、自分のあずかり知らないところで起きているような、そんな気がしていた。

「……大丈夫ですか」
「…………それはこっちのセリフだろ」

ただボールを追うだけだった視線をそろりと右に下げる。頭に包帯を捲いた黒子が、目を閉じたまま横たわっていた。

「花宮先輩って意外と繊細なんですね」
「ムカつくなお前。明日のメニュー倍にしてやろうか」
「それは勘弁です」
「あと先輩の目見て話せ、カカオ100%チョコ口に突っ込むぞ」
「やめてください僕はバニラシェイクが好きなんです」
「ふはっ、だが断る」
「この花宮真が最も好きな事のひとつはやめてと懇願する後輩に NO と断ってやる事だ」
「何をするだァー!」

いつの間にか非常にくだらないやり取りになる。初めから、くだらなかった気もするけれど。浅く嘆息してタイマーに目を向けると第3クォーターも残り三分になっていた。なかなか縮まらない点差に誠凛から焦りの雰囲気が出始める。せめて黒子くんがいてくれたら、そう相田が呟くことが、俺は紙面上の出来事ではないことを理解していた。

「……おい、黒子。呼ばれてるぞ」
「はい。……花宮先輩」
「なんだ」
「明日、僕と1on1してください」
「一回でバテんなよ」
「……頑張ります」
「勝ったら、バニラシェイクくらい奢ってやるよ」
「ちょ、それは」
「いいから行ってこい」
「……はい、行ってきます」

普段はちっとも変わらない無表情をほんの少しだけ緩めて、黒子は駆けていく。その背中は、冴えた頭には熱すぎるくらいで、身体を駆け巡る熱がちっとも引きやしない。仲間としてどうとか言う前に、俺は心のどこかで黒子のことを漫画のキャラクターとして見たままだったのかもしれない。だから今、あんなにくだらない会話で、黒子を黒子として認めてしまったのだ。



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