花宮成り代わりin誠凛 | ナノ
15


黄瀬が抜かれた。

今年最大級の衝撃がオレたち海常を襲う。誠凛には、火神以上のプレイヤーがいたのだ。
一年コンビが崩れればあとは点差が開くだけ。それはきっと今ここにいる全ての人間が思ったことだ。瞬間でも、感じたことだ。大げさではないくらい海常と誠凛の差は明確だったのだ。それが、あっという間に覆された。

ベンチに運ばれて行く黒子を見て言ったことを改めなければならないらしい。今オレの目の前に佇む男の、どこかうすら寒さを感じさせる笑みを睨みつける。

「よろしくお願いします、笠松さん」
「……おう」

花宮真という男の名前はよく耳にしていた。恐ろしく頭がキレて、キセキの世代に引けを取らないほどの選手だと。実際、試合再開直後に黄瀬をブチ抜いて見せた。並みではないスキルと黄瀬とは比べ物にならない経験。そして黄瀬の動きを見抜いたフェイクの流れるような一連の動作は完璧に黄瀬を抑えつけていた。

「まさか、黄瀬が抜かれるなんてな……ここまでとは思わなかったぜ、花宮真」

花宮を鋭く見据えると、彼はきょとりと呆けて、凶悪な、笑みを浮かべた。

「いやだなァ……まぐれですよ、まぐれ。」

ぞくり。冷や汗が頬を伝い、身体中を恐怖が走り回る。
瞬きした一弾指の間に、花宮の纏う雰囲気が一変した。どんよりと暗く重い、禍々しい空気に捕らわれる。
さっきまでの笑顔も、背筋が寒くなるようだったが、それでも柔らかい笑顔だった。けれど今は、嘲るような、ひどく凶悪な、笑顔。

「黄瀬くんが油断してくれていたからですよ。オレなんて、キセキの世代には到底敵いません」

黒い、邪悪という表現が適当なオーラが霧散する。「次はもう駄目ですね」とはじめのような笑顔を見せた花宮の恐怖に支配される。されたように錯覚した。視線を反らしひとつ舌を打ってなんとか誤魔化し、試合に集中する。このままでは呑み込まれる。花宮の圧倒的な害悪に。







オレが対峙している彼の思考が手に取るようにわかる。というのは以前の先輩の専売特許なはずだが、二年も傍に居たせいで少し影響されたのだろう。今、笠松はオレの雰囲気に圧倒されていた。

「逃げるんスか」

オレのパスから日向が放った3Pを見ていると、後ろから声がかかった。少しだけ振り向くとそこには黄瀬がいた。

「なんでオレのマークから外れるんスか、オレと勝負しろ」

オレを鋭く睨む黄瀬を一瞥する。黄瀬の後ろでぎゃんぎゃん騒ぐ火神は無視されていて、ちょっと笑ってしまった。

「何がおかしいんスか!」
「ああ……ごめんね、何でもないよ。それと、勝負は遠慮しておくよ」

黄瀬を抜くことができたのは、本当にまぐれだ。黄瀬が油断していたことと、オレの経験が黄瀬に勝ったこと。ただ、それだけ。オレが黄瀬を抜くにはそのどちらも必要で、どちらかが欠けてはならない。だから、これっきりだろう、オレが黄瀬を抜くのは。
そう冷静に考えて、黄瀬の言葉どおりに逃げるとしよう。

「っ!やっぱ逃げるんスか!!勝ち逃げとか卑怯っスよ!!」

それはつまり、お前ら凡人が天才様に歯向かうなんて生意気だ、きっちり負けて泣いてろよ、ってことなのかな。
思いがけない卑怯という言葉に目の前が真っ赤に染まる。
それじゃあ、端から立つ舞台が違うお前たちはどうなんだ。必死で追いかける俺たちを笑って地に落とすお前らはどうなんだ。
ああ、ああ。だから嫌いだキセキの世代。オレはおまえが大嫌いだよ黄瀬涼太!

言いがかりだとは、頭の隅で理解していた。けれど感情が抑えられずに爆発する。

「卑怯……?ふはっ!上等だ。どうせオレたち凡人は天才様には勝てねえんだから、勝ち逃げくらいさせろよ」

自分の顔が歪む、いっそ醜いくらい。黄瀬が固まるのがわかった。ざまあみろと思って、オレは――



「落ち着け!ダァホ!!」

――日向に蹴られていた。



back
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -